ダークスネイク
誤字訂正ありがとうございます!
見直しては要るんですが・・・
俺はトールさんと別れ、村の中にある野営地に武器を取りに戻る。
野営地に戻って長槍と弓矢を両脇に抱え込むと、獲物探知スキルでルリアの居る場所まで走る。
ポイズンフロッグは動きは遅いし爪や牙が有るわけでもない。
基本は雑魚だ。
だが体の表面を覆う毒は、触っただけで人間を死に至らしめる凶悪な物だ。
ルリアが剣で倒している最中に誤って触ったら、それだけでルリアの無邪気な笑顔は二度と見ることが出来なくなる。
ルリアの反応は村から出て、森をしばらく進んだ場所にあった。
ルリアの場所に辿り着く迄に、ポイズンフロッグの死骸が何体も転がっている。
全方にルリアのピンク色の後ろ姿が見えてホッと胸を撫でおろす。
「ルリア!槍を持って来た、一旦、ポイズンフロッグから離れろ!」
ルリアが目の前のポイズンフロッグを一太刀で斬り捨てると、バックステップで距離を取る。
「ラムさん!なんで来たんですか!」
「それはこっちの台詞だ!なんで一人で行ったんだ!」
さらにルリアは飛びかかって来たポイズンフロッグを斬りつける。
「私は勇者の騎士なんです!だから困ってる人を見捨てて自分だけ逃げるなんて絶対しません!今は勇者の騎士じゃないですけど・・・」
「分かったから!一旦、下がって槍を使え!」
ルリアは渋々といった感じで俺に近づいて来て槍を受け取る。
「ありがとうございます」
ルリアはそっけなく俺から槍を受け取る。
このヤロウ、俺がどれだけ心配したと思ってるんだ。
無性に腹が立った。
「ラムさんはもう帰って下さい。後は私一人で大丈夫ですから」
ルリアのその言葉にさらに怒りが湧いてくる。
俺は弓に矢を番えてポイズンフロッグに的を定める。
矢はヒューンと甲高い音を立てながら、ポイズンフロッグに吸い込まれるように刺さる。
さらにもう一発放つと先程と同じ、ヒューンと甲高い音と共にポイズンフロッグに刺さった。
ルリアが悔しそうに俺を見る。
「ずるいですよ・・・。私があれだけ苦労して倒したのに、ラムさんはこんなに簡単に倒しちゃうなんて・・・」
「どうだルリア?これでも一人で戦うのか?」
「・・・でも。触ったら死ぬんですよ。もしラムさんが死んだら私・・・、シアにどんな顔して会えばいいんですか・・・」
「俺が死ぬ前提で話すな。いいかルリア、それは俺も一緒だ。俺だけ生きて帰ってシアにリーザさんに皆んなに、なんて言えばいいんだ」
ルリアが目を見開いて俺を見る。
「それにな・・・ルリアが死んだら、俺が一番嫌なんだよ!」
ルリアは先程より更に目を見開いて、こんなに驚いている所は初めて見た。
「・・・、ラムさん。こんな所で口説くなんて流石ですね!」
「口説いてる気は無いんだが・・・。まあ、ルリアを絶対に失いたくないのは本心だ」
「・・・。ラムさん、それは愛の告白ですよ!」
ルリアとジャレあっている間にもポイズンフロッグが、どんどん押し寄せてくる。
更に矢を二本放ち二匹のポイズンフロッグを仕留める。
「だから、二人で生きて帰るぞ!」
「分かりました!生きて戻ったらラムさんの愛の告白の返事をしますね!」
ルリアはいつもの無邪気な笑顔を一瞬、覗かせて直ぐに戦士の顔に戻る。
その後、矢が続く限りポイズンフロッグを射り続ける。
持って来た矢は二十本はあったが尽きてしまった。
すなわち二十匹は倒したのだが、三百匹のポイズンフロッグの前では焼石に水だ。
獲物スキルを発動すると、俺達がいた辺りはポイズンフロッグを掃討しているが、横に広がって移動している蛙の群れは、俺達の横をすり抜け、何百匹も村に向かっている。
「ルリア!村に戻るぞ!この辺りの蛙は倒したが、他の場所から村に侵入されている!」
「はい!」
村に戻ると村の周りを囲んでいる木の柵によって蛙は一旦は足止めされていた。
蛙が蛙の上に飛び乗り、更に蛙が飛び乗り蛙の塀が出来ていて気持ちが悪い。
蛙の壁を使ってどんどん村に侵入して行く。
ポイズンフロッグは体全体が黒く、赤い斑点があるのだが、中には黄色や緑の斑点を持った個体もいる。
色の違う個体は易々と木の柵を飛び越えて行く。
「やばいですね・・・。ポイズンフロッグの上位種も混じってます」
ルリアが呟く。
「強いのか?」
「はい、速さも、力も桁違いです。色の違う蛙には近づかないで下さい。赤の二、三倍は跳ねて来ますよ!」
まー、だからと言って寝かせてしまえば赤だろうと、黄色だろうと関係ないけどな。
「スリープアロー」
「スリープアロー」
「スリープアロー」
俺は色も関係なく、ひたすらスリープアローでポイズンフロッグを眠らせていく。
それをジト目でルリアが見てくる。
「ラムさん、本当にずるいです」
「俺もそう思う」
俺が眠らせた蛙をルリアが槍で突き殺す。
順調に蛙の数を減らしてはいるがそれでも数が多すぎる。
「わあああああ!!!」
村人の悲鳴が聞こえてくる。
柵の一部が破壊され、そこからポイズンフロッグがいっきに村に侵入し始めた。
俺とルリアは戦いの場を村の中に移す。
森で二十匹、村の柵の前で三十匹、合計五十匹の蛙を倒しているが、後二百五十匹の蛙が残っている。
先程、声を上げた村人の姿は無く、元気な人の避難は完了してそうだが、病で動けない人はまだ家の中に取り残されている。
村に侵入したポイズンフロッグは今度は家の壁に向かって体当たりを繰り返している。
「こいつらダークスネイクに追われて村に来たんだよな?なんで家に体当たりしてるんだ?」
「魔物の気持ちなんて、私にだって分かりませんよ!蛙に聞いて下さい!」
ルリアが切れ気味に答えると怒りを槍に乗せて蛙を一突きにする。
村に入って来たポイズンフロッグ達は、自分が捕食されそうで、逃げて来たにも関わらず、忘れて自分たちが捕食者として村人を襲い始めている。
家が破壊されて村人に被害が出るのも時間の問題だな。
蛙の村への侵入は一箇所だけでなく、どんどん増えて行き、俺たち二人では倒すのが追い付かない。
更に俺の首筋がピリピリと危険を知らせる。
ダークスネイクが村の柵の前にまで来ている。
多分、俺達が倒した蛙を食べて居るんじゃないだろうか、しばらく柵の前で止まっていた。
「ルリア、どうする!蛙か蛇か?どっちを先に倒す?」
「蛇は蛙を追ってるんですよね?ほっといたら蛇が蛙を食べてくれませんかね?」
ルリアが言う事も一理ある。
どちらを放置しても危険だが、現段階では村人を襲っているのは蛙だ。
ダークスネイクは全長十メータ以上で顔の大きさはワニの頭位あり、とにかく体が長い長い!
そして腹の中央部がパンパンに膨らんでいることから、一体何匹のポイズンフロッグを腹にいれたことか。
予想通り、ダークスネイクはポイズンフロッグを食べ始める。
カバンからハイパワーポーションとハイスピードポーションを取り出すと、同じ物をルリアにも差し出す。
「ルリア、これを飲め!」
「わお!こんな高いの良いんですか?」
「命よりは安い!」
ルリアと軽口を叩きながらダークネスネイクを見ると、ナンの家に集っていたポイズンフロッグを丸呑みにした所だった。
ダークスネイクは蛙を丸呑みにした後、ナンの家の壁に顔を付けると、一旦離して、助走をつけて顔を思いっきり壁にぶち当てる。
ダークスネイクの顔は簡単にナンの家の壁をぶち破り、その巨体がナンの家の中に入って行く。
「キャアーーー!!!」
「わああ!!!」
「ああああ!!!」
ナンの家族の悲鳴が聞こえる。
ルリアを見るとすでに走り出していて、体ごと長槍をダークスネイクに突き刺す。
その瞬間、ダークスネイクは痛みから激しく暴れ、ナンの家を真っ二つにして顔を現す。
舌をチロチロ出したダークスネイクはルリアに赤い目を向けると、遠くから見ている俺ですら目で追えないスピードでルリアに噛み付く。
俺の心臓がバクバク大きく鼓動を打つ。
地面に転がったルリアはすぐに起き上がり俺の方に駆け出してくる。
ルリアを追って来た、ダークスネイクに向かってスリープアローを発動する。
「避けた!!!」
スリープアローは物理的な矢と同じ速度で飛んでいるのに、ダークスネイクはそれを易々とかわしてこちらに迫ってくる。
「ラムさん、一旦、逃げましょう!!!」
「トラップ!トラップ!ルリア!踏むなよ!」
「ラムさんじゃないんですから、踏みませんよ!」
「俺だって自分の仕掛けた罠に掛かるか!」
逃げて来たルリアと合流して全速力で走る。
幸いにも俺の仕掛けたトラップに引っ掛かりダークスネイクと距離を取ることに成功する。
さっきは本当にルリアが死んだと思った。
ハイスピードポーションをルリアに飲ませていなかったら、やばかったんじゃないか?
だが、ポーションのお陰かは分からないが、なんとかルリアは一撃は避けられた。
「もう一度、俺の仕掛けたトラップに誘い込んで、スリープアローで眠らせるぞ!」
「はい!」
ダークスネイクはトラップから抜け出し、こちらに舌をチロチロ出して顔を持ち上げ、赤い目を向けて来るが、いきなり踵を返してナンの家に戻って行く。
ダークスネイクの赤い目の先にはナンの家族四人の姿があった。
家を壊され、家族四人で支え合って家から脱出したナン達。
ダークスネイクが恐ろしいスピードでナンに襲い掛かる。
ルリアは槍を先程の戦いで無くしていて、剣を引き抜きダークスネイクを追いかけてはいるが、ルリアでも間に合わない!
絶望に染まったナンの目がルリアを捉える。
「ルリアお姉ちゃん!助けて!」
ダークスネイクの牙がナンに襲いかかる。
ダークスネイクの牙がナンを切り裂いたと思った、その時・・・。
「バチン!!!」
青い閃光と共にダークスネイクの頭には青い槍が突き刺さっていた。
ルリアにはその槍が誰の槍か直ぐに判った。
「・・・ヴィーラ」
絵画に出てくる女神の様な美しさと神々しさを放ちながら、その美しき勇者は冷たい笑みを張りつかせて、静かに歩いてやって来た。