第13話 迷宮の発見・ドワーフへの鉱石類の進呈
1282日目~1311日目。
社交界にまったく顔を出さないので、さすがに周囲の貴族に不審がられたりすることが多くなった。
今のところは、アルチンボルト男爵、ボッティチェッリ男爵、デューラー男爵、ブオナローティ男爵、ぐらいしか交流がない。書面だけの交流を含めたら、チマブーエ西方辺境伯と、あとは王家。
全然貴族と交流をしていない。というかしたくない。
面倒なしがらみが増えるので、変に顔を出したくないというのが本音である。
ただし、顔を出さなければ顔を出さないで、逆に面倒なことに巻き込まれることもある。
何を勘違いしたのか、大したことのない商会だとかどうでもいい弱小貴族から縁談を申し込まれたりするのだ。
最近儲かっているから、ちょっと縁つなぎしたいと
いや、俺も士爵程度の木っ端貴族なので、そんなに贅沢は言ってられないのだが、どうでもいい縁談なんて何の実りもないわけで。
「……社交界デビューするかねえ」
とはいってもダンスはできない。整った服装も全然持っていない。
第一、社交界に入ったところで特に情報交換したい相手もいないし、つながりを強くしておきたい貴族もいない。
あれこれ社交界に参入しなくてもいいやつでは、と疑問が頭をよぎったが、海賊退治に向けたいいアドバイスをもらえるかもしれないと思い直して、やはり社交界にいったん出ておくかなと思い直した。
(……恥かいてなんぼだな。田舎貴族と思われてもいいや。というかいっそ平民丸出しで出ていくか)
今度機会があれば、の話だが。今度チマブーエ西方辺境伯が大きな催しを開いたら、挨拶をかねて顔を出しにいくのがいいかもしれない。
1312日目~1366日目。
なんと、山の探索中に迷宮を発見してしまった。これは衝撃的な情報であった。
迷宮について説明すると、魔力のゆがみが原因で生じる現象の一つであり、平たく言えば「魔物や資源が湧き出る場所」である。
その濃密な魔力の作用ゆえか、外観と内部構造につじつまが合わなくなっており、明らかに外観よりも拡張されて広くなっている迷宮、なんてものもざらに存在する。
ちょっとでも扱いを間違えると魔物の大群暴走を招く危ない代物だが、上手に管理すれば資源を無限に生み出す、まさに金の卵を産む鵞鳥でもある。
そのため、どのような迷宮であっても発見次第、地方伯と王国に届け出る必要がある。
届け出なければお家取り潰しもありえる大罪となってしまう。当然だろう。魔物の大量発生を招く危険性、巨万の富を産出できる可能性、どう考えても王国や有力貴族が放置するはずがない。
(でも士爵程度の貴族じゃ、どう転んでも迷宮は取り上げられてしまうよな……)
有力な貴族たちは、迷宮を『領地荘園』として管理している。自主経営権が認められるのは少なくとも伯爵位になってから、だろう。
子爵や有力男爵ぐらいでも、もしかしたら、どこか有力な貴族とかとの共同開拓権は認めてもらえるかもしれない。
(……王国にとりあげられないように、うまいこと考えるか)
ますます社交界に出て、政治力を高めないといけなくなってしまった。厄介な話である。
とりあえず先行調査といった名目で、迷宮の安全調査と開拓に取り掛かるのだった。
1367日目~1411日目。
いままで馬鹿ほど山を掘り進んできた過程で出てきた、綺麗な結晶やら色つきの岩石。
これらは現在、街に作った倉庫にごろごろと眠っている。
たくさん蓄えられたこの鉱石類を、「たくさん余っているから、よかったらドワーフに進呈したい」と持ち掛けてみると、彼らに驚くほど喜ばれた。
橄欖石、斜方輝石、単斜輝石、角閃石、磁鉄鉱、石英、黒雲母、白雲母、斜長石……鉱石の種類は無数にある。
これらの斑晶が偶然大きく成長したものを、スライムは綺麗に選り集めることができた。
火山の噴火で地面に出てきたマグマが冷えて固まり、火山ガラスと斑晶の入り混じった岩石になる。だが火山ガラスは比較的早く風化が進む。
そしてスライムは、大きく育った斑晶部分をうまく残して、風化した火山ガラス部分を綺麗に食べてくれるのだ。
普通であれば、ハンマーで叩いたり岩石を割って取り出さないといけないのだが、スライムの手にかかれば、ほぼ無傷で取り出せるのだ。おかげで品質の高い斑晶をたくさん得られた。
(でも、うちには工芸の技術がほとんどない。交易が増えたおかげで、木工とかの簡単な技術職人がちらほら生まれ始めたけど、その程度だ。ドワーフになんとか工房を構えてほしいんだが)
話は順調に進み、とうとうドワーフの集落とうちの街との交易が始まった。友好の第一歩である。
この調子で、どんどん仲良くできる勢力を増やしていきたいところだ。具体的には、森に住まうエルフの氏族とかが狙い目かもしれない。