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第3話 クソバカでもできる雑内政(地勢調査・土壌の掘り起こし・巨木や岩石の運搬)

 208日目。

 馬車に揺られ続けて二週間。馬車で通れる道がなくなってからは、歩き続けて数日ほど。

 ようやくたどり着いた大陸西の土地バスキアは、びっくりするぐらい何もなかった。田舎どころではない。ど田舎だ。


「というか村が一個しかないのかよ……」


 かなり有り体に言えば、難民が勝手に住み着いているような村である。

 辺境ともなれば国境に砦や見張りをつけるはずなのだが、幸いこの辺りは隣接している国もない。

 そのせいか、そもそも王国の領地、という認識さえあるか怪しい。王家の支配がバスキアには行き届いていないし、行き届いてなくても特に問題がないのだ。


「村長、めっちゃ威圧してきたし……仲良くなれる自信がねえなあ……」


 村長からは、かなり面倒くさそうな態度を取られてしまった。

 そりゃあ今までバスキアに領主なんていなかったんだから、寝耳に水もいいところだろう。

 今まで何も問題なく回っていたところに、突如見知らぬ人が「私があなたの支配者です」なんて顔で来たら当惑するに決まっている。


(まあ、私たちは私たちで勝手にやるんであなたも好きにしてくださいよ、なんて言われちゃったしなあ)


 先程の会話を思い返す。


『なるほど、あなたが新しく着任される領主様ですかな。申し訳ないですが、ここは誰の支配も及んでいない未開拓地ですゆえ、王国からの指図は受けないと思ってくだされ』

『ご覧の通り、ここは何もない村。名前さえありませぬ。バスキアの地にあるので、仮に小バスキアを名乗っております。我々の生活に関知せぬ範囲であれば、どうぞ好きになされよ』


 とまあこんなもの。

 要するに、俺たちの邪魔はするなよ、ということだ。

 こんなもん内政もクソもない。指示系統が機能してない。こうならないために、普通は厳つい軍隊が必要なのだ。ひょろい召喚士一人とスライム一匹の挨拶じゃ、領主としての威厳なんて示すことができようもない。

 俺は舐められてるのだ。


 けんもほろろとはこのことである。

 とぼとぼ帰路につく途中、隣でスライムが、気遣わしげに俺の様子をうかがっていた。

 だが、俺はというと逆に吹っ切れていた。

 どうぞ好きになされよと言ったのだ、じゃあ好きにやってやろうじゃないか、と。




 209日目〜230日目。

 バスキア開発計画が開始した。

 と言っても最初は地味なものである。


 近辺の森の調査。

 近辺の海の調査。

 近辺の山の調査。


 実質、スライムと散歩するだけの毎日である。

 散歩にしても、アホほどでかい巨木や岩石を持ち運んでくるとか、そんなことしかしてない。

 だがこれが大事なのである。


(……こいつ、凄く便利なんじゃね? なんでも恐ろしい速度で食うし、重たいものでも平気で運んでくれるし)


 ――クソバカでもできる雑内政。

 第一は周囲の調査、第二はやたらでかくて重いものを運ぶこと。

 どっちもやっておいて損することはない。

 ひたすら周囲を散策し、重いものをやたらめったら運びまくって、領主着任後の一ヶ月弱は過ぎていった。




 231日目〜248日目。

 村の生活は、実質石器時代の農耕民、といった方が適切だった。

 今までろくな領主もおらず、ろくな交易網もなく、ただ単に難民たちが寄り集まっただけ。

 そんな状態では、いきなり文化的な生活ができあがるはずもない。何せ、ここは王国の貨幣さえ使えないのだ。


 バスキアというのは、もはやほとんど陸の孤島のような場所なのだ。


(とりあえず、土地の掘り起こしをスライムにやってもらうか……)


 スライムに命じて、掘り起こしも兼ねて地面を食べてもらう。

 こうやって命令一つ出しておけば、あとは放置していても勝手にいい感じに、土をもっそもっそ掘ってくれて、ついでに大きめの小石、雑草、塩気の強い表土を食べてくれるのだ。

 本当にうちのスライムは優秀である。


 そもそも、人の手が入っていない未開拓の土地というのは、とても硬い。あちこち植物の根っこが張っているため、それらを切断しようとするとかなりの重労働である。

 それに、この土地は慢性的な塩害に悩まされている。潮風のせいなのか、ここバスキアは大地の表面の塩分濃度が高くなっており、植物の生育に悪い。


 ならばいっそ土地の表面を食べてもらって、塩分濃度の低い土を掘り起こす、というのは大いにありだろう。


(……よしよし、村人にちょっとだけ感謝されたぞ)


 村の人からは、面倒くさい土の掘り起こしを勝手にやってくれたと思われたのだろう。別に敵対しているわけじゃないので、これぐらいの融通はいいだろう。


 徐々に、一つずつ前進する。

 まだまだ先は長い。内政というものは一日にして成らないのだ。

 相変わらずクソバカでかい岩と巨木を運び入れつつも、徐々に広がる耕地を目のあたりにして、俺は満足感に浸るのだった。


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