コロシアム
今まで8インチタブレットで書いていましたが、本日10インチタブレットに変更しました!
大きくて見やすいし、漢字変換も早く賢くなって快適です!
昨日は錬金術ギルド本部でリーザさんと丸一日、錬金術書を読み続けた。
その間シアとルリアには王都を調べてもらっておいたので、今日はルリア達の案内でコロシアムに来ていた。
コロシアムは毎日開催されているそうで、今日は対人戦の日だ。
コロシアムはベリスタ門の近くにある。
野球場くらいの大きさで、この世界で見た中で一番大きな建造物だ。
レリーフが飾られたり、彫刻などが建物に彫り込まれていて非常に豪華な作りになっている。
観戦費は場所によって違っていて、安い場所は10G、高い場所は1000Gもする。
更に貴族席なんてのもある。
金が入っても庶民感覚の俺は100Gの席を選んだ。
今日は特に人気の選手同士の試合ではないため、コロシアムに入場出来ないってことは無かったが、それでも中は大歓声に包まれていた。
柄の悪そうな人も多いな。
俺が選んだ100G席のエリアも屈強な男や、身なりの良い男性などが多いが、女性の観戦者も結構いる印象だ。
席についてまず初めに見た対戦カードは奴隷対奴隷だ。
実況のコールがあるとその都度歓声に包まれる。
「ミックス商会の奴隷・・・トレ!!!」
「「「うぉーーー!!!」」」
「ナタネ男爵の奴隷・・・ウイルス!!!」
「「「うぉーーー!!!」」」
耳を塞ぎたくなる歓声が響く。
辺りを見渡すと人々が狂喜を帯びた視線を中央の舞台へと向けている。
シアとリーザさんは最初は楽しそうにしていたが、コロシアムの中のこの異様な雰囲気に俺の腕を掴んでいる。
ルリアは相変わらずのほほんとした雰囲気だ。
コロシアムで使う武器は刃の潰された剣で、ルールはスキルも、魔法も何でも有り。
実況のコールと共に試合が開始される、激しい打ち合いが続く。
刃が潰されているので、当たれば骨は折れるだろうが死にはしない。
その為、長時間の試合になっている。
最初のうちは拮抗していた試合もミックス商会トレが、ウイルスの左腕に一撃を決めてからは、ウイルスの動きが鈍り一方的な展開となった。
勝負は完全に決まった様に見えるのだが、トレがウイルスを遊ぶようになぶっている。
ウイルスの顔が苦痛に歪む度に歓声が起きる。
人が傷付けられるのを見ているのは気分が悪い。
さらに、それを見て喜ぶ観衆はもっと不快感を覚える。
シアは俺の腕をつかんで青白い顔で震えているし、リーザさんも身を固くして一言も発しない。
再び舞台に目を戻すと完全に勝負は決まっていて、ウイルスは恐怖に顔を歪めて命乞いをしている。
そこで実況の勝利宣言が入る。
「勝者ミックス商会・・・トレ!」
「「「うぉーーー!!!」」」
今までで一番の歓声が会場を包み込み、その後、観衆からコールが起こる。
「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」
「はあ!」
信じられないコールに思わず怒りの声が漏れる。
観客達が一斉に殺せコールを始めたのだ。
まだ、ポーションを使えば治るだろ!この世界にはポーションも魔法もあるだろ!何で殺すんだ!?
震えるシアとリーザさんを連れて、殺せコールを背にコロシアムを後にした。
コロシアムなんて来なければ良かったと後悔した。
もっとエンターテイメント的な想像をしていた俺が甘かった。
不快感が収まらずルリアに愚痴る。
「コロシアムはいつもあんな感じなのか?」
「そうですね。今日の試合は負けた人は正式に剣術を習った事のある人でしたね。そっちの人が技術はあって勝つと思ったんですけど、んー、勝った人の方が実戦なれしてましたね。勉強になります」
ルリアが難しい顔でウンウン頷く。
「そうじゃなくて、勝負が決まったのに殺す必要はないんじゃないか?」
「そうですよねー。私もそう思います!負けた人も実戦経験を積めば更に強くなったと思いますよ」
俺が言いたかったのは人道的にどうかと言う話だったのだが、ルリアの言う通り生きていれば先がある。
リーザさんが思い詰めた顔で俺の腕を引っ張る。
「たぶん・・・。コロシアムに居る人達にとって、あそこで戦っている人達は人では無くて魔物と一緒なんですよ・・・」
現代において若者より年配の方が、ゴミをぽい捨てすると聞いたことがある。
これは年配の方がゴミを捨てるのが悪だと、年配の方が幼少期にはそんな話や教育がされていない。
だから、ゴミを捨てるのが悪だと思っていない。
差別は良くないと今は教育されて差別は悪だとなっている。
だが過去の歴史をみれば差別はずっとあった。
日本だって最近までエタ、非人、ブラクなんてことがあったし、世界に目をやれば未だに多くの差別制度が残っている。
この異世界の人にしてみればこれが普通の価値観なのか・・・。
善、悪とはその時の教育、育った環境で変わるものだ。
ただ、俺の育った価値観とは合わないから二度と来ることはないだろう。
「ルリアじゃないか!」
コロシアムを出ると、声を掛けて来たのは十八歳前後くらいの、スラッとした男性だ。
茶色い髪をオールバックにしてビシッと固めている。
筋肉ムキムキでは無いが、無駄な贅肉がない引き締まった体をしている。
ルリアがポカンとした顔で男を見る。
「えーと、誰でしたっけ?」
「デタリだ!!!」
デタリが叫ぶがそれでもルリアはうさみみを左右に揺らしながら首を傾げる。
「んー、んー、デタリ、デタリ、デタリ・・・」
デタリは怒りの形相でルリアに詰め寄る。
「勇者PT選抜試験で会っただろうが!俺なんか眼中に無かったと言う事か・・・」
デタリはルリアに今にも斬りかかりそうな目を向ける。
ルリアの顔がパッと明るくなる。
「あ!思い出しました!ダタリさんですね!」
「デタリだ!!!」
あーあ、ただでさえ怒ってる人の火に油さしやがった。
さすがルリアだ。
「まあ、良い。所詮お前はもうゴミになったんだからな」
デタリの怒りの視線から、ルリアを蔑む視線に変わり、ルリアの右手に視線を送る。
「お前は勇者ヴィーラ様の同郷と言うだけで、実力も無いのに勇者PTに選ばれた。本来なら俺が選ばれるべきだったんだ。実力の無いお前は案の定その様だがな。はははははは」
デタリは蔑む目線と共に高らかに笑い声をあげる。
なんだこの野郎!俺のルリアを馬鹿にしやがってむかつくな!
むかついたので待ち伏せスキルで気配を消して、デタリの後方に移動しトラップのスキルを発動する。
地面がピカッと光ったがデタリはルリアに夢中で気付いていない。
「お前がドラゴン退治の時にヴィーラ様の足を引っ張ったのは聞いている。そして無様にも片腕を食われたそうじゃないか。ウサギは所詮食われる運命か、はーはははは!」
デタリは薄ら笑いを浮かべ続ける。
「そして私はついにヴィーラ様の騎士として、今回御取り立て頂いたのだ。最初から、お前がコネなど使わずに私が選ばれていればお前も腕を無くさなくて良かったのになー」
珍しくルリアが怒った顔で言い返す。
「私はヴィーラの同郷のコネで勇者の騎士になったんじゃありません!貴方より強かったんです!」
デタリがスッと目を細めて殺気を放つ。
「ならば試してみるか・・・とは言っても今のお前じゃ勝負にならないか・・・ははははは!」
「そんなの、やってみないと判らないじゃないですか!」
「お前、馬鹿にしてるのか・・・。もしお前が勝てたなら勇者の騎士の称号をお前に返してやろう」
ルリアの目がキラッと光る。
「その言葉忘れないでくださいね!」
「そうだな、俺が勝つのは当然だが俺が勝った時はそうだな・・・そこの女に一晩付き合ってもらおうか」
そう言ってデタリがリーザさんを指差して全身を舐め回す様に見る。
リーザさんがデタリに冷たい視線を送る。
「はあ?何で私が出てくるんですか?貴方とルリアの問題でしょ!?生理的に受け付け無いので近付かないで下さい」
「そうよ!女性に勝負を挑まれて自分で絶対に勝つって言っておいて、条件付けるなんて男として恥ずかしく無いの?」
シアもデタリを睨み付けながらリーザさんと共に言葉を畳み掛ける。
デタリがシアとルリアにボロクソに言われて、俺に助けを求める目線を向けてくるが、気持ちは分かるが俺もお前の敵だからな。
ルリアが剣を抜いてデタリの前に立つ。
「ダタルさん、やるんですか?やらないんですか?」
「デタリだ!やるに決まってるだろ。ただ、ここだと人が多すぎる。場所を変えるぞ。付いて来い」
さすがにルリアが剣を抜いて、シア達が騒いでいるので、野次馬が集まって来てしまっている。
デタリがクルッとターンを決めて颯爽と歩き始める。
「わああぁぁ」
俺が仕掛けたトラップに掛かって情けない声を上げて、座り込むデタリを見て野次馬達から笑い声が上がった。