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第15話 塩田開拓・社交界への進出・隠密部隊の設立

 1528日目~1556日目。

 スライムがまた最近成長したおかげで、まだまだ仕事ができそうなので、どうせなら塩田を作ろうと思いつく。

 主には揚げ浜式の塩田。人力で海水をくみ上げて、天日に干して塩を作るといった方式である。

 もちろん使うのは廃村跡地。せっかく先人が作り上げてくれた塩田があるのだから、それを有効活用させてもらう。


 スライムに頑張ってもらい、海水の汲み上げを昼夜問わず行ってもらったら、あとは放っておいても塩分濃度の高い砂が得られる。そして不純物にあたる砂の部分を食べてもらえば、純度の高い塩が手に入る。

(※本当は砂ごと水にとかして、塩分濃度の高い塩水にして、それを煮詰めて塩を作るのだが、スライムが不純物を食べてくれるのでそんな面倒なことはしていない)


「できれば塩の輸出も、うちの一大産業に育て上げたい。スライムのおかげで人件費をほとんどかけずに塩を精製できるから、きっとうちの塩は価格競争ではどの領地にも負けないはず」


 穀物主体の食生活になると、植物に多く含まれているカリウムの摂取量が増えてしまう。過剰なカリウムを排出するには、ナトリウムを摂取する必要がある。

 塩は生活に欠かせない調味料である。その塩を、うちの領地から大量に輸出できるようにしたいのだ。




 1557日目~1585日目。

 チマブーエ西方辺境伯の誕生祭が開かれるそうなので喜んで出席する。

 領主不在の間は、領主代行のおっさんがこの領地を仕切ることになる。というより普段からほとんどそうなので、あんまり変化はない。すごく嫌そうな顔をされたが、領主権限で最後まで押し切った。


 辺境伯の誕生祭はとても豪華絢爛だった。おかげで服装がしょぼい俺は浮いてしまった。だが関係ない。服装などどうでもいいのだ。

 話の輪に無理やり入り込み、辺境伯に話を持ち掛ける。

 適切な手土産を思いつかなかったので、ドワーフに作ってもらった宝石細工を進呈する。あと、用水路工事や道の舗装を格安で引き受けるかわりに、海賊討伐に力を貸してほしいと持ち掛けた。


「……なるほど、一考の余地はありますね。ですが、いささかこの場で話し合うにはそぐわない話のようですね」


 初老の淑女である辺境伯閣下は、当惑を隠しきれない様子で、あいまいに話をそらした。話が大きすぎるからなのか、この場では判断がつかないということらしい。

 まさしく、上品なお婆さんが困った話をいなすようなやり方だった。

 だが俺が欲しい回答はそうではない。


「もし、かの悪逆非道の海賊たちをうちの勢力下に併呑することができれば、辺境伯閣下の海軍として認めてもらえますか? 具体的には、辺境伯の名による私掠免許と、敵国から攻撃されたときの報復的拿捕認可状を与えていただけたらと思います。引き換えに、私掠行為で上げた利益の一割を進呈いたしましょう」


「……海賊を勢力下におくことができる見込みはあるのですか?」


「あります。この場で私に協力、出資いただける方には何らかの便宜を図る用意もあります」


 逆に、この場で協力を申し出なかった人は、ちょっと申し訳ないが利権に噛むのは辞退してほしい、と言外に主張する。


 海賊の無力化が成功したら、莫大な利権が手に入ることは想像に難くない。しかし海賊はきわめて手ごわい相手。

 正直なところ、海賊討伐なんて全く確証のない話に聞こえるだろう。

 それに出資しろだなんて、酔狂な話にもほどがある。

 となれば普通、この話を聞いた貴族はこう考えるはずである。上手くいってから後乗りで利権に一枚噛もう、と。


 そんな鬱陶しい連中がうじゃうじゃ現れることは目に見えていたので、この場でふるい分けたかったのだ。


「バスキア士爵殿、いささか急な話のように思われるが。その証拠に、チマブーエ辺境伯閣下も困っていらっしゃるように見える。もう少し話に具体的な算段がついてから、改めて交渉を進めようではないか」


「正直に申し上げます。海賊は十中八九討伐できるでしょう。だが、討伐が成功した暁に、後から鬱陶しくすり寄ってくる連中が湧いて出てくるのではないかと危惧しております。なので、できれば私は辺境伯と王家と、あとは限られた貴族のみに利権に噛んでほしいとさえ考えているのです」


「なんと不遜な……!」


 喧嘩を売っているように聞こえるかもしれない。

 だが、俺は本音をそのまま包み隠さずに発言した。

 平民上等。田舎貴族上等。貴族同士のお作法なんてどうでもいい。


「実をいうと、名目が欲しいのです。この場で出資を断ったから、後乗りで利権に噛もうと意気揚々こられても困るよ、と断るつもりです。後乗りしてよいのは辺境伯閣下と王家のみ。それ以外の方は、今のうちに腹を決めていただきたい」


「話にならん、なんと不遜な男だ!」


「出資いただいた方には、港町に作る貿易商会の証券を進呈しましょう。船の建造、港の建設、商会の設立、商品の輸送――とにかく莫大な金が動きます。

 商会設立に伴う商流の確立は、私ひとりでは手に負えない。中央貴族や豪商とのつながりもなければ、大きな話を進めるだけの信用もないですからね。だからこそ、出資いただいて証券を買っていただいた皆様に、その利権を部分的に譲渡いたします。お持ちいただいている証券の割合にしたがって、利権を割り当てるつもりです」


 利益を独り占めしても、商流は発展しない。

 おいしい話は他の有力貴族にも一緒に噛んでもらってこそ、物流網が広がるのだ。儲けを増やすため関係者が躍起になってくれるからこそ、俺は放置していても儲かる。俺が放置して俺が儲かる仕組みになれば、とりあえず何でもいい。


「申し訳ないが、正直なところ、支援者はそんなに欲しくない。なんて生意気な奴だ、とこの場でご破算になってくれた方がありがたい。おいしい話は限定したい。後からおいしい話に噛めなくなって、なんだ面白くない、と拗ねてやっかみをかけてくるようなダサい奴はこの場にはいないと信じているが……そういうやつがいたら、遠慮なく社交の場で暴露する。そのつもりでいてほしい」


 お分かりのとおりだと思うが。

 ――社交デビュー、大失敗である。




 1586日目~1617日目。

 ケルシュの一族、スタウトの一族、アルトの一族から適当に人員を選び、「隠密部隊」として各地を巡ってもらうことにした。

 隣接する領地――アルチンボルト領、ボッティチェッリ領、デューラー領、ブオナローティ領、それぞれの領地の様子を探ってもらって、何が売れているかの市場調査、市民議会では何が議論されているかの政治事情の調査、などを簡潔にまとめて報告してもらう。


 諜報活動なんて当然やったことがないので、ノウハウもほとんどない。なので、ゼロから積み上げていくしかない。

 だがまあ、しばらく続けていけばいろいろ見えてくるものあるだろう。


 もしかしたら諜報員が裏切ってこちらの情報を吐露するかもしれないが、その心配はあまりないと考えている。スライムを飲み込んでもらっているからだ。裏切ればはらわたを食い破られて死ぬ。そういった印象が強く刻み込まれているはずだ。


(気が向いたら風説の流布もやってもらおう。この四領主が俺を裏切るとは思っていないけど、万が一そうなったときは、領内から搔き乱してやる)

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