表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/106

王都

 馬車の旅は順調に進み五日目の午後に、ついに王都が見えてきた。

王都に近づくにつれて道は舗装路になり、道幅も馬車が二台すれ違える幅があり、更に歩行者用の道も整備されている。

道を行き交う人の人数も巡回の警備を見かける頻度も増えてきて、王都の発展度合いが伺える。

 

 まだ距離はだいぶ離れているが茶色い城壁が見えてきた。


「凄いな!あの城壁はどれだけ続いているんだ!?」

「すごーい!」


 シアと俺は馬車から身を乗り出して城壁を眺める。

現代の日本の建築を見ている俺でさえ、驚かされる高さの城壁が長々と続いている。

城壁の一部に二本の塔が見えるあの場所が、門なのだろうか。

馬車の一団はその門に向かわず城壁を右手に進んで行く。


「王都には八の門があるんですが、ベルクドの馬車ギルドの契約している門に移動してそこから入ります」


 モッチの説明によると要は馬車の置き場が決まっているらしい。

城壁に近づくとさらに城壁の迫力に驚かされる。

高さは10メーターはあるんじゃないだろうか。

大体三階から四階相当の高さの建造物が続いているのだ迫力に圧倒される。

先程の同じ様な塔が二本立つ場所がやはり門になっていた。

塔は城壁よりさらに高く作られ、塔の窓にはいくつもの弓が備え付けられている。

城壁の前で馬車から降りて城壁を見上げる。

門の前には王都に入る検査を待つ人々で長い列が出来ていた。


「一般の方ですとこの列に並んで城壁内に入るのに一時間は掛かるんですが、ラムザール様は御用ギルドのギルドマスターですので、あちらの列に並んで貰えば15分も掛からず入れると思います」


 モッチに案内されて貴族用の列に並ぶと、簡単な質問とバッチを見せて、すぐに入る事が出来た。

重厚な門を上に眺めながら門を通過する。

トンネルの様な門を通過するとまず大きな広場になっていて、噴水まである。

そこから何本も道が放射線状に続いている。

そして色々な種族が行きかっている。

ベルクドでは見かけない獣人やドワーフ、エルフ、ホビットなどもいる。

人の多さと町の広さで、さっきから俺とシアは辺りをキョロキョロ見回して田舎者丸出しだ。

まー、俺達だけでなく、この広場に留まっている多くの人々が、同じ様に王都の凄さに驚いていた。


 モッチに紹介された宿は門から歩いてすぐで、ここでモッチとはお別れになる。

短い時間ではあったが五日間一緒に過ごせば、少なからず情が湧くもんだ。


「モッチさんありがとうございました」


 残りの心付けをモッチに手渡す。


「ありがとうございます。ラムザール様。ところでラムザール様はいつベルクドにお帰りですか?」


 錬金術ギルド総会は五日後に開催される。

その後、ゆっくり王都観光をしたいが、ベルクドでトールさんとプランさんが頑張っているのを考えると、直ぐにでも帰らなければ申し訳ない。

 

「六日後の一番早い馬車で帰る予定ですよ」

「どうでしょうか。帰りもあっしを指定頂けませんかね?」


 宿もモッチの勧める宿に泊まって、心付けも渡したので上客と判断されたのか?

特に断る理由がないので了承する。


「ありがとうございます。予約はあっしの方で取って、後で馬車の乗り札を届けにあがりますよ。後、王都滞在中の観光案内も出来ますがいかがですか?」


 このまま持ち逃げされないかちょっと心配だったがモッチに馬車代1,600G渡す。

観光案内はお断りさせてもらった。


 モッチに紹介された宿は綺麗な大きめの宿で、ツインの部屋以外にも四人部屋があったので今回は四人部屋にした。

値段は四人で朝食がついて120Gと高いが、王都で安全で綺麗な宿はこのくらいの値段が相場らしい。

もちろん安い宿はいくらでもあるそうだが、女性人達を連れて行くのは躊躇われる。

まあ、ドラゴン討伐と石鹸の納品そして日々のポーション製作

、そして極めつけはラビダルポーションの金が入ってくるので、120Gくらい、なんてことはない。


 宿に荷物を置いて、夕飯を食べに王都に繰り出したのだが広い、広すぎる・・・。


「なあ、ルリアはこの王都で暮らしてたんだろ?」

「拠点は王都に置いてましたよ」

「じゃあ、案内頼むよ」


 ルリアが自信満々に胸をそらせて、どや顔で宣言する。


「私も分かりません!」

「分からんのかい!」


 余りに自信満々の態度に案内出来るかと思ったよ。


「でも王都は門の名前と道の番号を覚えておけば、乗り合い馬車で何処でも行けますよ。たぶん宿で王都の地図が買えるので、それを見ながら観光しましょう」


 大切な事は早めに言って欲しい。

宿に戻って地図を購入し再度町に繰り出す。

地図には門の名前と、そこから伸びる大きな道にだけ番号が振ってある。


 俺たちが入って来たのはラニア門で今は三十六番街路にいる。

町は八角形で町の中に川も流れている。

地図で見ると広いが規則正しく道が配置されているので分かり易い。

ただ何処に何があるのかまでは書いていないので、時間も遅いため近場で食事を済ませ、本格的な王都観光は明日からにする。

門の近くには宿が数多く在り、その宿泊客を目当てに食事所や、商店が立ち並び店選びは困らなかった。


「美人をつれたお兄さん、食事所をお探しならうちはどうだい!?安くて旨いよ!」


 道を歩いていると呼び込みのお兄さんに声を掛けられる。

お兄さんに連れられて行った店は、一言で言うと普通。

味も店内も値段も・・・悪くは無いけど二度目はないな。

王都最初の食事だけにがっかり感が強かった。




 

 次の日は朝から錬金術ギルド本部に来ていた。

ギルド本部はジェニー門の近くにあるのだが大きさに驚かされる。

ギルド本部、研究機関、教育機関、資料庫、食堂、従業員宿舎等の建物が一つの敷地内に集まっている。

観光もしたいが、俺達が王都にやって来た目的を先ずは済ませる。

総会は四日後に丸一日にかけて行われるそうで、今日は事前にギルドの上納金を納める手続きをした。

もう一つ、錬金術ギルド本部でしたいことがある。

それは錬金術の勉強だ。


 ギルド本部にはあらゆる錬金術のレシピが集まってくる。

俺とトールさんが開発した石鹸のレシピも、ここ錬金術ギルド本部に送って認可を待っている状態だ。

同様に王国内で作られたレシピが集まっていて、殆どのレシピを閲覧することが出来る。

勿論、レシピの閲覧と使用にはそれなりの対価をギルド本部に払う必要がある。

ただ、どんな効果のレシピがいくらくらいなのかを知っておけば、必要になった時に本部からレシピを買うことが出来る。

 

 俺とリーザさんは金を払って今日、一日は資料庫に籠って勉強することにした。

ルリアとシアにはお小遣いを渡して、王都観光を先にリサーチさせに行った。

強いルリアとしっかり者のシアのコンビなら王都を女性二人で歩かせも安心だ。

資料庫の使用料は一人一日1,000Gもした。

錬金術師にとってレシピは命だから高額なのも頷けるが、それにしても高いな。


 高い金を払って入った資料庫は値段以上の価値があった。

先ず、一般に公開されているレシピが全て揃っているし、個人で作ったレシピだが、作者の希望で無料公開されているものや、人気が無くて無料公開になったものなど、追加で金を払わなくても使用出来るレシピがいくらでもある。

無料で使えるだけあって、何かしらの欠点があったり、用途が不明の物が多いのだが・・・。

今、俺が見ているレシピもそんなレシピだ。


「植物の成長を促進させて収穫を早めるポーションか・・・」


 一見素晴らしい効果のポーションなのだが、欠点としてまずMPの使用量が大きい。

後、魔石を材料として使用するため、ある程度の製造コストが掛かる。

そしてポーションの効果によって成長しきって枯れてしまう。

面白いポーションだと思ったが、確かに使い所が難しい。

最後に枯れてしまうなら、鑑賞用の植物には使えない。

例えば、鑑賞の花や植え込みなどだ。

後、高額な薬草類は森の中でないと育たないから、それにも使えない。

主に収穫用の植物に使うタイプのポーションだが、一本のポーションを作るのに30Gくらいの人件費と材料費が掛かる計算だ。

これに税金とギルド経費を乗せていくと販売価格は100G前後くらいになってしまう。

小麦や米を栽培する肥料としては高すぎて使えないか・・・。


「これは虫を殺すポーションか・・・」


 次に興味を引いたのは殺虫剤ポーションだ。

殺すのは虫だけで人には害がない。

殺せるのは体長10センチくらいの虫まで。

ポーション一本で数匹は殺せる。 

やはりこれも一本作るのに100G位掛かるし、そもそも小さい虫を殺すなら踏めばいい。

現代の様にゴキブリが怖くて殺せない人なら買うかも知れないが、この世界でゴキブリを殺すのに誰が100Gも出すんだ。

小さくて危険で物理攻撃が効かない虫が居れば、このポーションも輝くだろう。


 てな感じで何かに使えそうだが、いまいち使えないポーションがわんさかあって楽しい。

リーザさんも夢中になって勉強していて、あっと言う間に一日が終わっていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ