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第24話:付与魔法師は精霊使いを手に入れる

 ベヒーモスの腹から出てきたのは、目当ての精霊石ではなく、眠ったままの小さな女の子だった。


 『小さい』と言っても一般的な人間のサイズとは大きく離れており、手のひらサイズほどしかない。


 見た目は13歳くらいの童顔。

 目鼻立ちからして美人系というよりは可愛い系という印象だ。

 サラサラの長い青髪も相まって、まさにお人形さんのような女の子——という言葉が自然と出てきた。


「多分だが……こいつはこの地に住む精霊だと思う」


「せ、精霊さんですか!?」


 セリアが素っ頓狂な声を上げた。


「ああ。誰も精霊の姿を見たことがないと言われているから断定はできないが……この魔力の大きさは精霊でもなければ説明がつかない気がする」


 女の子から感じ取れる魔力はさっきのベヒーモスよりも桁違いに大きい。

 なぜベヒーモスの体内に入っていたのかは謎だが、こんな存在は精霊でもなければ説明がつかないのだ。


「あ、目が覚めたみたいです!」


 俺たちが会話によるものなのか、はたまた日差しを受けてなのかわからないが、精霊と思しき女の子が目を開けた。

 その瞳は、トパーズのように綺麗な黄色をしていた。


「ふぁ〜。よく寝た〜!」


 勢いよく伸びをする女の子。

 可愛い素振りで右左を見渡し、俺たちがいることにすぐに気づいたようだった。


「あなたたちだあれ?」


 俺たちの方こそこいつの存在が気になるのだが、まあ確かに目覚めてすぐに変な奴がいたら強力な精霊だとしてもこんな反応になってしまうのも無理はない。

 最低限、敵意がないことは証明しておくとしよう。


「俺はアルス・フォルレーゼ。隣にいるのはパーティメンバーのセリア・ランジュエット。ここには精霊石が欲しくて来ただけで、お前に危害を与えるつもりはないから安心してくれ」


「なるほど、そうなんだね! 私、精霊のシルフィだよ〜! よろしくね!」


「ん、ああ……」


 この精霊——シルフィは出会って間もない俺が言うことを100%信じきっているようだった。

 もしかするとだが、見た目だけじゃなく中身の年齢も低いのかもしれない。


 俺は嘘を言っていないが、悪意のある冒険者に騙されなきゃいいが……。

 この一瞬でする必要もない精霊の心配をしていると、シルフィは両手を使ってお椀のような形を作って目を瞑った。


 シルフィの両手が輝き、幾何学模様が出現する。

 そしてその模様がどんどん伸びていき、複雑に絡んでいった。


 やがてそれは立体を形作り、透き通る石のような見た目になった。


「これ、あげる!」


「え、ああ……ありがとうって……重っ!」


 シルフィから渡された石を右手で受け取った俺は、あまりの重量に危うく落としかけてしまう。

 約10キロはありそうな手のひらサイズの石は、ついさっき見たものと同じものだった。


「こ、これって精霊石か……!?」


「そうだよ〜! 欲しいんだよね? あげる!」


「……っ!?」


 そ、そんな軽いノリでこれほど貴重な精霊石をもらってしまって良いのだろうか……?

 確かに俺が求めていたものではあるのだが、こんな形で手に入るとは思っていなかった。


 それに、1キロの精霊石でもめちゃくちゃ貴重なものだというのに、これはその10倍の重さがある精霊石。

 もはや貴重というレベルを超えて値付け不可能なアイテムである。


「くれるのはありがたいが……本当にいいのか? めちゃくちゃ貴重なものなんだぞ?」


「う〜ん、でもこんなのいくらでも作れるし?」


「そ、そうか……」


 何を言っていいのか、言葉が出てこない。

 本来、精霊石というのは強力な精霊の魔力を吸収できずに残ったものが堆積して出来上がるもの。


 確かに精霊自身が自分の魔力を凝縮するのなら一切の無駄がないから、この程度の精霊石は何の苦労もなく作れてしまうのかもしれない。

 かといって紛い物というわけでもなく、むしろこちらが本物。


 とはいえ、さすがにこれをただ受け取るというのも気が引ける。


「シルフィはわかっていないみたいだが、これはめちゃくちゃ貴重なものなんだ。それをくれるというのなら、何か俺たちにできるお礼がしたい」


「そ、そうですね! 私たちにできることなら……」


 俺たちがそう言っても、シルフィはピンと来ていないようだった。


「う〜ん、お礼かぁ。私がしてほしいこと……なんだろう?」


 しかしその直後、シルフィは何かを思いついたようで手をポンと叩いた。


「あっ! じゃあ旅したいな〜! ずっと寝てるだけで退屈だったの〜! 連れて行ってほしいな〜!」


「確かに俺たちは冒険者だし、各地を巡ることにはなると思うが……そんなことでいいのか? というより、精霊ってのはこの地から離れられるのか?」


「うん、ここにいても退屈だから連れて行ってほしいの! ここを離れるのは多分大丈夫だよ〜!」


 シルフィ自身が言っているのなら、大丈夫なのだろう。

 あとは冒険にこの精霊を連れて行くかどうかなのだが——


 俺は、セリアと顔を見合わせる。


「私はシルフィちゃんがそう言うなら構わないと思います! 強引に連れ去るわけではないですし」


「まあ、それもそうだよな」


 シルフィ自身が望んでおり、俺たちに受け入れる覚悟がある状態で断る理由もない。

 それに、放っておいて変な冒険者に騙されるようなことがないとも限らない。


「わかった、シルフィもついて来てくれ。俺たちについて来れば、色々なところを見られると思うぞ」 


「やった〜! ありがと〜!」


 シルフィはまるで子供のように飛び跳ねて喜んでくれた。

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