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第141話:付与魔法使いは楽しみを見つける

「よし、到着だな」


 荒廃した道はここで終わり。エルフの里を囲む緑いっぱいの森に辿り着いた。


 時刻は二時。朝から出発したので、想定通りといったところか。


 道中に関しては、特筆すべきことは何もなく、快適そのものだった。魔物との遭遇もなければ、険しい道のりもなく地図通りのルートをただ歩いただけ。


 普通なら一週間はかかる道のりだった事を考えると、付与魔法を使えて本当に良かった。


「本当に何事もなく着いちゃうなんて……アルスさん凄すぎます!」


「ねっ。強いし、優しいし、何でもできるし、本当にかっこいい……」


 なぜか俺に暑い眼差しを向けてくるニーナとマリア。


 俺が凄いのではなく付与魔法が凄いのだが……まあ、あまり謙遜しすぎるのも嫌味になるか。ここは素直に賛辞を受け止めておこう。


 などと思っていたところ——


「そう、パパは凄いのです!」


 なぜか、えっへんと胸を張るシルフィ。


 と、それはともかく。


 ニーナとマリアの二人にとっては馴染みのある場所まで戻ってきたからか、ほっとしているようだ。人間社会では常に不安に感じていただろうから、無理もない。早く戻って来られて良かった。


「この先真っ直ぐ行けば里に着くんだったよな?」


「はい。あっ、ここからは私たちの方が詳しいので、案内しますね」


「助かる」


 ここまでは念の為俺たちが先導する形で移動していたのだが、ここで立ち位置が入れ替わった。ここからはニーナたちの後ろを着いていくことに。


「あの……助けていただいたばかりか里まで私たちを送り届けていただいて……改めて本当にありがとうございます! 里ではぜひゆっくりして行ってくださいね」


「何もないけど、自然だけはありますからね! 温泉とか!」


「ええっ⁉︎ 温泉があるんですか⁉︎ いいですね! ねっ、アルス」


 温泉に反応して俺の身体をユサユサと揺らしてくるセリア。そういえば知らなかったが、セリアって温泉が好きだったのか?


「そうだな。温泉なんて久しぶりだし、俺も楽しみだよ」


「そうですよね! 私は温泉というものは初めてなのですが、やっぱり私たちも裸のお付き合いをして仲を深めるべき頃合いですもんね!」


 え?


 それはいったいどういう……?


 と思っている俺を挟んだ向こうにいるユキナがツッコミを入れた。


「セリア、残念だけど……多分浴場は男女別よ」


「ええ⁉︎ そうなのですか⁉︎」


「結婚するまで貞操を守るエルフの民が混浴なんてするわけないでしょ」


 ユキナがチラッとニーナとマリアの方を見た。


「おっしゃる通りです。すみません……」


「謝ることはないわ。というか、人間の街でも普通は男女別だし」


「そうなのですか。温泉は普通のお風呂と同じなのですね……」


 残念そうな表情になるセリア。


 どうやら、セリアはなぜか温泉は混浴スタイルが当たり前だと誤解していたようだ。まあ、カップル用の混浴温泉もなくはないので、どこかで勘違いして記憶してしまっていたのだろう。


 まあ、仮に混浴可能だとしても、俺はセリアが一緒だと緊張しっぱなしでリラックスできそうにない。だからむしろ男女別の方がありがたいくらいである。


 ラッキースケベで喜ぶのは空想の中だけの話なのだ。


「あっ、でも温泉は今晩すぐにというのは難しいかもしれません。アルスさんたちが悪いわけではないのですが、エルフの里では人間に好意的ではない者もいるので——」


 と、ニーナが大事な話をし始めたその時だった。

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