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第19話:勇者パーティは後悔を始める

 勇者パーティが、アルスを追い出してから二日目。


 頑なに『気のせい』だと信じ込んでいた一行だったが、たったの二日でその自信にも陰りが見られるようになった——


「や、やっぱりアルスを追い出したのが間違いだったのよ!」


 回復術師として勇者パーティに所属する女勇者——クレイナ・アルテミスは、思わず愚痴を吐露した。


 今日も朝から狩場に出かけており、経験値を集めるため勇者パーティはいつも通り戦闘を繰り広げていた。

 しかし、一夜が過ぎても条件は好転することはなく、昨日と同様に苦しい戦いになってしまっている。


 クレイナは回復術師という役割から、アルスがパーティを抜けてからの変化を機敏に感じていた。


 回復術師は、戦闘中や戦闘後に傷ついてしまった仲間の傷を癒し、生命力を回復させることが主な仕事。

 それゆえに、明らかに異常な生命力の減り方には昨日のうちから危機感を覚えていた。


 クレイナもアルスをパーティから追い出すことに賛成していたし、アルスを追い出した影響で強力な強化魔法を失い、味方が弱くなることはある程度覚悟していた。


 しかし、あまりにもあまりにも弱くなり過ぎてしまった。


 それだけではない。


 以前にも遭遇し、倒したことがあるはずの魔物なのに、アルスがパーティにいた頃よりも明らかに攻撃力が強く、防御力は高くなっているように感じるのだ。


「強化魔法がポーションしか使えなくなることはわかっていたわ。……でも、それだけじゃ説明できないほどにダメージが大きすぎるのよ! これじゃあ回復が間に合わないわ!」


「も、もしかしてだが……アルスは俺たちを強化するだけじゃなく、魔物を弱体化することもできたんじゃないか……?」


「でもそんなこと一言も言ってなかったぞ!?」


「昨日の朝、追い出した時に何か言いそうになってナルドが黙らせたよな? もしかするとだが、アルスはあの時これを伝えようとして……」


 パーティリーダーのナルドが黙っている中、どんどんアルスの実力が再評価されていく。

 

「こんなことなら、ナルドに唆されてアルスを追い出さなきゃ良か——」


 クレイナからこの言葉が出そうになった瞬間、ナルドが我慢の限界を迎えた。

 ナルドはクレイナの胸ぐらを掴み——


「うるせえ! 俺のやり方に何か不満があるってのか!? つーか、全員で決めたことだろーが! 今さら俺を悪者にしてんじゃねーぞ!」


 至近距離から怒号を浴びせたのだった。


「……っ!」


 ナルドは身長180cmの巨漢。その上、勇者パーティを仕切ってきた人物なのだ。

 その迫力は強い攻撃手段を持たないクレイナにとって恐れるに十分だった。


「……ご、ごめんなさい」


「ったく」


 クレイナが萎縮し、謝罪の言葉を発したことでナルドの溜飲は下がった。

 ナルドが胸ぐらを掴んでいた手を離すと、クレイナは脱力してその場にへたり込んだ。


 しかし、ナルドも他の勇者たちと一緒に最前線で戦っている。

 アルスが抜けてから明らかにパーティが弱体化していることは肌で感じているし、このままにしておくつもりはなかった。


「まあ、よく考えればアルスも一緒に冒険してきた仲間だからよ……。俺もちょっとばかり寂しくなってきちまったぜ。あいつが戻りたいって言うなら、俺は受け入れてやろうと思うんだが、お前らはどう思う?」


「さ、賛成っす!」


「俺もあいつが戻ってきたいっていうならいいと思います!」


「じゃあ、次あいつを見かけた時にいっちょ声をかけてやるとするか」


 ナルドは勇者パーティのリーダーであり、アルスはかつての部下である。

 本当は今すぐにでもアルスを取り戻したいという思いはあるのだが、ナルドの中ではプライドが邪魔をしていた。


 ここで頭を下げれば、仮にアルスが戻ってきたとしても力関係が崩れてしまう。

 場合によってはアルスにパーティリーダーの地位を取られてしまうリスクもあるだろう。


 パーティが弱いままも困るが、パーティ内での地位が脅かされるのも非常に困る。

 そのような考えから、この姿勢を崩せずにいたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これは主人公も悪いのでは? ホウレンソウは大事だと思います!!
[良い点]  主人公の今後の行動や判断にも関わりますので、 定期的に古巣の様子を書いて、勇者パーティがどんだけ 酷かったのかを読者に思い出させるのは良いと思います。  傲慢なバカが落ちぶれて行くのは…
[一言] 勇者メンバーがけっこう強かったのでざまぁがやや微妙でしたが次回も期待しています。
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