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グリーンスクール - 瞬きもせず  作者: 辻澤 あきら
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瞬きもせず-23

 一瞬息が詰まる思いで由理子はその言葉を聞いた。そして、朝夢見をちらりと盗み見ると朝夢見は由理子の視線を察して小さく頷いた。

「あたし……、お母さんに…命令されて…、売春してたんです……。

 …こんな…、こんな女の子なんて……、誰も好き…になる…資格なんて…ない。

 あたし、汚れてる……、お金のために……あんなこと…して……」

さめざめと咽び泣くしのぶに、言葉を掛けようがなかった。

 時間が静かに流れる。風もない。ただ、しのぶの嗚咽だけがそこに、存在していた。

 由理子は朝夢見を見た。朝夢見も言葉を失っていた。慰めようもない悲しみの中で、しのぶは静かに泣いている。

「あたし……、死んだほうが…よかった…。生きてても仕方ない……。こんな、辛い…、…惨めな思いするくらいなら……、死んだほうがよかった」

しのぶの声は静かに闇を運んでくるようですらあった。


 「なに、言ってるの!」

 由理子の声が響いた。その声は裏口から朝夢見としのぶを探しにきた仙貴にまで届いた。

「しのぶちゃん、しゃんとしなさい。あなたは、生きる運命にあるの。死なない、死ねないのよ。生きろと、神様が、そう命じているの。売春なんて、あなたが望んでしたことじゃない。だったら、それはあなたの罪にはならない。あなたが恥じる必要なんてない。あなたが苦しむ必要なんてない。あなたは、生きるの。ただ、未来を追って、過去を振り返らずに、生きればいい。ひたむきに、ただひたむきに。あなたの、不誠実なお母さんに負わされた過去に囚われる必要なんてないわ。だから、しゃんとして、背筋を伸ばして、そして、微笑んで。ね」

 その由理子の笑顔に、しのぶは驚きつつ、知らず知らずのうちに姿勢を正していた。

 朝夢見もつられて姿勢を正していた。そして、由理子を注目していた。由理子は微笑んでいる、慈母の微笑みをたたえて。


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