第10話 領主代行への裁判権委譲・魔物の飼育実験・弓の名手の召し抱え
972日目~988日目。
人が増えるに伴って揉め事もたくさん起きた。
村にもともと住んでいた住民。後からやってきた元野盗の連中。交易で行きかう人たち。文化も違えば考え方も違う。揉め事はしょっちゅう発生した。
だが、俺はあえて放置した。
全部あの村長に任せたわけである。あの偉そうなおっさんにも、ちゃんと仕事をしてもらう必要があった。
俺の威厳は不要だが、あの領主代行のおっさんには威厳が必要である。複数の氏族を併合して人が増えてきた以上、統制を示してもらう必要があった。
(俺の場合、最悪スライムに頼ればいいからな)
まごうことなく、虎の威を借る狐である。
だが、無用な威厳はただ単純にイエスマンを増やしてしまうだけ。健全な行政とは言えない。
必要な時ににらみを利かせられる程度に力があれば十分なのだ。そして俺にはその力がすでにある。暴力だ。
(領主だし、得体のしれないスライムを使役できるし、俺に逆らう奴はそうそういないしな)
まあいるにはいるんだが。酒に酔って俺を侮辱したり喧嘩を売ってきたりするやつ。
でも、そういうやつには痛い目を見てもらっている。裸で踊ってもらったりとか。
(……裸踊りがうちの村の名物になってるの、ちょっとよくないよなあ)
風の噂で耳にしたことなのだが、バスキアの裸踊り、とか言われてちょっとした名物のようになってしまっているらしい。領主としてはちょっと微妙な気持ちである。
989日目〜1026日目。
「あ、魔物を家畜にすればいいじゃん」
今更気付いてしまった。外部から家畜を仕入れなくても家畜は調達できるのだ。
一長一短ではあるのだが、魔物を家畜にすることはできなくはない。スライムをちぎって食べさせれば、反抗的な魔物でも無理矢理押さえつけることができる。
では何が短所かというと、通常の家畜より味も育てやすさも劣るのだ。長い年月をかけて品種改良を行ってきた家畜のほうが、野生の魔物よりも当然食用に優れている。
だが、俺の直感が、魔物を家畜にするほうが儲かると囁いている。
既に美味しい家畜を使った料理技術より、魔物の肉でも美味しくなるような調理方法が発展するほうが、ノウハウとしての質が高いはず。
それに、輪栽式農業と相性のいい魔物を見つけることができれば、未開拓の地に農業を広める一助にもなる。
(まあ、うちのスライムの力さえあれば、魔物の脱走なんて起きないんだし、ものは試しだ。魔物をどんどん捕らえて家畜にするかね)
1027日目〜1029日目。
射的の大会を通じて見つかった弓の名手を、村の召し抱えの兵士に任命する。
ケルシュの一族から二人、村に元々住んでいた人から一人。
ちょうど村の猟師をもっと増やしたかったところなので、渡りに船である。
(個人的には、村の防衛は村自身で行ってほしいから、弓の使い手を増やしたいんだよな)
遠距離武器といえば、他にも投石や投槍などがある。
だが弓矢は、矢筒があれば矢を何十本も持ち運べる。持ち運びが可能で、重さがあまりないのだ。
さらに、弓は矢を弦につがえた状態でも移動ができて、物陰に隠れたりしながら攻撃を放つことができるし、咄嗟の判断で狙いを変えられる。投擲の身振りが大げさになりがちな投槍などと比べると、弓のほうが防御面も小回りが利く。
なお、大型動物の狩りについては、槍の方が威力があるのだが、村の自衛が目的であれば弓でも問題はないだろう。