王都最終日
無事にドラゴンの血とトロールの心も十個落札した。
これでジェネレイツポーション、エクストラポーションを作る事が出来る。
後、エクストラスピードポーションとエクストラパワーポーションの素材も手に入れられた。
サラダ会長と別れた後に錬金術ギルド本部の錬金術室を借りて、ラビダルポーションを作ってサラダ商会に納品した。
ちなみに俺の最初に作ったラビダルポーション上は1,200,000Gで過去最高値で落札された。
俺の儲けが350,000Gでサラダ商会の儲けが850,000G儲けてる訳だ。
俺がラビダルポーション上を作った場合の、追加報酬を決めておかなかったのが敗因だ。
二回目はラビダルポーション上が出来た時の取り決めをしておいたが、二回目は普通の品質のラビダルポーションだった。
王都四日目
今日が王都で自由に出来る最後の日だ
明日は丸一日錬金術ギルド総会に出席しなくてはいけないので、今日は王都を堪能しようと思う。
俺がオークションに参加していた昨日は女性陣で人気のお菓子屋を巡り、ギルドの皆のお土産を買ってもらっていた。
まだまだ王都には立派な太陽の神殿や、国営のカジノ、王立図書館、美術館など一日では回りきれない観光地があるのだが、シアの希望の演劇を観に行く。
「ラム!早く行こう!早く行かないと始まっちゃうよ!」
シアは朝からすごく機嫌が良く、こんなにはしゃいでいるシアは初めてかもしれない。
いつもちょっとムスッとしていて、せっかくの美人がマイナスなのだが、今日は歳相応の幼いシアがいる。
そんなシアに手を引かれて劇場に向かっていた。
三人はこの前買った王都の流行の服に身を包んでいる。
リーザさんは肩が開いた青いワンピース。
シアは黄色いノースリーブに肩から白いショールを羽織っている。
ルリアは白のフリフリがいっぱいついたシャツに黒いパンツ姿だ。
やはり王都は美人が多いが、バッチリ着飾った三人が一緒に歩いていると、王都の住民の視線すら集めている。
劇のチケット売り場は朝から行列が出来ていて大変な人気だ。
朝晩二回公演だそうだが毎回満席になる盛況ぶりで、シア達が昨日のうちに券を買っておいてくれた。
劇場の中はすり鉢状の作りになっていて中央に舞台がある。
舞台の左右には音楽隊が控えている。
席に着くとシアが事前に仕入れた舞台のあらすじと見所を説明してくれる。
目をキラキラさせて一生懸命に話してくれるシアが可愛い。
劇は踊りと歌が混じったミュージカル形式で進んでいく。
音楽隊がオーケストラの様な重厚感は無いが、それでも要所要所で音楽を入れることで、雰囲気を盛り上げてくれている。
シアは劇に入り込んでいて泣いたり喜んだり忙しい。
途中、シアの手を握ってみたが特に気にする様子もなく、ずっと俺の手を握っている。
ルリアは途中飽きて寝てしまうかと思ったが、案外しっかり観ていてビックリした。
劇が終わった後も興奮冷めないシアは、ずっとあそこが良かった、ここが良かったと仕切りに俺に教えてくれる。
リーザさんとルリアは出演していた俳優が、格好が良かったと話している。
そう言えば客も女性の割合が多かったから、アイドル的な要素もあるんだろう。
王都五日目
朝から錬金術ギルド総会に出席している。
ギルドマスターと本部職員と本部役員で総勢百名程になっている。
先ず前年の収支報告と来年の予算の承認。
現状の錬金術業界の取り巻く環境と今後の方針説明。
今年の新規のレシピの紹介。
などで午前中が終わり、午後は懇親会で立食パーティーとなる。
俺は新参者のギルドマスターなので、こちらから積極的に挨拶をして回って行くが、人数が多すぎて覚えられなくなって途中から諦めた。
「ラムザールさんですかな?」
「はい、ラムザールです」
「私は王都でギルドをやっているインディゴと申します。ラムザールさんとは一度話をしてみたいと思っていたんですよ」
話し掛けて来たのは四十代くらいの口髭を生やした男性だ。
俺と話してみたいと言っていたが俺には全く心当たりがないんだが。
インディゴは俺が誰だこいつって顔をしたのが気に食わなかったようで、こめかみをひくつかせる。
「田舎から出てきたばかりで、王都の事が分からなくて存じ上げていなくてすみません」
「そうですよね。王都で石鹸を作っているギルドのギルドマスターをしている者です」
なるほど、石鹼の商売敵の敵情視察ってことか?
俺は石鹸のレシピの認可を独占ではなく、公開で申請してあるので、レシピの認可が下り次第誰でも作れる様になるので、商売仇とは思っていない。
「最近、ラムザールさんのギルドで作った石鹸が、王都にも流通して来ましてね、なかなか評判が良い様ですね」
「それはありがとうございます。販売はサラダ商会に任せっきりで、ベルクドの街では人気の様ですが、王都の評判までは知りませんでした」
「そうですか。サラダ商会に任せているんですね。でもなぜ自身のギルドで販売しないのですか?そちらの方が儲かるでしょうに」
「色々理由はあるんですが、うちのギルドは錬金術師が四人に受付二人の少人数なのでなかなか自分達で出来なくて、サラダ商会にお願いしたんですよ」
建前的にはそうだが本当は俺が通常の錬金術師の十人分のMPがあり、大量生産出来る為に、大量に捌ける販売網を持ったサラダ商会と手を組んだってのが正しいが、ちょっと説明しづらい。
「そうですか、少人数ギルドなのに石鹸の製造は大変でしょ」
「そうですね、普段のポーションの依頼もこなしながらなんで大変ですね」
石鹸の情報を交換してインディゴとの話は終わった。
商売仇として何か妨害があるのかと身構えていたがそんなこともなかった。
こうして無事にギルド総会の出席も終わり、その日は王都の高いレストランで最後の打ち上げをして王都を後にした。
帰りもモッチの馬車で来た道を戻ってベルクドに帰る。
特に道中何事も無く経過して行く。
王都を出発して三日目。
次の昼の休憩はトット村で確かナンって女の子がいるはずだ。
行きに両親と兄が病気になったと言って、ヘディックポーションとパンを交換した。
俺の渡したポーションが効いて両親が元気になっていれば良いのだが・・・。
直接ポーションを販売したのが初めてだったので、効果があったかどうかが結構気になっていたのだ。
「なあ、シア、次の休憩のトット村に着いたら、あの女の子を探してポーションが効いたか聞いてみたいんだ」
「うん。私も実は気になってたんだ。探してみよう」
馬車の停車時間は短いが、もしかしたらまたパンを売りに来ているかもしれない。
シアと話しているうちにトット村で馬車が停車する。
馬車の伝令が走って来てモッチに伝える。
「この村だが病が流行っていて、サラダ商会がポーションを王都で仕入れて来たのを販売するから少し停車が長くなる」
モッチが馬車を覗き込んで伝えてくる。
「ラムザール様聞いた通りです。次の村は申し訳ないですが、村ではあんまり出歩かない方がいいと思いますぜ」
そう言われても知り合いになって、俺の作ったポーションを渡した手前、効いたか気になって仕方がない。
村は以前訪れた時と同じ様に馬車に物を売りに来る人も少ない。
馬車を出てキョロキョロと馬車に物を売りに来た人達の中にナンの姿を探す。
「おにーちゃん!」
「ナン!」
ナンの元気な姿にホッとする。
「ナンが元気そうでよかったよ。家族の病気は良くなったか?」
ナンは先ほど俺を見つけて見せた笑顔が消えて首を振る。
「ポーション効かなかったか?」
「うん」
ナンは寂しそうに頷く。
ポーションの効果がどれ程かは分からないが、ポーションも万能じゃない。
効かない病気もあるだろう。
リーザさんがナンに色々と家族の病気の事を聞いている。
「ラムさん、ちょっとおかしいですね。ナンちゃんに話を聞いたんですけど、村の多くの人が同じ位の時期に病気になってるらしいんですよ」
リーザさんが眉間に皺を寄せる。
「それのどこがおかしいんですか?」
「えっとですね。ラムさんがナンちゃんに渡したヘディックポーションは、風邪とかの軽度の病気を治すポーションなんですけど、多くの人が同時期になる病気て、ヘディックポーションで良くなるんですよ。ヘディックポーションが効かない様な病気が同時期に村人の多くの人が罹ったて、今までに聞いたことがありません」
「じゃあ、病気じゃ無くて毒の可能性もあると」
リーザさんが大きく頷く。
「確か行きにトット村の手前でポイズンフロッグの大群に襲われましたよね。あいつらの毒の可能性もありますね」
「私も今それを考えてました」
キュアポーションも二本持って来ている。
試してみる価値はありそうだな。