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第2章 第4節 危険な投資話~大破局の予感

話は変わって、将人は今、どうしているだろうか。


花岡会長は役員会で新会社設立の承認が得られるとすぐに、新会社設立の準備に取り掛かった。法人登録を済ませて新会社が誕生するのは10月18日頃で、この日が実質上の会社の誕生日となる。


将人は今、新会社の代表取締役となり、新会社設立の挨拶回りを、花岡会長とともに回っていた。

花岡会長は、自分の知り合い、中小企業の経営者仲間を中心に新会社設立の挨拶回りを兼ねつつ、IPフォンの商品紹介を行ってきた。


そして花岡会長の得意の交渉力で次々と仮契約を取っていき、将人はすっかり花岡会長に感心してしまった。

将人がまだ代理店のとき、IPフォンの営業は脇に置き、キャッシュの還元が高い代理店探しをメインに行っていた。


IPフォンの場合、一つ売れても一時金として8千円ほどの利益と、毎月の継続収入4百円ほどにしかならない。

例えば継続収入が毎月20万円入るためには、500人の顧客が必要になる。500人を新規獲得するには、非常な労力を伴う。


一方、代理店を一つ獲得すれば45万円の一時金が入り、さらに自分が獲得した代理店がIPを売った場合、200円の継続収入が得られる。ねずみ講ではないが、ネットワークビジネスにやや似た形式で、継続収入が勝手に増える可能性があり、既存の携帯電話の総代理店が継続収入で大きな利益を上げている点もここにあった。


さらに将人は理系的な知識が不得意で、ネット環境の設定が難しく感じていた。例えば、一戸建てとマンションではIPフォンの設置条件が異なる。そして一戸建てでも、ネット回線のプロバイダ契約は各家庭別々である。どのプロバイダ(会社)と契約しているかによっても設定条件が変わってくる。理系の学問が苦手な将人にとって、この確認がややこしく、とても苦痛だった。


だが、代理店を一つ獲得した場合には45万円のキャッシュが得られ、さらに代理店が顧客を獲得すると200円のキャッシュが継続収入として入ってくる。


新世界通信社の営業担当も「まずは代理店獲得を優先すべき」とセミナーで話していたので、将人もそれに従った。しかし代理店営業は自分の知り合いを中心に回るしかないが、知り合いには限界があり、将人も知り合いの訪問先がなくなり、困ってしまった。そんなときに花岡会長と出会った。


花岡会長のすごいところは人脈の数だった。通常、社長は社員と比べても知り合いが多くなるが、それにしても花岡会長の知り合いの数は、同じ中小企業の社長と比べても圧倒的に多い。


花岡社長は、地元の経営者団体にはすべて加入し、セミナーや懇親会には積極的に参加している。20代で独立してあっという間に数億円企業となり、社員も30人を超えている。さらに読書家でもあるため、歴史に詳しく教養もある。経営者同時の飲み仲間も多く、信用もそれなりにあった。そのため、IPフォンの営業先は豊富にあり、そして一度の訪問で仮契約を次々と獲得していったのだ。


花岡会長「将人君、それでは後の契約手続きは頼むね」


将人は花岡会長の顔の広さと、友達感覚のように契約をとってしまう交渉術には驚いた。将人は思った。

花岡会長とならIPフォン営業もきっとうまくいく。将人は独立して、少し気の緩みが生じてきたのだった。



そんなある日、光一に以前からの知り合いでもある渡部淳二という人から「お金を簡単に稼ぐならいい人がいるよ」と話をされ、「関心があるならその人に合わせるよ」と話があった。どのような方法で、お金を稼ぐか、光一が訪ねてみると、その方法は先物取引だった。先物取引のプロにお金を預けて、利益の一部をキャッシュとしていただくというビジネススタイルだ。


光一には先物取引の印象はよくないし、先物取引のことはよくわからない。正直乗り気ではかった。そこで、将人にそのことを話したら、「その人に会ってみないか」という話になった。


将人と光一は、その先物取引のプロと言われる人に会うことになった。その人は、九尾商会株式会社の社長であり、なぜか開発部長を兼任している九尾太郎という男だ。


将人と光一は、週末、新宿にある九尾商会に訪問した。九尾商会は7階建ての古いビルの1階と2階をテナントとして借りていた。お客様との打ち合わせやスタッフが働く場所が1階で、2階は別の部屋らしい。将人と光一は、1階の事務所入り口から入った。


九尾社長「やや! よく来たね!」

九尾社長は非常に甲高い声で挨拶しながら、名詞を渡した。名刺には「社長」という肩書きではなく、「技術開発部長」だった。先物取引のプロと聞いていたが、何かの技術開発を専門に行っているようだ。


この時は、まだ新会社設立直前だったので、将人はあえて新会社の代表取締役の名刺は使わず、代理店用で作った個人の名刺を渡した。将人は、新会社の社長になることを言わないことにしたのだ。


九尾社長は、二人に投資話を持ち掛け、どれだけ儲かるかの話をしてきた。


説明している途中で、九尾社長は会社のパンフレットを見せてきた。そこには九尾社長と犬山都知事と二人で握手している写真があった。九尾社長はその写真を見せながら、「このビジネスは、犬山都知事からも推薦されているんだ」と説明してきた。


将人と光一は、さすがに驚いた。犬山都知事は長年、都民から非常に高い支持率を維持し、東京財政を毎年、大黒字に導いてきたカリスマ性のある都知事である。近隣の独裁国家対しても厳しく批判し、マスコミ批判を恐れて腰砕けになっている大半の国会議員の代わりに正論を主張し、靖国神社にも毎年参拝している。あの犬山都知事が推薦しているというのだから当然、二人は驚くことだろう。


九尾社長のトークは非常に卓越していた。聞いているだけで、本当にお金が簡単に稼げるような気さえしてくるのだ。


そして一通り、説明が終わったのちに九尾社長が実際に先物取引を行っている秘密の部屋に案内された。

その部屋の光景を見てみると、光一と将人はびっくりした。その一室は別世界だった。何かの最先端技術、もしくは未来科学を研究しているかのような、近代的な部屋のように見えた。


大きな机が弧のように配置されていて、机の上には巨大なテレビモニターがいくつも並べてあった。まるで人間とは人種の違う巨人が使うモニターのようにさえ思えた。


それぞれのテレビモニターには、世界中の取引が行われているデータがずらずらと表示されていた。


九尾社長「ここが私の仕事部屋だ」


部屋の様子を見て二人はすっかり圧倒された。九尾社長が技術開発部長の肩書を使っている理由がこの部屋を見て少し理解できる気がした。確かに未来世界にある研究所のように見えないことはない。


九尾社長は、円弧に配置されている机の中心に置かれた豪華な椅子に座った。そして椅子に座りながら、くるっと360度回転した。椅子が360度回転することで、すべてのモニターを見ることができるようだ。


九尾社長「ここで、世界各国の相場をリアルタイムで見ることができるんだ。さらにすごいところは世界中から集められたデータを分析して、近未来の相場をかなりの確率で的中させるシステムが導入されているんだ」


それから将人は、九尾社長に様々な質問をした。将人は投資関係の勉強もしていたためか、先物についてもある程度わかるらしい。光一には、質問の内容でさえ正直わからなかった。しかし目の前の光景には圧倒させるものがあった。


二人は九尾社長に吸い込まれていくかのように、感心して九尾社長の仕事部屋を眺めていた。


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