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第28話:付与魔法使いはお礼を言われる

 俺たちは宿への道中にある閉店間際の冒険者ギルドに駆け込んだ。


「あれ、アルスさん何かご用ですか?」


「ああ、ちょっとな」


 顔馴染みの受付嬢が戸締りをしている中、俺は少年をカウンターまで連れて行く。

 そこで、持っているギルドカードの全てを吐き出させた。


 その数、およそ200枚はあった。


「な、なんですかこれは!?」


「ギルドカードだ」


「それはわかりますけど!?」


 一人につき一枚しか持つことができないギルドカードが山積みになっている光景にはさすがのギルド職員でも驚きを隠せないらしい。


「まあ、話すと長くなるんだが……」


 俺は知っている範囲で事情を受付嬢に話した。

 その間、闇商人の少年はシュンとしていた。


「なるほど……そういうことだったのですね、ありがとうございます。冒険者ギルドでも、冒険者の方が紛失したギルドカードについては問題になっていまして、こうして回収していただいたことは大変ありがたいです」


 受付嬢は丁寧にお礼を言い、頭を下げた。


「場合によっては単に紛失されたのではなく強奪されたケースもありまして。再発行手数料を頂戴するのは決まりとはいえ申し訳ない気持ちでいっぱいでした。回収されたカードがあればお金もお返しできますし、よかったです」


 なるほど、そういう場合もあるのか。


 よくよく考えればこの少年のように違法なものを買い取る商人がいるのだから、そういった悪事に手を染める輩がいてもおかしくはない。


 そういう輩を発生させてしまうという意味でも、闇商人の存在を許してはおけないのだ。


「ところで、この子はどういう処遇になるんだ?」


「私は衛兵に引き渡すだけですから確実なことは言えませんが、返還したとはいえこの量です……。何のお咎めもなしにというわけにはいかないでしょう。まずはこの子の両親を呼び出して事情を聞くところからでしょうか」


 事情によってケースバイケースというわけか。

 やや責任を感じてしまうが、見過ごすわけにもいかなかった。


「親も兄弟もいない。呼べる人は誰もいないからな!」


 受付嬢の説明に反応して、闇商人の少年が声を上げた。


 親がいない、か。


 この世界では、親がいないというだけで子供は生活に困窮してしまう。

 技術も経験もない子供が普通に過ごしていても最低限の生活すらままならないため闇商人などというケチな仕事に甘んじてしまったのだろう。


 さっきは儲かるからやっていた——などと言っていたが、本質はそこではなかったのかもしれない。

 普通以上の生活をするためにはそれしか方法がなかったのだろう。


 俺も若い時に両親を失ってしまっただけに、そこには同情をしてしまう。


「そうか、気持ちはわかる。だが、そうだとしても自分がやったことの責任は取らないとな」


「わかってるよ! 何をされても文句は言わねえよ。けっ、わかったような口を聞きやがって」


「わかってるよ。俺とお前は一緒だからな」


 そう言って、少年の目を見た。


「……」


 何か感じるものがあったのだろうか、俺と目があってから黙ってしまった。


「それで、この場合はどうなるんだ?」


「この場合は……罪を犯した原因が明白ですから、おそらく王都の教育機関に送致されるかと」


「なるほど、それは良いことだな」


 この少年の場合なら、真っ当な手段でお金が稼げるのであればやらなかったかもしれない。


 もちろん関係なく同じことをしていた可能性もあるが、人を殺していたというわけでもない。更生するチャンスを与えられても良いだろう。


「それでは、後はこちらにお任せください」


「ああ、頼んだ」


 俺は受付嬢にそう言い、ギルドの出口へ向かう。


「ちょっと待ってくれ」


「ん?」


 闇商人の少年に呼び止められた。


「あ、ありがとな。……あの生活をしてて、先が見えなかった。そんなに、大して儲かってなかったし……」


 ボソボソとそんなことを言ってきた。

 明らかに見窄らしい服を着ているし、儲かっていないことは分かっていた。


 これほど悪どい商売をしておいて、儲かっていないのには何か別に理由があったのだろう。

 それもだいたい見当はつく。


「どういたしまして」


 俺はそう言って、冒険者ギルドを出た。


「セリア、帰りが遅くなりそうだ。寄り道して悪かったな」


「いえいえ、気にしないでください! 私は二度美味しいのです」


「うん?」


 セリアは奇妙なことを言って、さっきのように俺と手を繋いだ。

 シルフィは精霊界で眠っているのか出てこず、俺とセリアは二人だけでゆっくりと帰路についたのだった。

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