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前編:流れ星になりきれなかった欠片(かけら)たち

これは国際宇宙ステーション(ISS)の後釜あとがまの国際月基地が大きくなって、火星・金星植民の中継基地として使われるようになった頃のお話です。


まだ火星に人が到着すらしていないじゃないかって?


宇宙の無数の星々には、それぞれの回りに沢山の惑星が回っています。そんな惑星のうちには地球そっくりの、それこそ人そっくりの宇宙人が住んでいる惑星だって沢山あります。そんな「宇宙人のいる地球そっくり星」の中には、私たちの住む地球よりも、少しだけ文明が進化しているところもあるのです。そういう「未来っぽい地球」でのできごと。


【注:今どきの子供にとっては、おとぎ話風のファンタジーも、宇宙ものも大差はないのではないでしょうか。子供にとっての日常・常識を基準とした時の非日常こそが、子供が目を輝かせる話であるならば、SFが日常の世界のお話もまた童話足り得ます。なので「Space Fiction童話」。ついでに、どうせ、このサイトの読者に一桁年齢はほとんどいないだろうからと、言葉遣いも幼児向きにしませんでした。低学年・幼児向けに読み聞かせる際にアレンジすれば良いので】

宇宙飛行士のサトウが、船長のシュミットに

「キャプテン、総ての準備が完了です」

とスタンバイを報告したのは、離脱予定の1時間半前だった。場所は月上空の宇宙中継港。そこにドッキング中の地球帰還船の操縦室だ。


1時間半というのは長い待ち時間のように聞こえるが、けっしてそんなことはない。地上の飛行機ですら、例えばニューヨーク空港は着席から離陸まで2時間近く待つ訳で、地球に向かう場合は色々な理由で準備が遅れることを見越して出発時間に余裕を持たせている。


月基地ができて約30年、設備も充実して、今では火星・金星へ行き来する中継基地としての役割をしっかり果たすようになった。月基地には月面の整備基地と月上空の中継港がある。そのうちの中継港では、火星・金星から帰って来た人々や、あるいは地球から火星・金星に向かって出かける人々が、それぞれ、惑星間用の大型宇宙船と地球行きの専用宇宙船の間を乗り継ぐ。



シュミット船長は普通に「了解」を出したあと、宇宙スペース状況シチューションの最新情報をサトウ宇宙飛行士を尋ねた。

「太陽活動は大丈夫だったよな。新しい小天体ネオの報告はあるか? あと、デブリの変化は?」


これらは安全な航行をおびやかす可能性がある代表的な災害ハザードで、その内容は毎回担当の飛行士が把握して報告する。それでも船長が毎回尋ねるのは、二重に確認して、安全をすことが義務づけられてるからだ。たとえば子供が宿題をやったあとでも、親が知らない限り「勉強しなさい」と念を押すようなもの……かも知れない。


サトウ飛行士はいつものように月基地、地球基地への回線を開いた上で、シュミット船長に復唱した。

「太陽活動は若干の活動のみ、小天体ネオの報告なし」


ここでいう太陽活動とは、主に太陽面 爆発フレアだ。特大級の爆発フレアが予報されている時は、念のため、地球帰還は延期となる。台風で飛行機を運休するようなものだ。


小天体ネオとはニア・アース・オブジェクトの略称で、地球の近くを飛んでいる小惑星アステロイドなどをさす。惑星という名前がついているが、実は直径1m以上の隕石類は全部小惑星と呼ばれる。余りに実感から離れているので、ネオと呼ぶようになった。


サトウ飛行士は更に続けた。

「デブリも大きな変化は当面なし。いずれも青信号です」


デブリとは宇宙ゴミのことで、過去の人工衛星やロケットの残骸をす。毎秒8km近い速度……そう、8mではなく8km……で飛んでいるので、たとい5cmサイズでも、走行中の高速バス並みのエネルギーを持つ。そして100kg級の人工衛星が大破する。10cmサイズだと昔の国際宇宙ステーション(ISS)なら大きなダメージを受けただろう。


そんな10cmサイズは、2020年に既に3万個以上飛んでいて、当時の宇宙ステーション(ISS)は年に何度も衝突回避の為に軌道を変えなければならなかった。微小サイズの癖に超高速なので、宇宙船で検知してから回避するようでは間に合わない。なので、危険サイズの総ての宇宙ゴミを地上から監視して、その軌道を計算して衝突を予想するという方法がとられている。


宇宙船が頑丈になった今でも、30cmサイズ、重さにして20kg以上の宇宙ゴミに衝突すると、航行不能になる恐れが高い。そんな宇宙ゴミの数は既に10万個を越える。そして、このくらい数が多いと、宇宙ゴミどうしでぶつかって勝手に増え、その際に宇宙ゴミの軌道も変わる。


だから、宇宙ゴミの毎日更新情報が入って来て、さらにサイズの大きな宇宙ゴミどおしがぶつかって、沢山の破片がバラまかれた時は、緊急警報が出される。だから、そういう衝突が予想されると、デブリ関係の宇宙スペース状況シチューションは黄信号や赤信号と判断される。


ここまでの報告を受け、

「注意すべきデブリは?」

とシュミット船長は最後の確認をした。地球帰還の途中には、危険な宇宙ゴミ(デブリ)が大量に高速で飛んでいる地帯、主に高度600-1000kmの、いわば高速道路とでも云う領域を斜めに横切らなければならない。安全に横切るには、横切る予定の時刻に、この高速道路を通過しそうな10cm超サイズの宇宙ゴミを把握しておく必要がある。


「15km以内のニアミスは近い順に5kmと12kmが10cmサイズ、9kmが20cmサイズです」

ここまで聞いてシュミット船長だけでなく、他の飛行士達も安堵の息を吐いた。ニアミス予測が衝突確率1万分の1以下では相手が余程よほどおおきくないかぎり普通は回避行動は行なわない。それは距離に直して3kmほど。現実には予測と実際とで宇宙ゴミの軌道が3km違った例もあるが、大体そんなものだ。回避が不要という事は、それだけで緊張が大きく減る。


だが、安堵は次の言葉を聞くまでだった。

「あと、27kmニアミスで幽霊船です」


幽霊船。乗組員あるじを失いエンジンを動かなくなった無人の宇宙船のことだ。


2020年代に本格化した新規参入の民間による人工衛星ロケット打ち上げは、宇宙ゴミ(デブリ)の増加に拍車をかけただけでなく、制御の甘い企業の参入をも促してしまった。民営化とは安上がりの代名詞で、それは往々にして「安全」を犠牲にする。その結果、あの北朝鮮のロケットすら「まだマシな制御をしている」と思えるような打ち上げをする企業も出て来た。さすがに現役の人工衛星に衝突するような事故こそ起こらなかったが、急増した宇宙ゴミへ直撃する自業自得が起こるようになったのだ。


そんな事故の中でも一番被害が大きかったのが、廃棄直後の大型人工衛星に直撃して飛行方向が変わり、最終的に民間宇宙ステーションにぶつかった事件だ。その時のことはサトウ宇宙飛行士も良く覚えている。宇宙を目指していた学生時代、南の島に家族で旅行に出かけた際、宇宙飛行士には体力も必要とばかり、島で一番高い山に登って、頂上から南の海を眺めていたら、南の空で大きな光が2度続けて起こったのだ。その間隔は2分ほど。


何だろうかと不思議に思いつつも、下山して夕食時に家族と合流した際に、父親からニュースを聞いた。滞在している島の西にある小さな島国から打ち上げられた人工衛星が、玉突き衝突で、民営の宇宙ステーションの一つとぶつかったというニュースだ。


後日の詳報で、一番はじめにぶつかった廃棄衛星は、サイズが大きいので宇宙ゴミにならないように地球に向けて落下するよう最後のエンジン燃料を使ったあとの自由落下の途中だったという説明がなされた。最後の燃料を使った時点で、打ち上げ会社のデータベースから消えて、それを避けるという判断ができなかったらしい。その結果、高度200kmぐらいでぶつかってしまい、人工衛星を大破させた上に、上むきに吹き飛ばして、大量の宇宙ゴミ作った。問題は、ぶつかった影響で、打ち上げロケットの軌道が大きく曲がり、民間宇宙ステーションに直撃したそうだ。


衛星を守る先端カバーを外す前の、尖った先端のままのロケットがぶつかったのだ。時間にして2分、距離にして約1000kmだから、自爆判断をする余裕が無かったかも知れないが、これが国営や有名企業による打ち上げなら、軌道が変わった直後に自爆命令を出していただろう。だが、安上がりを目指すような新興企業は、自業自得の衝突のあとも無事に軌道に届けば良いという風潮が生まれはじめていた。それ故、曲がった軌道の先に宇宙ステーションがあることに最後まで気付かなかった。


幸い、クルーのいるセクションは無事で、そのまま緊急帰還宇宙船に乗り移れたが、宇宙ステーション自体は5つの大きな部分に分かれた上に軌道が変わった。斜め上向きの力が加わって、高度が大きく上昇したのだ。5つの内の2つはエンジンが着いていて、地上からのコントロールで地上に落とせるが、残り3つはそういう訳にはいかない。まさに宇宙を漂う船なのだ。それを揶揄して、いつしか幽霊船と呼ぶようになった。その名が定着したあとは、同じぐらいのサイズの大型人工衛星でエンジンの使えなくなった宇宙ゴミ(デブリ)も幽霊船と呼ぶようになった。確かに数トン級ともなれば、ゴミというより船と呼んだ方が良いだろう。


ともあれ、宇宙飛行士のほとんどが、この事件をリアルタイム覚えている。幽霊船は、そのサイズから衝突を回避する存在だし、見るのも嫌がるクルーだって多い。

『自分の乗っている宇宙船がこんな姿になったら嫌だ』

と思わせて不吉だからだ。


サトウ飛行士の報告が終わると、クルーが口々に不安を紛らわせるべく、

「あの事件、覚えているか」

とお互いに聞き合った。だが、それも一通り終わると、そこは普通の宇宙船風景だ。



1時間半後。

シュミット船長の

離脱デパート

という合図ともに、地球帰還船は予定通りに宇宙中継港を出発した。


地球までは3日半の行程だ。38万キロを約80時間かけて地球に近づく。シュミット船長はもちろん、サトウ飛行士も何度も通った道で、暇と言えば暇だ。月周回軌道から抜ける時と、大気圏突入前の数時間を除いてエンジンをかさないからだ。アポロ月宇宙船の頃は燃料節約の為に数分だけの逆噴射だったが、今は安全性向上のため数時間かけて減速する。


一応、各種の計測、例えば宇宙ゴミ(デブリ)が更に細分化したやダストや、色々な科学者に頼まれた項目の計測はあるし、宇宙天気や宇宙ゴミの最新情報を入手・分析する作業もあるので、仕事自体は少なくないが、慣れれば時間はかからない。帰還船には運動施設もないので、運動不足を補う訓練にも限りがある。そういう訳で、ちょっとまったりするのだ。


だが、それも地球帰還の5時間前までだった。


- - - - - - - - - - -


宇宙船が静止軌道の内側の放射線帯に入り、地球がかなり大きく見えていた頃、突然、進行方向の地球上空に明かりが点滅したように見えたのだ。遠くてかすかだけど、普通と違う何か。



サトウ飛行士が学生時代に見た光を思い出させた時、地上からの通信が入った。

「緊急警報、未知の小惑星が地球すれすれを通過し、大型衛星と接触。大量のデブリが発生した模様。緊急情報を繰り返す……」


その後、直ぐに地球から詳細情報が届いた。


ネオ(地球近傍小天体)のカタログに載っていない100トン級(直径3-4m)隕石が地球すれすれ、それこそ150kmか200kmあたりの電離層を通過したらしい。そして再び地球を離れようとした際に、宇宙ゴミ地帯の少し上を飛んでいた3トン級人工衛星とぶつかって、大破させた。


100トン級とは人工衛星にとっては大きな相手だが、隕石としてはそうでもない。2013年のチェリャビンスク隕石=1万トン級にくらべると、頻度は遥かに高く、毎年1個来ているレベルだ。だが、ぶつかる相手が悪かった。そして、なによりぶつかる角度が悪かった。


普通の隕石とぶつかる場合、地球向きに飛んでいるから、破壊された衛星の大半も流れ星となって地球に落ちる。だが今回はそれは総て宇宙ゴミ(デブリ)になったに間違いない。しかも、隕石の勢いが勢いだけに長楕円軌道となって、高い高度まで宇宙ゴミが広がると思われる。


現在、これら大破した欠片かけらのうちの危険サイズ(10cm以上)の軌道の同定に急いでいるそうだ。小さすぎて大型電波レーダーぐらいでしか検知出来ないので、大雑把な軌道がわかるまでに数日以上はかかるらしい。


しかし、それらはまだ小さな問題だ。隕石そのものが分裂して、一部が地球軌道を回りはじめた可能性があるのだ。普通なら、頑丈な隕石がスカスカの衛星相手にぶつかっても、分裂したりはしないが、衛星は電離層を通過している間に、空気抵抗で加熱して、隕石がもろくなっている可能性が高い。


シュミット船長が渋い顔で、副船長とぼそぼそ話していたが、すぐに、同じ操縦室内にいるサトウ飛行士にも声をかけた。

「新しいデブリ(宇宙ゴミ)の軌道は遠地点がかなり高いと予想される。君はどう思うか?」


宇宙船は月より遠い地点と地球電離層を結ぶ長楕円軌道だ。それを電離層の高さの円軌道に変える為にはかなりの減速が必要だ。それを当初の予定では2時間後に緩やかに始める予定だった。



「30分以内に出て来そうなデブリ(宇宙ゴミ)軌道予想が出てから判断するのでは遅いということですね」

と念を押すと、果たしてシュミット船長がうなずいた。

「そうだ」


さっき見た明かりの位置から考えて、あの時発生した宇宙ゴミが、サトウ宇宙飛行士の乗っている宇宙船に到達するには、隕石衝突の向きから90度近い角度でね飛ばされない限り、地球を一周したあと以降となる。その後は最後まで危険だ。そして、どんなに小さな破片であれ、エンジンに衝突したら、大破しなくとも、推進力に誤差がでる。それは月からの帰還のような大減速を必要とする場合は致命的だ。


「この宇宙船は、隕石と衛星の衝突地点に向かっています。ということは、新しいデブリ(宇宙ゴミ)が地球を周回して戻って来てからはずっと危険になります。予定を繰り上げて、すぐさま減速を始めるべきです」


この答えに、シュミット船長も

「君もやっぱりそう思うかね。3人が3人とも同じ意見なら、減速開始だ。直ぐに起動するように」

と同意し、そのまま船長は地球にその旨を伝えた。


果たして30分後に地球から最新予想が来た。新しい宇宙ゴミ(デブリ)群の領域には2時間半後に入り始め、3時間後にビークになるという。そのまま次第に通常のデブリ帯に移って、高度500km以下になるまで予断を許さないと。


当然ながら、全員が最悪の事態に備えて宇宙服を着て、酸素ボンベの準備もすべきだそうだ。それは

『最悪に備えよ』

という意味だ。どんなに確率が低かろうとも、それは無視出来るほどの低さではない。


覚悟はできた。それはサトウ飛行士に限らなかった。


なろうラジオ大賞3の「交差点」で出すことも考えましたが、この話は尺があった方が読みやすいと判断して、こちらの部門に専念することにしました。


物語の鍵が科学でなく偶然に支配されるので純粋SFでありません。だから、誰が何といっても、これは【童話】だと主張します。火山噴火や台風などの災害が出て来る物語だってそうですよね。

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