貝が原因
ナンの話を聞いて閃いた!。
もしかして病気じゃなくて寄生虫の感染なんじゃないか?
イカ、貝、魚なんかに付いてる虫が体の中に入って成長する。
現代日本において寄生虫なんて殆ど聞かないけど、確かイカにアニサキスてのが付いてるが有名だ。
友達が回転寿司でイカにアニサキスが付いてるって店員に指摘したけど、交換して終わって謝罪もないのかよ、と騒いでたのを思い出した。
もし寄生虫なら病気も状態異常のポーションも効かない。
騒ぎを聞きつけイラ達も俺の側にやって来た。
「ラムザール殿、何か分かったのか?」
「ええ、まだ可能性ですが、寄生虫が原因なら辻褄が合うんです」
「すまんが、その寄生虫について教えてもらえるか?」
イラが怪訝な顔で尋ねて来たので、寄生虫自体があまり認知されていないのかも知れないな。
「寄生虫は体の中に虫が入ってきて、体の中で人間を養分にして育つ虫のことです。可能性ですが今、病に罹っている方達の腹の中に虫が育っていて、それが原因で発熱や嘔吐、発疹、腹痛が発生しているのです」
「うげ、想像したら気持ち悪いですね・・・」
ルリアが顔をしかめる。
「ポイズンフロッグの大量発生で食料が手に入り辛くなり、食用でなかった貝も食用にしなくてはいけなかった。村長の様に食料に余裕がある家庭は貝を食べなくて良いので、寄生虫に侵されない。それにこの村が出来て間もない頃も同様に食料事情が悪かった可能性があります。その時代も貝を食べていたので寄生虫にかかり死者が出た。村の農業や狩りが軌道にのり、食料が安定してくれば苦くて不味い貝は食べない」
イラが俺の話を聞いて大きく頷く。
「ラムザール殿の話で思い出した。確かエンビットビーと言うハチ型の魔物は、他の生物に卵を植え付け、卵が孵るとその生物を餌に成長する魔物がいる。今回もその様な寄生虫と言う小型の魔物の仕業の可能性があるのだな」
「そうです。魔物なのか虫なのかは分かりませんが・・・」
「だが、そうだとすると、このナンと言う女の子が発症していないのは何故なのだ?」
「この寄生虫がどの様に体内に入るかに因るんですが、例えば水の中で血管から入ってくるのか、食べた時に口から入って来るのか、貝を洗っている時に皮膚から入ってくるのか・・・。何かしら感染する条件があると思うんです。それに貝、全ての個体に寄生虫がいるとも限りませんし」
「なるほど、食べると寄生虫に侵されるとして、その条件下でも、食べた貝自体に寄生虫が居なければ、食べても大丈夫なわけか・・・。それならば同じ行動をしているのに寄生虫に侵された者と、そうでない者の差も説明できるな」
イラが腕を組んでブツブツと一人で考察している。
腕を組むと胸が強調されるわけで、俺の方は全く考えがまとまらないが。
イラが俺の視線に気付いて咳払いをする。
「おっほん。で、ラムザール殿その寄生虫は火を通しても死なないのか?」
「あ、・・・はい。可能性ですが、卵の状態だと火を通しても死なない、もしくは火を通す時間が短いと死なないなど、経口から感染でも特定の環境下で生き残って感染する可能性はあると思います」
現代のクマムシなんて100度で煮ても死なないし、ー100度で凍らせても死なないし、水がなくて乾燥しても死なないし、果ては空気がない真空でも死なない生物がいる。
異世界に火を多少通したくらいじゃ死なない寄生虫が居ても、なんら不思議はない。
寄生虫じゃなくて寄生魔物かも知れんが。
イラが俺にどんどん真剣な顔で近づいてくる。
そんなイラを見て、慌ててルリアが俺とイラの間に割って入る。
「イラさん、すみません!ラムさんはちょっとエッチなんですが、本人は悪気がある訳じゃなくて、こういう目なんです!私からも謝ります。許して下さい」
「え!? 目? 何の事だ?」
ルリアがいきなり俺達の間に割って入って謝るから、目をパチパチさせている。
「へ?目じゃないんですか?・・・私はてっきりラムさんがエロい目でイラさんを見てたので、また怒らせたのかと思って・・・」
おい・・・ルリア、つっこみどころが多すぎて逆にツッコミ辛いわ!
イラのいつもの力強い眼差しが消えて赤面しながら呟く。
「おっほん。まー、確かに、そのなんだ・・・、胸をチラチラ見てくるなと思っていたが・・・、怒ってはいない」
・・・やっぱりバレてましたよね。
すみませんでした!今度はしっかりガン見します!
「・・・ではなくてだな」
イラが真面目な顔に戻りその青い瞳に強い意志を灯す。
「昨日の蚊の話やら、水に目を付けるなど特殊な学問を学んだ者の考え方だ。王都学院にラムザール殿が居た記憶もない。これだけの知識を王都学院以外で学べる場所・・・。ラムザール殿あなたは何者だ?」
辺りを沈黙が支配し、川のせせらぎと鳥の鳴き声がやけに大きく聞こえる。
ナンがその沈黙を破る。
「ラムお兄ちゃん!お母さんのお腹の中に虫が居て、お母さんを病気にしてるの?」
今にも泣きそうなナンの頭に手を置いて、精一杯笑顔を作る。
「ナン、その可能性があるってだけで決まった訳じゃないよ」
ナンの前でこんな話をするなんて軽率だった。
「ラムお兄ちゃんは錬金術師なんでしょ?お母さんを治す薬を作ってよ!虫が原因て分かったんでしょ!ねえ!ラムお兄ちゃん!お母さんを助けて!ねえ、ルリアお姉ちゃん、お母さんを助けて!」
その言葉を聞いていつも屈託ない笑顔を浮かべているルリアの顔が凍りつく。
「私は・・・」
イラがナンの前に屈んで同じ目線で話し掛ける。
「ナン、私は王都学院のイラと言う者だ。ラムザール殿のお陰で原因が掴めそうだ。だが寄生虫とやらを治すポーションはまだ誰も作った事が無いんだ。しばらく時間をくれないか、私が必ず君のお母さんを助けるからな」
イラの力強い視線と言葉でナンも勇気付けられた様で、泣くのを堪えている。
イラは立ち上がり俺の前に来て視線を向ける。
「今から寄生虫を治すポーションの開発に取り掛かる!ラムザール殿!貴殿の知恵を貸してくれ!」
イラの顔はどんな困難だって乗り越える、そんなやる気に満ちていた。
「トール殿、ルリアさん、王都学院の皆、騎士団の方々、みんなの力を合わせればどんな困難だって乗り越えられる、寄生虫を倒すポーションを作るぞ!皆の力を貸してくれ!」
イラの呼びかけに皆がイラの周りに集まってくる。
「僕の力なんてたいした事ないけど・・・協力させて欲しい!」
「私は馬鹿だけど・・・村のみんなを助けたい。何でもします!」
トールさんもルリアもイラの呼びかけに応える。
騎士団も集まりイラの周りで円陣を組む。
一人その円陣に参加していない俺を見てイラが呼びかける。
「さあ!ラムザール殿も加わってくれ!」
「あの・・・盛り上がっている所申し訳ないんですけど・・・寄生虫を倒すポーションもうあるかも知れません・・・」
「「「「えー!!!」」」」
円陣からはオー!でなくてえー!が漏れた。