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第22話 ゴブリンとコボルトの併合・薬草の採取と仕分け

 2022日目~2048日目。

 山の洞窟に住んでいたゴブリンたちとコボルトたちが、とうとうバスキア領に恭順と忠誠を誓うと申し出た。

 足掛け三年近く、ずっと辛抱強く撃退してきた甲斐がある。それも圧倒的な暴力で根絶やしにする方法ではなく、撃退しては追い返すだけ、というとても無駄な方法だ。力関係を教え込むような形で、どうやっても逆らえないことを本能で学んでもらって、ようやく漕ぎつけた決着だ。


 代表して、王国語がわかるゴブリンシャーマンに来てもらい、バスキア領主とゴブリン・コボルト両氏族との間に契約が結ばれる。平たく言えば、ゴブリンもコボルトもうちの領土の住民になる、というものだ。


 領民に衝撃が走った。

 まさか魔物が、それも王国語を理解しない低位階梯の魔物が、同じ領地の住民になるとは思ってもいなかったらしい。

 バスキアの村にもともと住み着いていた連中は露骨に嫌悪の表情を作った。後から来た野盗の連中も、海賊の連中でさえも、魔物なんかが住民になることは到底耐えがたい、という顔を作っていた。

 極めつけは司教である。あのセント・モルト白教会のクソ司教が「我が白の教団の教義に反している!」と抗議の声を強く上げたのだ。


(好き勝手な奴らだな。ドワーフやエルフは良くて、ゴブリンやコボルトはだめか。俺は博愛主義者じゃないが、使える奴はとことん使うつもりだ)


 もとより、バスキアの領地に住んでいる連中は、不当にその地に住み着いているだけの流民である。王国から追放された難民という背景をもつ彼らが、今度はその過去を忘れて他者を排斥しようとしている。これは非常によろしくない。

 確かに魔物が同じ領地にいるのは危険だろう。会話もろくに成立せず、きっと怖いだろう。だからこそ魔物の家畜化(・・・・・・)を通じて、少しでも魔物の存在を身近に感じてもらおうとしたのだが。

 徐々に領民を魔物に慣らしていって心理的抵抗を減らそうとしたのだが、さすがに失敗だ。


「で、逆らうやつはいるかね?」


 バスキア領主会議にて、俺は集まった連中にあっさり問いかけた。露骨な質問だ。だが、俺はこれぐらい直截に会話できる方がいいと思っている。

 苦虫を嚙み潰したような顔をした領主代行、尚書、法官、財務官、その他うちで雇っている内政官たち。

 唇を強く噛んで微塵も怒りを隠そうとしない、セント・モルト白教会のクソ司教。

 憮然とした表情を崩さないケルシュ、スタウト、アルトの一族の元頭領。

 ヴァイツェン、メルツェンの両海賊団長に至っては、まだ負けた恨みが残っているのか、敵愾心さえも隠そうとしない。


 しかし、険悪な雰囲気をよそに、反対意見は出ない。

 当然だろう。今ここで俺に反対すれば、どんな目に合うか分かったものではない。ここにいる連中の半分以上は俺のスライムを体内に取り込んでしまっている。俺に逆らって勘気に触れてしまえば、即座に内臓から食い荒らされて殺される恐れがある。

 もちろん俺はそれを実行するつもりはさらさらないのだが、それでも命令一つで殺される恐れがあるというだけで、反抗心を大きく削ぐことができる。


 俺が普段からスライムを酷使しているからこそ、彼らはその恐ろしさを毎日目の当たりにしている。どこからでも現れて、下手な刃物も通用せず、人をがっしり捕縛する。あるいは岩も地面も金属も思いのままに溶かす。

 野盗や海賊の連中に至っては、スライムと戦った経験があるだけに、殊更力の差を強く感じているだろう。


「大丈夫だ、ゴブリンやコボルトもしっかり住む区画を分け隔てるさ。心配することはないさ。腕に目印のバンダナを巻きつけて、野生のゴブリンたちと見分けられるようにしようじゃないか」


 俺の決定は絶対である。

 かつては威厳も何も全くないし、仕事も全然みんなに押し付けるだけだし、領民たちからはただの便利なお手伝いさんとしか思われていなかった俺でも、この五年の領主生活を通じて、それなりに威厳が出たらしい。野盗も海賊も力で捩じ伏せて平伏させてきた、という実績があるだけに、苛烈な一面もあると徐々に認知されているようだ。


 結局、ゴブリンとコボルトを受け入れる、という決定は覆らなかった。誰も覆すことはできなかった。




 2049日目~2077日目。

 スライムにできないが、ゴブリンやコボルトにできる仕事がある。それは薬草の探索と仕分けである。

 身体をいくらでも伸ばせるスライムなら、それこそ圧倒的な広さを面探索できる力があるが、それだけだ。匂いをたどって薬草の潜んでいる場所を効率よく掘り当てたり、似たような薬草と毒草をきちんと選り分けたりすることは、スライムにはできない。


(エルフとの交渉も徐々にうまくいってるし、そろそろ森の迷宮の探索許可が降りそうだから、ゴブリンやコボルトたちの力は借りたいんだよね)


 さらにありがたいことに、ゴブリンらは彼ら独自の薬草のレシピを持っていた。ゴブリンシャーマンがその手の知識に明るかったのだ。もちろんうちの街にも薬師はいないわけではないが、正直大した腕前ではない。

 もちろん効果のほどを実証実験する必要はあるが、有用性がきちんと確かめられたら、どんどんそれを量産したいところだ。


 近いうち、エルフとも交流を持つ予定である。エルフからも調薬の知識をぜひ授かりたいところだ。それまでの間に、我が領地にも薬草をきちんと選り分けられる人員がほしい。


(これでようやく、うちの領地の疫病対策は盤石になるな。今までは無理やりスライムを酷使して、水を浄化して街を清掃して害虫を片っ端から駆除したりして、間接的な衛生対策をとっていたけど、きちんと病気になった時に治せるだけの医療環境を固めるのも大事だからな)


 いっそのこと、ゴブリンやコボルトの取ってきた薬草をセント・モルト修道院に引き取ってもらおうか。そうすれば白教会の司教も強く反発しにくいはずである。




 2022/04/30:誤字修正(ご指摘ありがとうございました!)


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