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第27話 製紙業の発足・卓上遊戯の発明・スライムの異変

 2245日目~2271日目。

 魔術書をたくさん読みたいと思い立ったので、どうせならと製紙業を発足させることにした。紙がたくさん使えるようになれば上等な魔術書を書いてくれる人がこの領地に来てくれるんじゃないか、という安直な発想である。もちろん衛生環境が整っていて水も潤沢で料理もそこそこおいしいこのバスキアは、魔術師が研究生活を送るにはそう悪くない環境だと思ってはいる。


 紙の材料は歴史とともに変わってきた。

 王都では主に羊皮紙が使われているが、カヤツリグサの一種である水草パピルスを使うパピルスの方が歴史は長い。王都でパピルスが使われていない理由は、水草を手に入れるのが困難であったことと、羊皮紙は折り曲げに強く丈夫で冊子に加工しやすかったという二点が理由だ。

 そして、俺が作ろうとしているのは放馬灘紙と呼ばれているもの。正確に言えばそこから製法を発展させたものである。


 まず、材料として麻布、麻のぼろ、樹皮、漁網を集める。エルフの許可を得て森林迷宮の開拓ができるようになったので、樹皮は簡単に集まるだろう。ここは問題ない。

 次にそれらの材料を細かく切り刻み、灰汁で煮込んで繊維を取り出してから臼で挽く。

 そしてもう一度水の中で繊維をふやけさせて、網で漉くのだ。

 最後に網に残った繊維を枠ごと乾燥させれば、紙となる。


「うちのスライムに木材の余りを与えて、細かく破砕するのと、灰汁で煮込むのと、煮込んだ材料を石臼で挽くのと、網で漉くのをまかせたら勝手に紙ができるな」


 工程を見れば、スライムに全部任せてしまっても問題はなさそうであった。強いて言えば、灰汁で煮込んだ材料がきちんとふやけているかどうか確認する作業員が一人必要かもしれないが、あんまり気にしなくてもいいかもしれない。


 ともあれ製紙業もついに発足である。目指すは、紙をバスキアの商品の一つとして輸出できるような状態。図書館の火災などでレプリカの本が燃えてしまって、もう一度書物の複製を作らないといけなくなったりしたときに、うちの領地にその業務を格安で委託できるような、そんな環境にしておきたい。




 2272日目~2296日目。

 卓上遊戯をたくさん思い出したので、その作成をドワーフに持ち掛けてみた。

 これは聞きかじりの知識になるのだが、どうにもbɔ'rdgèimなる卓上遊戯が異世界に多数あるらしい。

 かつて所属していた英雄パーティで聞いたものは、

 reversi:相手の石を自分の石で挟むことによって自分の石へ変換する盤上遊戯。

 chaturanga:歩兵、馬、車、大臣、王などの駒を交互に動かして、相手の王を取る盤上遊戯。

 tabula:サイコロで出た目の数だけ進み、盤上に配置された駒をどちらが先にゴールさせられるかを競う盤上遊戯。

 というものがあった。

 これをバスキアンゲームとして考案して出荷すれば、きっと娯楽として大きく儲かるだろう。そう考えてスライムに石をたくさん加工させて、うちの商品としてルールごと輸出を行った。


(今どき、娯楽なんてほとんどないからなあ。外に出て虫を捕まえるとか、追いかけっこをするとかその程度だ。卓上遊戯を売り出したら、きっとみんなドはまりするだろうな)


 個人的に期待しているのは、この娯楽がいわゆる外交道具にならないだろうか、というものだ。一局やりませんか、といった雰囲気を作り出すことに成功すれば、王国の偉い人たちと一席設ける理由に事欠かない。政治にはあまり興味がないが、踊れもしない舞踏会に誘われたり、何かしらのお祭りやらで大人数の貴族を一気に相手しないといけないよりは、卓上遊戯で限りある人とだけ交流すればいいこっちの方が嬉しい。




 2297日目~2316日目。

 最近スライムがやたらめったら俺に甘えるようになってきた。

 もとより、スライムは俺の生命線。四六時中ずっと核の部分を大事に抱えて一緒に過ごしていたが、そのおかげなのか最近魂の結びつきがさらに強くなった気がする。


 だが、スライムが求めるのはおそらく餌だ。多分餌が足りないから俺にねだっているんだろう。

 今までの経験からそう推察した俺は、道路の拡張だとか、井戸の深堀とか、今は急がないがいずれ必要となる土木作業をどんどん任せていくことにする。これでたくさん食べてくれ、と思ったのだが。


(……俺を食べようとしている?)


 与える餌をどんどん増やしても全然スライムの甘えっぷりは変わらなかった。

 俺の身体にのしかかるようにすり寄ってくるスライムを見ると、どうにもちょっと怖い気持ちが湧いてくる。もしスライムに食べられたら俺はひとたまりもない。

 だがスライムからは害意を感じない。もし単純に俺に甘えてきているのであれば、押しのけるのも可哀そうである。

 それならいっそ、喰うなら喰え、と身体を差し出したほうが踏ん切りがつく。どうせ向こうが食べる気なら、どんなにあがいても一瞬で食べられてしまう。俺ができることは全部無駄な抵抗というものだ。


(どうせならスライム娘に食べられたいんだけどな、やらしい意味で)


 なんて下らないことを考えていたら。

 スライムが俺の口に、口づけを始めた。そして、そのまま緩やかにその姿を変えて――。

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