第9話 村の拡張・少数氏族への仕事割り振り・施設増築と娯楽の提供
880日目~916日目。
野盗らにも氏族があるらしい。彼らは野盗というより少数民族と表現したほうが適切だった。
だがそんなのは土台どうでもよかった。俺にとってはこき使える連中、それ以上でもそれ以下でもない。
とはいえ、これで村の半数が野盗の連中になってしまった。
村の雰囲気は最悪であった。
野盗の連中を招き入れたことで、もともと村に住んでいた連中からの反発がものすごかった。盗賊は殺せ、といった声がたくさん挙がった。盗賊のことを恐れているらしい。まあ当然のことだろう。
(食料も豊富で食うに困らない環境、水も潤沢で快適な住宅も保障されている。この環境できちんと更生するやつがどれだけいるか、だな)
念のため、野盗の連中にはスライムを小さくちぎったものを飲み込ませた。
村の掟に逆らったとき、体の中を食い荒らしてもらうためだ。
住む場所も明確に分けた。柵を作って、乗り越えたものは鞭叩きの刑に処すとお触れを出した。
ここまでしてようやく、野盗の連中は村に住むことが許された。
村に、というよりも正確には、村を拡張して新たな集落を作ったという方が正しいのだが。
917日目~944日目。
「野盗ではない、我々は誇り高きケルシュの一族だ。我々の住む森の近くを無断で横切った奴らから、食料を徴収していたまで」
「それを野盗というんだ。ここはリーングランドン王国で、チマブーエ西方辺境伯の監督下にある、バスキア領だ。そして俺はアシュレイ・ユグ・バスキア士爵。俺の領地にいる以上は、王国法に従ってもらう」
「ふざけるな! 我らを難民扱いして未開の地に投げ捨てた王国に、誰が帰順するものか!」
「知るか。どうしても嫌なら"俺"に従え」
王国に見捨てられたから、その復讐だ。
住んでいる場所を無断で横切ってきたのは行商人たちの方だ。
生活するために仕方のない行動だ。
そんな言い訳を腐るほど聞いた。だがそんなことは全部どうでもいい。
(そもそも俺、王国に忠誠誓ってないしな)
ケルシュの一族、スタウトの一族、アルトの一族、とかそれぞれ氏族を主張していたが、彼らの主張はなあなあに聞き流しておいて、とりあえず衣食住と仕事だけは問答無用で与えておいた。
働かざるもの食うべからず。それだけである。
輪栽式農業の研究。家畜の飼育。行商人から売買した積み荷の運搬。その他雑用の諸々。
思いついた仕事はなんでも任せて、俺の仕事をどんどん減らしていく。もちろん、最初はうまく行かなくて当然なので、人を育てるぐらいの認識だ。というか勝手に育ってほしい。
兎にも角にも、村の規模はどんどん大きくなりつつあった。
945日目〜971日目。
徐々に街道を通る行商人の数が増えてきた。
野生の魔物は張り巡らされた罠のおかげで近寄らない。
このあたりを根城にしていた野盗たちは、俺がどんどんひっ捕らえてむりやり服従させている。
その甲斐あってこの一帯は、昔よりも遥かに安全な場所に変わりつつあった。
人通りが増えれば自然と賑わいも増すというもの。
結果的に、うちの村はどんどん賑やかになっていた。
人が増えたので施設もたくさん増やした。
旅の汚れを落としてもらうため、公衆浴場を作った。
旅の疲れを癒やしてもらうため、宿泊施設を作った。
アルチンボルト領、ボッティチェッリ領、デューラー領、ブオナローティ領、それぞれの領地の特産品を卸してもらい取り扱う直販店を作った。
娯楽も必要になるので、闘鶏やら的あて大会やら腕相撲大会などの催しごとを開いた。
賭博の胴元にもなれるので簡単に儲かるし、的あて大会やら腕相撲大会は、弓の名手やら腕力自慢の人を探す名目にもなっている。
とにかく、少し前までは何もなかったはずのこのバスキアの村は、昔と比べると遥かに栄えた街になりつつあった。
(まあ、用水路の整備とか道路の整備に関しては王都以上だもんな……)
それもこれも、昼夜問わず熱心に働いてくれるスライムのおかげである。街の工事はもちろん、深夜に動く怪しい人影をとっ捕まえたり、重いものを運搬したり、不衛生なものを処分してくれたり、とにかくスライム様々だ。