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第24話 収穫から脱穀までの作業整理・子爵兼城伯への叙任

 2130日~2153日目。

 小麦の収穫作業から脱穀作業までをスライムに覚えさせる。

 いままで木材・石材の調達とか、道の舗装とか、水路の工事とか、そういった大規模な作業にばかり意識が向いていたので、こういう細かい仕事をスライムに引き取ってもらうことが疎かになっていた。雇用保護の名目もあったし、大鉈をふるうのは控えてきたわけである。


 だが、どうにもこっそり小麦を盗んだりする不届き物がいるらしく、仕方なくスライムに任せることにした。本当にバスキア領は治安がよくない。スライムが暴行犯罪や強盗を取り締まっているので表面上の治安はとてもいいのだが、こういう細かい犯罪がやたらと頻発していて困る。


(小麦の刈り取りはスライムに任せるとして……人じゃないとできない作業と切り分けるか)


 黄褐色に変わった小麦の刈り取り作業。

 麦を小さな束にして結ぶ、麦束づくりの作業。

 乾燥させるために、風通しの良い場所に広げて並べる作業。

 穂から実を落とす作業。

 実を篩に分けて殻、茎、穂軸、石などの不要物を取り除く作業。

 唐箕を使って、軽い実と良い実を選り分ける精選作業。

 かびた粒、変質した粒色の粒、病害虫に侵された粒を取り除く作業。

 精選した実を、網かごの上に広げて天日干しして乾燥させる作業。


 うちのスライムは器用なので、きっと精選作業や病気の粒を取り除く以外は上手にこなせるだろう。病気の粒を取り除く作業も、ある程度はやってくれるかも知れない。

 だが当然見落としはあると思うので、ここでゴブリンやコボルトにだめな粒を取り除く仕事を任せたいところである。


 スライムにも視覚や嗅覚はあるのだが、人間よりも弱い。全身に神経が通っていて感覚受容器がむき出しである半面、触覚以外の感覚はわりと鈍感である。

 高位階梯のスライムなので、もしかしたら視覚も嗅覚も高度に発達しているのかもしれないが、それでも本体から切り離した分離体に作業をさせるので、あまり期待はできないだろう。よって視覚や嗅覚を用いて危ない粒を取り除く作業には、ゴブリンやコボルトも参加させる。


(本能で俺に逆らえないと痛いほど学んだゴブリンやコボルトのほうが、ある意味信頼できる)


 皮肉な話だが、いつの時代も悪い人間が足を引っ張るのだ。




 2154日目~2188日目。

 なんと、子爵に叙任されることになった。叙任式はチマブーエ辺境伯の邸宅にて執り行われる。

 合わせてバスキア城の城伯にも任命された。伯爵という言い回しは、かつての古代帝国属州の政務官の補佐役を指した語に起源を持つ。つまり、王国の西方の州の政務を任されたチマブーエ辺境伯の補佐となるため、バスキア領の城塞や都市の司令官である城伯に任じられた、ということになる。ややこしいしちょっと今の制度とずれている気がする、が気にしない。


 領地について五年程度。異例の速度で城伯に出世した俺に任された役目は、簡単なものだった。


「バスキア港の管理、バスキア洞窟迷宮とバスキア森林迷宮の調査と開拓、これらをチマブーエ辺境伯の配下と共同してあたること、だと」


 なんとも嫌な指示である。ピンポイントで急所を押えられてしまった。相手がどうとでもなりそうな雑魚伯爵ならともかく、百戦錬磨のチマブーエ辺境伯と共同作業となると結構厳しい。

 おいしいところは取られて、面倒な仕事は押し付けられるような気がしてならない。だが王国法の制限で、高位貴族と協力してあたることが指定されているので、チマブーエ辺境伯の協力を仰ぐのは不可避である。仮に今から他の伯爵を探そうとしたところで、チマブーエ辺境伯に逆らうような真似をするやつはいないだろう。詰みだ。


 ――優位をとれる相手には、優位をとれるうちに徹底的に主導権を握ること。

 チマブーエ辺境伯から教わった手管の一つである。飼い殺しという表現の方が正しいかもしれない。本当にこの御仁は侮れない。


「文句はないはずですよ。あなたの欲しい権限はすべて私が与えました。士爵位のままでは開港も迷宮開拓も何もできなかったはずです。それに、権限の拡大に伴う異例の出世で周囲からやっかみを買うかもしれませんが、それも私がとりなして差し上げます。周囲にやたらめったら喧嘩を売るようなあなたが、陰惨とした権力社会の貴族界にいて、今もなお首と胴体がつながっていることに感謝なさい」


「しかしこれでは、おいしい部分を全部進呈しているようなものだ。迷宮開拓も港の管理も独自裁量が認められてこそだ。やる気なんて出るはずもない」


「そこを交渉なさいな。お勉強ですよ。いつでも付き合って差し上げます。一つ助言をすると、私も海軍の運用に明るくありません。あなたに裁量を与えますから、自由におやりなさい」


 これである。まるで先生に教わっているような気分になるのも癪だ。

 きっと若いころは、美貌とこの手管で大いにもてはやされたに違いない。


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