第26話 定置網漁の実施・森林迷宮の開拓
2189日目~2216日目。
貿易港も順調に建設が進み、かなり立派な外観の港町になりつつあった。とはいえ港に店を構えてもらう商会を現在調整中であり、取り扱う商材もまだまだ決まっていない。さらに交易先も今から新たに調整する必要があるため、港だけ出来てもすぐに貿易は始まらない。
ではその間、海賊にどんな仕事をやってもらうか。
漁業である。
「定置網漁をはじめとした沿岸漁業を実施してもらおうか」
定置網漁とは、海底に網を設置して、やってくる魚を待ち受ける漁法である。
金属の錨と重石代わりの土俵を使って網を海底に固定させて、奥に入ってきた魚がなかなか出ていくことができないような網の張り方をするのだ。
入り口に誘導する垣網と、自由に泳げる広い空間と、奥に待ち構えてある箱網と。
箱網に入る誘導路(登網)はどんどん狭くなっており、出ていくには狭くなった口にもう一度入るしかないのだが、魚の習性上そこにまっすぐ飛び込むのは困難である。
幸い、海賊たちは漁業に明るかったので、コツを教えたらすぐにそれを実践してくれた。というよりも彼らの方が俺なんかよりも遥かに詳しかった。本で読んだ程度の付け焼刃の知識では、到底本職の彼らには敵わない。彼らは海の専門家である。
こちらができることといえば、定置網の設置をスライムに任せたり、破けている定置網を見つけたらスライムに直させたり、勝手に網に付着して網を食べる苔を除去してあげる程度のことだ。あとは、海賊の代わりに指先の器用なゴブリンたちに網を作らせるぐらいか。
今は沿岸漁業のみに専念させているが、いずれ性能の良い船を作ることができた暁には遠洋に繰り出してもらうのもありかもしれない。
2217日目~2244日目。
エルフとの交渉に成功し、森林迷宮の開拓の認可が得られた。何度もあきらめずに粘り強く交渉したというおかげもあるが、何よりも評価されたのは俺の領地政策である。
ドワーフとも友好な関係を築き上げているのみならず、ゴブリンやコボルトとも融和して生活しているというのが、エルフから見てとても印象的だったという。普人族から迫害を受けてきたエルフからすれば、魔物を迫害せずに共存しているわがバスキア領は、信用に足る相手だと判断できたのだろう。
(まあ、共存というほど仲がいいわけじゃないのは向こうも承知の上、だろうな)
この大陸でもっとも信仰されている宗教、白の教団の教義では、魔物を創世神の被造物だと認めていない。意志と言葉に神聖な力が宿るとされる教団の教えにおいては、会話が通じず意思疎通のできない魔物は異質な存在なのだ。
言葉に力が宿るから、この世に魔術が存在する。そして魔術は神の御業である。
そんな神聖な力を持つ"言葉"が通じず、また"意志"さえ持たない魔物なる存在は、白の教団の救済の対象から外れている。
過激な一派に至っては、魔物を邪なるものと断ずる一派さえある。亜人族さえ救済の対象から外れる。セント・モルト白教会もその一つ。
そんな情勢だから、エルフは人間を警戒しており、人との交流を最小限に保とうとする。
そしてそんな情勢であるにも関わらず、ゴブリンやコボルトを奴隷ともせず、一応はうちの住民として迎え入れているバスキア領のあり方は、常軌を逸している。
総合的に考えたとき、エルフにとってバスキア領は、比較的穏当な交流を持てるほぼ唯一の領地になっているのだ。
(それでも気難しいとされているエルフから、森林の探索を許可してもらえたのはとても大きい。森林からは洞窟と比較にならないほどの資源が手に入るはず)
森林開拓をできるとあらば、非常に大きな収穫が期待できる。
木材も然り、薬草も然り、果実や野菜も然り。
加えて、魔物の皮や肉も手に入るとあれば、捕らぬ狸の皮算用をしないものはいない。
もちろん、エルフに許可を取っての開拓となるので、思い切った大規模な採取はできない。森林迷宮はエルフの資源でもある。むやみやたらと乱獲することはできない。
それでも、エルフへの心付けや便宜次第では、森林迷宮の拡張・整備や、迷宮の環境をつかった魔物の養殖なども柔軟に許してくれるだろう。
ともあれ、森林迷宮の調査と開拓がこれで始まったわけである。これからが楽しみである。