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真理起業とは何か  作者: ちえ
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第1章 第6節 微妙なすれ違い~二人の独立

光一が、新世界通信社のIPフォンの代理店に加入してから、2週間が経過した。


光一は将人とちがって、すぐに独立することまで、考えていなかった。

(今、僕には独立する力はまったくないし……。まずはもっと商売ついて勉強しよう。サラリーマンをしながら、副業のような形で少しずつ経験を積んでいこう。そしていつか本物の力をつけて独立しよう……)



それから光一は、今ではすっかり愛読書となった、二宮基行の書籍「新商品・新市場、新規開拓編」を、何度も読み返した。その本は、まさに今の光一の立場に近い内容のことも書かれていた。


二宮基行シリーズは、全部で10巻発刊されている。実は光一は、将人が消費者を後回しにして、代理店集めを行っていることについて、一つの疑問を抱いていたのだ。


二宮基行の「新規開拓編」には、最終消費者を無視して、代理店を真っ先に集めることへの戒めが書かれていたのだ。


その内容は、次のように書かれていた。

「多くのボンクラ社長は、最終消費者には一切関心を持たず、自らが総代理店、あるいはできるだけよいポジションでの地位を取りたがる。なんと愚かなことか。このような方法で、弱小会社が新事業で成功したことなど、めったにないということがどうしてわからないのだろうか……。


それに自らが売ったという実績がまったくないにも関わらず、代理店を先に集めるとは何事であるか。

まずは自ら、消費者を満足させ、利益を上げ、実績をつくることが先決だ。己が先頭に立って消費者に売った経験がないのに、勝手に売れると思い込んで、代理店集めばかりに夢中になっている。このような輩が実に多いのだ。こんな方法で成功などありえないことが、なぜわからないのだろうか」


このように二宮基行の書では、新商品の代理店獲得について、実に厳しい戒めを述べていたのだ。


「やはり……今、将人さんが行っているやり方って、二宮基行さんが『やってはならない』と戒めていることだよなあ」


将人と光一の間には、考えの違いが生じていた。

光一は、このIPフォンを契機に、何年かかっても、自分はネット回線のプロになろうと考えていた。

そして事業が軌道に乗ったら、自分の夢でもある小説を書くことを光一は考えていたのだ。


(きっちりとした仕事をして、お客様を満足させ、その後、権利収入が確保できてから、本を書こう。そしてこのIPフォンがうまくいかなくてもネットのプロになれたら、きっとそこから別の仕事も生まれてくるだろう」


このように光一は、今のIPフォンの事業がうまくいかなくなっても、ネットに関連する仕事ができるように、一生をかけて技術を磨こうと考えていた。光一は、今のIPフォンを契機として、ネットについての専門家になろうと長期構想を考えるようになっていた。


これに対し、将人は、売れる商品にしか興味はない。「自分の事業とは何か」のような事業理念は、二の次だ。「まずは売れる商品を誰よりも早く見つけて、市場占有率を確保することこそ、大事だ」と将人は考えていたのだ。


実は、将人がこのように考えるのには理由があった。それは将人が勤めていたダースグリーンの販売戦略にあった。


ダースグリーンは次々と新商品やサービスを開発し、市場に提供していった。そして将人は、飛び込み営業で新商品やサービスの仕事を獲得したこともあった。将人は、ダースクリーンで飛び込み営業での実績が豊富にあったのだ。


もちろん、ダースグリーンにおいても売れない商品は多くあった。しかしダースグリーンにおいては、売れない商品をすぐにひっこめさせていた。ようは3つに1つ当たれば、トータルで黒字になるという戦略をとっていたのだ。


しかしその戦略は、ベンチャーから業界トップと急成長し、資金が豊富になり、テレビや新聞にCMを積極的に出せた会社だからこそ、できたといってもよい。


そんな光一に対して、将人は思った。

(俺はマーケティングを大学時代からずっと勉強し続けているし、今でも最新のマーケティング理論を勉強している。光一君はつい最近、経営や商売について勉強をし始めたばかりだ。それにずいぶん、古臭いことを勉強してるなあ。今の時代にそんな古臭いことはもう通用しないよ)


しかし将人は、マーケティング知識はともかく、光一の人柄と誠実さに関心を持っていた。そして最近気づいたことだが、成功者を自然に引き寄せる光一の潜在力も高く評価していたのだ。



*   *   *


いよいよ、花岡社長と会う日がやってきた。


光一は、中小企業の社長たちとの交流が以前より多かった。光一は歴史が好きで、特に明治維新には深い関心を持っていた。今から2年前、光一は地元の近代史研究会に入ってみると、そこはまさに経営者の集まりだった。


経営者には歴史が好きな人が意外に多い。光一は、以前、銀座高級クラブのレナにも、お勧めの歴史書を紹介したことがある。レナが銀座ママを辞めてデザイン会社を立ち上げてから、連絡をとらなくなったが、代わりに光一には、新しい人脈ができた。


歴史研究会に集まっていた社長たちは、光一の歴史通とその人柄をとても気に入ってくれた。

そして歴史研究会のメンバーの一人に、40歳の若きソフト会社の花岡社長がいたのだ。

その社長の名前は花岡明。明るく陽気で、見るからに親しみを感じやすい人柄が表情ににじみでていた。


当初、光一は、IPフォンを売り込む考えはなく、商売のコツを花岡社長から教わり、「何か新規開拓のヒントでもつかめればいいな」ぐらいしか思っていなかった。


こうして光一と将人は、花岡社長と本日、会うことになる。


光一と将人は、花岡社長の会社がある三宮駅で待ち合わせをして、花岡社長の会社に向かった。花岡社長の会社は駅前ビルの5階にある。なかなか立派なオフィスだ。


光一「こんにちは。一ノ瀬です!」

花岡「ああ、中に入っていいよ」


光一と将人は、社長室に入っていった。


最初は雑談から話していった。

将人と花岡社長は一度だけ面識があった。光一から見たら二人とも頭が切れて、商売の勉強をよくしている。二人の年齢は10歳ほど離れているが、互いに商売好きで気はとても合うようだ。


その二人の会話に光一は入ることができず、うなずいて黙って聞いているだけだった。


20分程して雑談が切れて、将人は突如、自分の始めたビジネスについて話し始めた。

光一はIPフォンの話をするつもりはなかったが、将人が説明しだしたのだから仕方がない。

そして将人の説明はわかりやすく、実に見事だった。


光一(さすがだなあ、将人さんは。自分にはまだまだ、こんなに見事に説明できないなあ)


一通り、説明が終わって、花岡社長はいくつか質問をした。

その質問に対し、将人は的確に答えていった。


そして次に、花岡社長は語った。

「じゃあ、俺に代理店になれってことだね。サインするよ」


光一は、花岡社長の即断に驚いてしまったのだ。


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