第31話 干物の生産・倉庫管理業務の受託
2567日目~2591日目。
高床の倉庫を作り、風通しを良くして干物を作る。漁獲量がうんと上がったこともあって、干物を作る材料に事欠くことはない。
保存に適していて、携帯食にもなるうえ、栄養価も高い干物は、匂いさえ気にしなければ非常に優れた食料である。作り方もそこまで難しくはない。
魚をさばき、内臓や血を抜き、塩をまぶして外気にあてて、しばらく放置するだけ。乾燥させてカビ等の繁殖を抑えつつ、塩と太陽の光で悪い菌の繁殖を防ぐのだ。瘴気払いしておけば、アンデッド化する恐れもない。
(塩も簡単に手に入るし、魚も簡単に捕まえられるし、うちの領地と干物づくりは相性もいい。今までそんなに積極的に取り組まなかったのが馬鹿みたいだな……)
港ができた影響もあって、干物の需要は意外にも増えた。我が領地からの輸出品として外貨を稼ぐ手段にもなるので、港のそばで積極的に干物づくりを推し進めているところである。
他にも、バスキア料理のノウハウと合わせて、干物が美味しく食べられるような料理レシピも誠意開発中である。きっと時間が経てば、うちの料理のレパートリーに自然に組み込まれているであろう。
それにしても、うちの領民の栄養状況がどんどん良くなっている気がする。子供の出生率も上がっているらしく、こうなってくるといよいよ教育に本腰を入れる必要があるかもしれない。
2592日目~2624日目。
バスキア領主の名前を使って、倉庫管理事業を開始する。
うちの強みは物流コストが廉価であることだ。整備された街道と港がある領地にしては珍しいことに、バスキア領では保管費、包装費、荷役費、物流管理費の総額が馬鹿みたいに安い。
商品保管については迷宮を拡張して作った倉庫にスライムがどんどん運び入れてくれる、包装もスライムが麻袋などにどんどん包んでくれる、荷役費についても商品の入出庫やら木箱への詰め込み作業やら分類をほとんどスライムが実行してくれる。
物流管理だけは、きちんと商品在庫数を数え上げてくれる人員を雇わないといけないのでそこに費用がかかるが、それだけだ。
たくさん商品在庫を抱える大手商会からすれば、バスキア領は涎が出るほどおいしい領地なのだ。
(商品をいったんうちの倉庫に預けたら、ついでに煩雑な倉庫管理の業務まで押し付けられるんだから、そりゃ大手商会なんかは喜んで俺に商品を押し付けていくだろうさ)
倉庫業の収入も、バスキア領の立派な収入源になる。
塵も積もれば山となる、とはよく言ったもので、大手商会からあれもこれもと仕事を引き受ければ、総額として受け取ることができる金額はとても大きくなる。
元手がほとんどかからない上、収入の変動が少なく安定しているのも魅力的だ。
それに、倉庫管理を通じて、予実管理や帳簿のつけ方などを勉強できるのも大きい。
うちの領地はほとんど素人集団である。だからこそ、大手商会から会計顧問を何人か招聘して、帳簿付けの仕事を教わりつつ倉庫管理で実践してもらうことで、会計のできる人材をどんどん育て上げたいところだ。
うちはどこもかしこも人材不足である。特に数字に強い人材が少ない。でも帳簿に強い人がたくさん育てば、輪栽式農業の収穫量予測とか、バスキア工房の年間費用内訳の可視化など、今までどんぶり勘定だった部分を引き締めて効率化させることができる。賄賂を取り締まることだって可能だ。
(倉庫管理の仕事を通じて、たくさんの大手商会たちと知己を得られたのも大きい。安く倉庫を貸し出す代わりに、バスキアの石造りの調度品や、高級レンズや、干物をたくさん取り扱ってもらう約束も取り付けられた。たかが倉庫、されど倉庫だ)
大手商会と対等とまでは言わなくとも、顔と名前は売り込むことができた。ちょっといいように丸め込まれているような気もするが、それはそれだ。お互い持ちつ持たれつ、良好な関係を築き上げていきたいところである。