瞬きもせず-26
「でも、直樹さん朝夢見に交際申し込んだよ。全然タイプは違うと思うけど」
「それは、朝夢見ちゃんを同類と見たからでしょ。自分と同じようにスポットライトを浴びる、輝かしい存在に親近感を持ったのよ。あの娘は、あたしとは違って、華を持ってる。本人は気づいてないみたいだけど」
「華?」
「そう。あたしは早いうちにドロドロしたところに足を踏み込んじゃったけど、あの娘はまだ、裏の世界までは知らない」
「じゃあ、朝夢見もスーパースターになれるのかな?」
「そう。まじめにスポーツでもすれば、きっと人気者になるわ。言い換えれば、常人と違う、バケモノ、なんだけど」
「先生、こないだ、朝夢見ちゃんをぶったじゃない?あれは、やっぱり、朝夢見が直樹さんをなめてたから?それとも、朝夢見が女の弱さを見せたから?」
「どっちも」
「そうなんだ」
「本気で勝負しなかった、それは許せない。勝負である以上、確実に相手を仕留めなければならない。例え、相手がどんなに親密な相手でも。好意を寄せてきてくれている相手でも」
「そう…」
「あの時、一球遊び球を投げてれば、直樹君もあの速球にはついてこれなかった。あの時、フォークを投げれば、絶対に打てなかった。あの時、ファントムを投げれば、絶対に負けなかった」
「ファントム?ファントムって、必殺技じゃないの?」
「ファントムっていう、魔球?もあるのよ」
「へえ?それは知らなかった。それは、どんなの?」
「さぁ。いまは、内緒。いつか、見せてあげられるかもしれないわ。その時までお楽しみに」
「勿体つけてるね。さすがは魔球だ。でも、そうかぁ、朝夢見の勝ちの可能性のほうが高かったんだ」
「そう。圧倒的にね」
「それが、負けたから、怒ったんだね」
「うん。あの時、あの娘はためらっていた。あれだけの観衆の前で、直樹君をひれ伏せることにためらっていた。でも、周りを気にしてはいけない。勝負である以上、真剣でなければならない。直樹君にも敬意を払って勝負しなければならない。そう思わない?」
「そうだね。それで、先生は怒ったんだね」
「まぁね。きっと、あの娘もわかってくれてる思うけど」
「あぁ、きっとわかってるよ」
「朝夢見ちゃんも頭のいい娘だから、大丈夫でしょ。でも、恋心が入ってくると、どうなるかしら」
「ん…、そうだね」
「仙貴君はどう思う?」
「どうって?」
「朝夢見ちゃんは恋に溺れるかしら?」
「さぁ、そんなことはわかんないな」
「じゃあ、朝夢見ちゃんと、直樹君。お似合いだと思う?」
「直樹さんも、バケモノ、だからね。あのくらいでないと、朝夢見の相手にはなれないよ」
「あら、賛成なの?」
「どうして?」
「なんとなく。仙貴君は、朝夢見ちゃんのこと好きなのかと思ってたから、反対するかと思ってた」
「そんなことないさ。好きなのは好きだよ。なんて言うんだろ。やっぱり、バケモノ、同士の共感みたいなものはあるな。でも、…妹みたいな、気分だな」




