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シアの恋心

 ナンと別れてトット村を後にする。

森を抜けて無事に二日目の宿場町に到着した。

二日目の宿場町も初日の宿場町と雰囲気や作りが似ている。

計画的に街道整備の段階で作られた町だから、作りが一緒なのかもしれない。


 この町でもモッチのお薦めの宿に宿泊する。

お薦めとは言ってもモッチが紹介料が貰える宿なのだが、初日の宿が外れでは無かったので言われるがままに宿を決めた。

今日はシアと同じ部屋に泊まる予定だ。

シアはたぶん俺に、少なからず好意を持っている。

そして俺もシアが好きだ。

ならそんな二人が同じ部屋に泊まるんだ、間違いが起きてしまうかもしれない。

いや!間違いでなくむしろ自然な事なんではないだろうか。

今から楽しみでしょうがない。


「痛!」


 見るとリーザさんがにこやかに俺の脇腹をつねっている。


「ラムさん、だめですよー」


 リーザさんの笑顔が怖い・・・


 シャワーも食事も終えて部屋に戻ってシアと二人っきりになったわけだが、さてこれからどうするべきが。

やっぱり雰囲気作りは大切だよな。

雰囲気が盛り上がって自然な流れで・・・てなのが理想だ。

ただ!雰囲気作りの仕方が分からないのだが。

シアがすごく緊張しているのが伝わってきて、俺まで緊張してしまっている。

毎回ルリアに良い所を邪魔されるので獲物探知スキルでルリアとリーザさんの場所を確認すると、二人とも自分達の部屋に居るのが確認出来る。


「ねえ、ラム、明日は晴れるかしら」

「明日は晴れそうだな」


 なんて、どうでも良い会話がさっきから続いている。

そんな不毛な会話で時間だけが経過していき、そろそろ寝る雰囲気になってしまう。

こんな時にライオンハートポーションがあれば・・・。

自分でもこんなに緊張するなんて思っていなかった。


「ラム・・・着替えるからちょっと後ろ向いてて・・・」


 シアが俯きながら小さい声で呟く。

後ろから着替えの布の擦れる音が聞こえてきて俺の心臓のドキドキが強まる。


「もういいよ」


 シアはいつも金色の肩まである髪を、俺があげた青いリボンで結んでいるのだが、寝るので青いリボンを取って美しい髪をおろしていた。

いつもの活発な印象からおしとやかな雰囲気に変わっている。

いつのと違う印象のシアがより俺の鼓動を早くする。


 灯りを消してベットに入り込む。

このまま終わってしまっては悔やまれるが、どうしたら良いのか分からない。

もう、雰囲気は無視して行くしか方法が思い付かない!

気持ちを奮い立たせる。


「シア、一緒のベットで寝ないか?」

「!」


 隣のベットから声は発していないが、驚いているシアの気配が伝わってくる。

シアからの返答は無い。

くそ!事を早まったかもしれない・・・。

長い沈黙の後、聞き取れるギリギリの声の大きさでシアの掠れた声が聞こえる。


「うん・・・」


 あまりに小さい声であったために俺の聞き間違いかと、何度も自問自答したが確かに小さい声だが言っていた・・・気がする。

頭が真っ白になるくらい頭に血がのぼっているのを感じる。


 了承を得れれたと判断してシアのベットにゆっくりと移動する。

シアがもぞっと動いてベットの端に移動してくれた。

ベットは一人用なので二人で入るにはぎりぎりの大きさしかない。

肩と肩が触れ合って隣に寝ているシアの温もりが伝わってくる。

シアの細くて小さな手と手を繋ぐ。

俺もシアも手に汗をかいていて、ほんのり温かく湿っている。

ただ不快では無くて、むしろその湿り気が気持ちが良い。


 隣でシアはピクリとも動かない。

体は仰向けのまま首だけをシアの方に向けると、目の前にシアの小さな顔があって、美しい金色の瞳と見つめ合う。

シアの整った顔立ちとまだ幼さが残るあどけなさが、ベットの中で女性の顔を覗かせていた。

今まで見たどの表情とも違って、新しいシアの可愛さを発見して息を飲む。

シアと手を繋いでこうして見つめ合っていると、すごく幸せで満たされた気持ちになってくる。

長い時間シアと見つめ合っていると、自然と俺の顔がシアの顔に近付いて行く。

俺の顔が近づくとシアの瞳が悲しそうに揺らぐ。


「嫌か?」


 シアが小さく首を横に振る。

でもシアの瞳には悲しみの色が消えない。


「俺の事嫌いなのか?」


 またシアは小さく首を横に振る。

シアの瞳はすがるように俺を見てくる。


「ラムの事は好き・・・」


 シアの突然の言葉に心臓が一回大きく跳ねて、その言葉がすごく嬉しい。

嬉しいのだが何でシアはこんな悲しそうな目をするんだろうか?


 俺が答えが出ずに考えていると、シアが泣きそうに続ける。


「ラムの事が好き。大好き・・・。でも私のこの気持ちは届かない・・・」


 ???シアの言ってる意味が分からない。

シアが好きな気持ちは俺になぜ届かない?

俺が好きって伝えてないからか?


「私は奴隷だから・・・。ねえ、ラムは私の事・・・好き?」


 シアのその言葉で俺は理解した。

俺たちの関係は奴隷と主人。

俺はそんな関係は気にしてないつもりだったが、それは俺が主人と言う、上の立場から見ていたからだ。

シアの立場からすれば、いつ俺が心が変わりするか分かったもんじゃない。

シアはすごく不安で悩んでいたんだ。

奴隷と主人の関係では恋愛なんて成立しないよな・・・。

あれだけ頭の中がエロで支配されていたのに、いっきに引いていく。

俺が今シアと望んでいる関係は、主人と奴隷の関係ではなく恋人関係だ。

ならば先ずは主従関係を解消しなければ始まりもしない。

主従関係を解除したら俺のそばにシアが居てくれる保証は無い。

シアが何処かに行ってしまうかも知れない。

そんな恐怖はあるが、主従関係解除の一歩を踏み出さなければ、シアとの本当の恋なんて始まらない。

シアの体が欲しいのか、心が欲しいのか、答えが後者なら俺は主順関係を解除し、新しい絆を作っていかなければならない。


「シア・・・。シアへの俺の気持ちは今伝えても、それって薄っぺらな言葉になってしまう気がする。だから・・・ちゃんとした時と場所で俺の気持ちを伝えさせて欲しい」


 俺の真剣な眼差しをその金色の瞳が覗き込み、シアが小さく縦に首を振った。

その日はシアと手を繋いで眠った。





 いつの間に寝たのか目を覚ますと、シアが俺の右腕にしがみついて寝ている。

腕に温かい感触が伝わってくる。

とりえず全神経を右腕に集中させる。

これは俺が触った訳ではなく、シアがしがみついてきている訳だからセーフ!

何がセーフなのかは俺にも分からないがセーフ!

朝から右腕に訪れた幸せを堪能させて貰った。

微妙にずらしたのは言うまでもない!


「シア、朝だよ起きて」

「ん・・・ん」


 シアがモゾモゾと起き出して、くっと背伸びをする。

シアの目はちょっとつり目なのもあって、猫が背伸びしている光景が浮かぶ。


「おはよう・・・」


 シアが半目で眠そうに呟く。

どうやら朝は弱い様でテンションが低い。

いつもならこの距離で俺がいれば絶対恥ずかしがるのに。

そんなシアが可愛くて抱き寄せて頭を撫でると、しなだれてすんなり甘えてくる。

朝のシアはツンツンしてなくて可愛いな。


「ドンドン!ドンドン!」

「ラムさん朝ですよ!いつまでイチャ付いてるんですか!」


 扉が強く叩かれてルリアの大きな声が聞こえてくる。

シアと俺はガバッとベットから出て二人で距離を取り、いっきに意識が覚醒する。


「早く、開けて下さい!何か開けられない理由でもあるんですか!?」


 ルリアに急かせて扉を開けると、準備を終えたリーザさんとルリアが部屋に突入してくる。


「くんくん」

「くんくん」

「くんくん」

「くんくん」

「!!!」

「!!!」


 ルリアとリーザさんが顔を見合わせ頷く。

リーザさんは信じられないと言った顔で、ルリアはニヤリと俺を見る。


「ラムさんついに手を出したんですね!」


 ルリアの言葉に俺は大きく首を横に振って否定する。


「ラムさん!」


 ルリアがビシッと俺を指差す。


「しらばっくれようが、その服に付いたシアの匂いが何よりの証拠です!」

「俺はやってない!無実だ!」

「ふふふ、あくまでしらを切る気ですね・・・。ならばシアに直接聞くしかないようですね!シア!どうなんですか!?」


 ルリアがこんどはシアを指差す。


「あの・・・その・・・」

「ほーらー!!!シアは認めてるじゃないですか!ラムさん!観念して認めなさい!」


 シアが顔を赤らめて下を向いてゴニョニョ言うもんだから、余計に話が変な方に行ってしまった。

誤解を解くのに時間が掛かり馬車の時間に間に合わず、御者のモッチに叱られました。



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