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第19話 海賊団の壊滅・巨大レンズを利用した収斂発火

 1885日目~1911日目。

 海賊からの攻撃が一気に静かになる。さすがに200人も捕虜にとられたのは身に堪えたのだろう。

 そもそも、海賊団の規模からしても我が領土に召しとられてしまった捕虜は無視できないはずだ。

 ヴァイツェン海賊団とメルツェン海賊団は多めに見積もって、それぞれ1000人程度の規模だと言われている。船の数はそれぞれが60隻ぐらい。二つ合わさって大体100隻よりちょっと多いぐらいである。


 これ以上の数になってくると、そもそも海賊団の維持自体が厳しくなってくる。

 海の上、もしくは入り江の地形に暮らしているとして、では普段の食料やら生活用品やらをどこで仕入れているのか、という話になってくるからだ。海から得られる食料はあまりにも偏っている。鶏卵や家畜の肉のようなたんぱく質の源も、根菜類もないわけで、魚やら貝やら海藻から栄養を摂取するしかない。真水でさえ摂取するのが非常に難しくなっている。

 つまりどこかの村なり行商人なりから、ひっそりと食料等を仕入れているわけで。正直仕入れ先を突き止めるのはそう難しくなさそうなので、いずれはスライムに特定させてやろうと思っている。


(まあ、正面からの襲撃が難しいとなったら、今度は海賊も作戦を変えてくるよな。そりゃそうだ)


 俺は沿岸にある塩田を眺めながら、苦笑を隠せなかった。

 敵の報復はどうくるか。当然、何もせず泣き寝入り、というのは海賊の気性としてありえない。舐められたおしまいというこの裏稼業で、こんなに大々的に喧嘩を売られているのだから、当然俺に対して何らかしらの報復を考えているはずだ。恐らくは、捕まらないようにゲリラ的な嫌がらせの戦法になるはずである。


 そしてその読みは当たっていた。連中は矛先を変えたのである。

 まず、連中はうちの塩田を汚してきた。糞尿を投げて塩を売り物にできなくしたのである。原始的な方法だが効果的な手だ。

 他にも、俺を直接狙うのではなく、街道を通行する行商人を襲ってきた。間接的な攻撃に切り替え始めたのだ。バスキア領地に攻撃が届かないなら、バスキア領に向かう行商人を襲うことで、うちに届く物資を横取りしたり、うちの領地の経済活動を鈍くさせようという狙いがあるわけだ。


 残念ながら、どちらも失敗したわけだが。

 うちのスライムがあちこちの地面に潜んでおり、海賊の襲撃に合わせてそのまま連中をからめとってしまったからである。

 無理もない。足元から急に現れて、音もなく体の自由を奪ってくるスライムなんかに気づくはずがない。しかも街道といっても、連中は結構広域に散らばって周到に襲撃を狙っていたわけで、これが散らばった部隊全て一網打尽にされただなんて思ってもなかったはずだ。

 うちの街道はそれぞれ四つの領地の方向に伸びているが、その四つにだいたい30人~50人ぐらいが程よくばらけて配備されていた。これが普通の領地であれば、襲撃作戦は大成功していただろう。だがうちには化け物のスライムがいた。四つの街道ぐらいならまんべんなく身体を伸ばして見張ることができるぐらい、うちのスライムは成長してしまっていた。


(しかし、街道の行商人を襲いだすとなると、いよいよ潮時だな。そろそろ海賊にとどめをさしてやろうか……)


 行商人を襲い始めたということは、なりふり構わず俺に嫌がらせを試み始めたということである。これを放置すれば、例えばアルチンボルト領並びに俺が懇意にしている他の貴族たちへの嫌がらせがきっと始まるに違いなかった。嫌がらせが始まってからは戦いは長くなる。簡単に泥沼化してしまう。向こうはちょっとでも不利になったり被害が出そうになれば逃げるだけでいいし、こちらは毎回いつ襲撃が来るのか分からないまま守りに備えなくてならないので、大体消耗が大きくなってしまう。

 俺の契約しているスライムが特殊なだけで、普通こんな嫌がらせをされたらたまったものではない。


 一つ策がある。この作戦を思いつくこと自体は簡単だが、あまりにも馬鹿馬鹿しくて、実行に移せるのはきっと俺ぐらいだろう。

 二大海賊団はまだ合わせて1500人ぐらいの規模が残っていると予想される。腐っても敵は歴戦の海兵。油断ならない相手だ。

 だがしかし、こと遠距離からの攻撃に限って言えば、俺のほうが一枚も二枚も上手である。




 1912日目~1938日目。

 収斂火災という現象がある。凸レンズ状の透明な物体、あるいは凹面鏡状の反射物体によって、太陽光が収束して起きる発火現象である。

 この現象自体は古くから知られており、例えば古くからある土着信仰では水晶で太陽光を集めて焼灼止血法を行っていた、と歴史書に記載されている。


「ほうら逃げろ逃げろ。スライムに大きな凸レンズになって光を集めろ、と一声命令するだけで、お前らの船なんて簡単に燃やせるんだよ」


 収斂された光の筋が、片っ端から海賊船の帆に火をつけていく。蓋を開けてみれば、あまりにもあっけない。戦いはあまりにも一方的だった。

 海の中に入ってもらったスライムに、目いっぱい体を広げてもらい、太陽光を集めるレンズになってもらうだけ。

 たったこれだけで、天下にその名を知られ渡った海賊団が、みるみると船を焼かれてその数を減らしていった。

 海に飛び込んだ海賊は、端から順番にスライムが絡めとっていく。ほぼ全員これで捕縛することができたはずである。


「それにしてもちょっと残念だな。海賊船はなるべく無傷で拿捕したかったんだけど、無関係の人を襲い始めるというなら仕方ない」


 その日、二つの海賊団は地図上から存在を抹消された。そして我がバスキアの領地には、1000人以上の海賊が集まったのだった。

 きっと有能な海兵になるに違いない。航海の経験はもちろん、忠誠心も疑いようのない、屈強で優秀な海兵だ。

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