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真理起業とは何か  作者: ちえ
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第1章 第7節 将人が社長に抜擢~二人の独立

――花岡社長との話は終わった。

花岡社長は、なんと新世界通信社のIPフォン事業へ加盟することを表明したのだ。

あまりにも即断で決めてしまったので、これには光一だけではなく、将人でさえやや驚いた。



――花岡社長との話を終えて、光一と将人は自宅に戻った。

そして花岡社長から、「代理店ではなく、上のポジション、販社で加盟する」というメールが届いた。

販社とは代理店よりも加盟金が高く、個人での加盟は難しい。販社に加盟するには、300万円の加盟金が必要で、販社に加盟する人たちの大半は法人、つまり株式会社だった。


花岡社長の会社、オータムがもし販社に加入すれば、将人に約120万円の報酬が入ることになる。


光一は思った。

光一(将人さんの営業力ってすごいなあ。まさか花岡社長をIPフォン事業に参加させてしまうなんて……)


――こうして花岡社長は、数日後、新世界通信社のIPフォン事業説明会に参加して、販社に加盟することを決めたのだ。


花岡社長は会社の役員会で、新規事業参入の承認を得る必要があったが、中小企業の特権で、決定権は社長一人にあるといっていい。たとえ役員が全員、反対しても、最後は、社長一人の決断で決まってしまう。


役員では全員、否定的な声だが、社長の決定には逆らえない。「メインのソフトウェア事業の営業の手を煩わすことがなければ」という条件付きで、株式会社オータムのIPフォン事業の参加が確定したのだ。



――それから日数が経過し、週末に再び将人と光一、花岡社長の3人で会うことになった。

今度の待ち合わせ場所は会社でなく、会社の近くにあるファミレスだ。昼食をとりながら気楽に話し合おうとのことだった。


3人は今、ファミレスにいる。


花岡「IPフォンの事業参加の件、役員会での承認は得られたよ」

将人「そうですか」

花岡「ああ。ただね、一つ問題があってね。誰がこの事業の責任者になるかで悩んでいてね。ソフトウェア部門の営業は使えないから……俺がやればいっぱい契約がとれるんだけど、俺には社長の仕事があってね」


花岡社長は、ソフト開発の会社の他にもう1社、子会社をもっていた。子会社の方は、親戚の社員を昇格して社長を任せているが、出資者は花岡社長で、実質的な責任者は花岡社長であった。


花岡社長は、二つの会社の最終責任者であり、さすがにIPフォンの営業を自分でするわけにはいかなかったのだ。


花岡「ねえ、将人君。うちの会社に入らないかい? 実は別会社を立ち上げてIPフォン事業をそこでやろうとしているんだけど……実は、将人君にその会社の社長を任せたいんだ」

将人「え!?」


将人は、いきなりの話で驚いた。

花岡「うちの会社はソフト開発がメインでね。IPフォン事業参加の承認は得られてるけど、販売する人がいないんだ。営業マンを採用するのも考えたけど、いきなり事業の全責任まで任せられるかというと難しくてね……」


花岡社長は、ソフト開発よりも商売の方に関心がとても強かった。実は花岡社長は、以前にも何度か販売事業を立ち上げ、大企業出身の営業部長や実績豊富なセールスマンを雇ったことがあったが、いずれもうまくいかなかった。


大企業の営業では部分的な仕事を行えば仕事が回ったが、中小企業ではそうはいかない。大企業の営業部においては課長や係長、係員、さらに事務的な仕事や電話窓口を行う女性スタッフまでいる。


しかし中小企業となると、部長職で雇われても営業部にスタッフが存在しないことが普通にある。

契約書や請求書・見積書の作成などの細かい作業まで自分で行い、営業部に関係のない電話応対まで、行う必要があった。


そこで社長と、営業として雇われた社員との間でギャップが生じる。

雇われた営業マンとしては、「前に働いていた会社では、こうではなかった」「この月給で、こんな事務員の仕事までさせるのか」と不満に思う。


一方、社長としては、「基本的なことすらできない。融通が利かず、使いづらい営業マンだ。本当に営業部長をやっていたのか。こっちは高い給与を支払っているのに……」と思っている。


大企業の営業部長では普通に1000万円の年収を超えることがあるが、中小企業ではそうはいかない。

大企業では年収600万円は安月給だと思っていても、中小企業ではかなりの出費になる。売上実績のあがらない営業マンを、いつまでも雇っていては役員たちも納得はいかない。


このような大企業と中小企業の営業環境のギャップにより、販売事業の立ち上げに失敗した過去が、花岡社長にあったのだ。

それでも花岡社長は、販売事業の立ち上げをあきらめていない。

花岡社長はむしろ、ソフト開発よりも商売の方が俺の天職ではないかとさえ思っていた。それは第3者から見ても間違いはない。本当に商売が好きで、営業上手だった。


大企業で実績のある年配の営業マンでは融通が利かず、だめだったので、オールマイティーでフットワークが軽く、何でもこなせ、責任を任せられる若手の営業マンを、花岡社長はずっと探していた。そこに将人が現れたのだった。


そして役員たちにあれこれ、口を出させないために、今度はまったく別会社にして、IPフォン事業を立ち上げようと考えたのだ。


花岡「それからうちには、売れる商品をすでにそろえていてね。飛び込み営業をすれば売れるのに、過去の営業マンたちはそれをやらないんだよね」

将人「私は飛び込み営業は普通にやっていましたよ。飛び込みなんて営業マンなら当たり前じゃないですか!」

この言葉を聞いて、花岡社長の表情がさらに明るくなった。

花岡「ねえ、やって!」

将人「はい、わかりました」


将人の表情も柔らかくなった。その笑顔は社長に推薦されたことよりも、花岡社長が将人を高く評価してくれたことにとてもうれしく思ったのだ。


こうして将人は、光一の紹介から花岡社長との縁ができ、社長になるという長年の夢が突如叶うことになった。


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