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第30話 海上交易・教会からの寄進の催促・不要な関所の撤廃

 2478日目~2502日目。

 長く調整に時間がかかったが、とうとうバスキア港にて、海上交易が開始された。取引相手は南にある商業連合。王国と商業連合との間で、いきなり大きな通商条約が締結されたのである。すべては絶大な権力を誇る、チマブーエ辺境伯の取り計らいである。

 頭越しにかなり大きな話が進むので、俺はもう傍観に徹する他なかった。バスキア港の経営を行う当の本人なのに、俺はほとんど表舞台に立っていない。国王が出てきたり他国元首が出てくるような話に、子爵ごときの俺が首を突っ込めるはずもない。もちろん誘いはあったがすべて逃げた。


(信じられないな、俺は思い付きで港を開いただけなのに、いつの間にか国王が出てくるような大きな話になっている)


 交易で取り扱う品は、装飾品や毛皮のような高級品、毛織物、ぶどう酒、香料、金属製品のような需要の多い商品。他にも多数の商材を扱う予定である。流れ込む資金は馬鹿にならないだろう。

 そもそもバスキア港は、国王から国定貿易港として指定された貿易港になってしまっている。売り上げの一部は、辺境の総督である辺境伯に一部、国王に一部収めることとなった。美味しい思いをするのは辺境伯と国王だ。俺はというと、利益もあるが仕事もしっかり増えてしまった。


 コグ船、ガレー船、キャラベル船の製造にとりかかり、王国のいろんな商会と話をつけて、ここ数日はてんやわんやだ。趣味で始めた内政なのに、どうしてなかなか忙しいものだ。


 幸い、スライムが仕事を結構手伝ってくれているので、仕事の効率は上昇した。

 最近は、領主署名や領主印の押捺についての報告を彼女に取りまとめてもらっている。とはいえスライムは文字を理解できないので、部下から持ってきて俺に渡すだけだが。それでも四六時中どこかしらに飛び回っている俺への報告が、彼女のおかげで滞りなくできる。非常に大きな進歩だ。

 おかげで俺が死ぬほど忙しくなってしまったが。


(し、信じられねえ。もう子爵やめてやる、もっと部下を雇ってこき使ってやる)


 寝台の上でスライムにマッサージを受けながら、俺は深くため息を吐き出した。最高級の寝具に、スライムの丁寧なマッサージのおかげで、翌日になれば綺麗さっぱり疲労が回復しているのが、なおのこと恨めしい。遊び惚けて暮らすことはできないだろうか。




 2503日目~2536日目。

 セント・モルト白教会から、より一層の寄進のお願いが来た。要するに金の匂いがするからもっと寄越せ、ということだ。ずいぶん厚かましい要求ではあるが、貿易港の開港のタイミングでこんな話を持ち掛けるということは、断ると何か嫌がらせをしてくる可能性もある。対立してもろくなことにならないだろう。

 名目はいかにももっともらしい言い回しで「魔物を住民に迎え入れるとは何たることだ、教義に従わないおつもりか」とずいぶん居丈高な言葉だ。


 金で黙る相手なら金で黙らせていい。

 だが、少々考えがある。


(寄進を焦っている? 金策に窮しているようには見えないが……。もしかすると、出世のための実績作りが目的なのか?)


 司教といえば、教区を束ねる偉い人である。階級は上から順に、教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、となるが、司教まで上り詰めたら相当偉い。

 一つ下、小教区を収めるのが司祭で、バスキア領程度の経済力であれば本来は小教区程度、すなわち司祭しか来なかったところを、無理を言って司教に来てもらった、という形になっている。

 その分、司教にはかなり融通を働かせて利権を与えてきたし、逆に持ちつ持たれつとして教会のもつ特権を一部有効活用させてもらった。互いによい協力関係にあったはずである。


 ところがここにきて急に強気になった。何か理由があるに違いない。

 大司教に選ばれると裁治権が認められる。いわゆる領地持ち貴族と同じぐらいに偉くなるわけだ。もしかすると、この司教は大司教に任ぜられるのを狙っているのかもしれない。


(……どれ、一つ料理してやるかね)


 早速チマブーエ辺境伯に手紙を一つしたためて送る。内容は「推薦したい司教(ちょうどいいカモ)がいる」というもの。彼女なら、俺の真意を汲み取ってくれるかもしれない。




 2537日目~2566日目。

 関所が極めて少ない奇跡の領地、バスキア領。

 普通、関所といえば敵の侵入を防いだり、通行する人や物を検問したり、通行料を取ったりするための施設であり、領地防衛の観点でも収入の観点でも極めて重要な施設である。しかしながら、自由な交易や経済活動の妨げにもなっているのは事実である。この相反する性質に、歴々の貴族たちは頭を悩ませてきた。

 しかし、それがバスキアにはほとんど存在しない。しかも港に街道まで有している。


 これでバスキアが経済的に栄えないはずがない。


(他の領地では、大量の関所を作って、経済の発展の障害になっているところも多いからな……うちの領地ではその点、防衛は全部スライムに任せればいいし、関所の収入なんかよりも経済活動を活性化する方が懐に入る税収も大きくなるし、さほど要らないんだよな)


 不輸不入権を行使したければ、あくまで街の中で大きな税をかければいい。

 自領地内の産業を保護するにしても、別に関所に頼らなくてもいいのだ。

 領民の逃亡? 別に問題ない。今でもひっきりなしに入ってくるし、特に気にもならない。そもそも難民や元盗賊を大量に雇い入れているのに、こんなにうまく領地が回っているので、統治上の心配もさほど大きくない。


(そうだな、そのうちバスキア領地内でのみ使える独自通貨でも作るか。領内移動自由であり、かつ独自通貨を使えば税軽減、ここまですればバスキア内の経済圏も大きくなるだろうさ)


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