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第40話 四大精霊の発見・大精霊祭の演説(第三者視点)

 2788日目~2811日目。

 ――四大精霊が発見された。しかも、大陸の他の国のどこでもなく、王国にて発見されたという。

 大陸中が、この降って湧いた話題に熱狂した。


 古くより伝わる魔術の基礎的な考えによると、世には四つの考えがあった。

 この世にあるすべての生命は、原初の火アータルの輝きから生まれたとする考え――火属性。

 この世にあるすべての作用は、不可視のエーテルの風にて伝搬されるとする考え――風属性。

 この世にあるすべての運動は、流体の流れによって操作されているとする考え――水属性。

 この世にあるすべての物体は、母なる大地より生まれて大地に還るとする考え――土属性。


 世界の根源を説明する、四つの独立した思想を折衷したのが、四大元素論である。

 精霊思想とさえ呼ばれている、この四大元素の考えは、長らく魔術研究の骨子として存在し続けた。もちろん四大属性を否定する魔術体系も存在するが、ほとんどの魔術体系はこの四大属性の考えに賛同し、それを体系の中に組み入れていた。


 四大精霊の存在を実際に確認したわけでもないのに、である。


「それをお前、契約だなんてすげえよ。多分、大陸中がお前に注目している。ついに四大精霊の考えは正しかったのだと、いろんな魔術師が息巻いて興奮している」


「ふえ……」


 忙しいスケジュールの合間を縫って、ぽつんと心細そうにしているシュザンヌに話しかける。

 当の本人であるシュザンヌは、もう泣きそうな顔になっていた。何をどうすれば良いのかわからず、半分パニックになっているらしい。

 蜥蜴なんかもう全然興味がないようで、シュザンヌの首をぺろぺろしている。呑気な奴である。こいつのせいで世界がひっくり返りそうになっているというのに。


「世界で最初に精霊を発見したバスキアも、きっと称えられることになると思う。明日さ、俺、国王と共同で演説を行うんだ。多分シュザンヌも何かしゃべるんじゃないかな」


「……あ、アシュレイ、どうしよう、私、きっと何にもできない……」


 おろおろして半ば駄目人間になっているシュザンヌは、話の大きさに目をまわしていた。

 そりゃまあ困るだろう。分からないでもない。友人の助けに応えて魔物退治を手伝ったら、大陸中から「聖女の再来!」「伝説の騎士!」「救国の乙女!」「大陸史に残る英雄!」とかやんややんやともてはやされることになったのだ。

 こんなの、気の小さい彼女にとってみたら拷問のようなものだ。


「まあ、助け舟は出すから頑張れ。何かいいこといって乗り切れ」


「アシュレイが契約したことにしてよぉ……もう無理だよぉ……」


 泣きだした。




 ◇◇◇




 王国歴196年。

 この日、大陸でも最も喜ばしい、祝福と栄光の日が訪れた。


 大陸からは、【帝国】【共和国】【教国】【通商連合】【皇国】のそれぞれの君主らに加えて、【王国】からも国王が参加する一大催事が執り行われる。大陸の平和と安寧、それぞれの国の交易に向けた共同声明、そして――。


「此度は急な呼びかけにお集まりいただき、誠に感謝する。大陸の統治者たる皆様にこの辺境の地バスキアにまでご足労いただいたのは、史上初めての精霊との契約者が現れたことを、共に祝福いただくためである」


 国王の短い言葉とともに、歓声が爆発する。


 ――大精霊祭。

 聖なる乙女シュザンヌと、火の精霊による、歴史上初めてとなる精霊契約を祝う祭典が、今ここに開催されたのである。


 歴史の一幕に立ち会えたことに、人々は大いに歓喜した。

 ある敬虔な信徒はその場に泣き崩れて生あることを感謝した。ある若い夫婦はこの喜ばしい日に婚約を誓った。ある職人はとにかく分からないが酒を飲んではしゃぎ、そしてふとした瞬間だけ真剣になって精霊に祈った。


 精霊はこの世にいたのだ。


 人々は口々に称える。

 おおシュザンヌよ、おお心清らかなる高潔な女騎士よ、そなたの武勇の誉れ、そなたの誇り高き精神に、精霊様はその姿を現したもうた、精霊様は祝福をあたえたもうた――。


 古代より存在したる火の精霊。名前はない。

 畏れ多くも、/ˈsæləˌmændə(r)/、の記号のみがそこにある。


「聖女万歳! 王国万歳! 大陸万歳!」


 万歳三唱とともに、楽曲隊による盛大な演奏が始まる。ついで、白の教団の教皇による有難い説法と祝福の言葉。




 ――後の歴史書には、かく記される。


 聖女シュザンヌは、この日の人々の喜びとともにあった。

 人々の歓喜を前にして、しかし表情は緩まずあくまで騎士らしく。

 それでも彼女は、大いなる感謝と身に余る光栄に、言葉をなくして、その場で大粒の涙を流して、深く、深く、運命に感謝したという。

 真の英雄には、演説すらいらぬのだ。


 そして、歴史書にはまだ続きが記されている。


 誰もうまく統治できなかった西方の辺境バスキアの地を、わずか八年にしてここまで栄えさせた俊英の青年。

 冒険者として英雄一行【希望の架け橋】に在籍した実力者。冒険者ギルド曰く、将来を嘱託されながらも、本人の強い希望と意志で一行を離脱した、信念の強い男。


 そんな貴族、アシュレイが下記のように演説を行ったとされる。


『此度は王国より、新たなる家紋と紋章を下賜った。バスキア領地の旗は、歴史上初となる精霊の顕現を称え、ここにその精霊の称号を刻む。

 そう、この地は誉れ高き祝福の地、火の精霊の地、バスキアと!』


 ――瞬間、アシュレイはものすごい勢いでスライムに襲われたとされる。

 理由は不明である。


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