馬車の旅2
リーザさんの膝枕に興奮して寝れないかと思ったが、気付くと寝てしまっていた。
目を覚ますとリーザさんもこくこくと寝ている。
寝顔も可愛くてこのままキスしたい衝動に駆られるが、グッと耐える。
「くくく、ダメだよルリア、そんなことしちゃー」
「だって、ラムさんのあの顔見ました?」
「見たけどくーーー、駄目、思い出したら笑いが止まらないじゃない」
「だってあの顔ですよ、そりゃ、やるでしょ」
シアとルリアは何やら二人で楽しそうに話している。
この二人は一緒に住んでいる事もあって、すごく仲が良い。
名残惜しいが、リーザさんの膝枕とお別れする。
背伸びしているとリーザさんも目を覚ます。
「リーザさん、ありがとうございます。おかげでぐっすり寝ちゃいましたよ」
「お役に立てて何よりブーーー!」
リーザさんがいきなり吹き出して笑い出す。
それを見てシアとルリアも爆笑する。
「おい、何が面白いんだよ?俺にも教えてくれよ」
「ひーーー、笑いすぎてお腹痛い」
「シア、笑い過ぎですよ!ははは!」
シアとルリアは互いを叩き合って笑っていて、手が付けられん。
「ラムさん、顔に顔にーーー!」
リーザさんが笑いながら手鏡を見せてくれる。
そこには顔中落書きされた俺の顔が映っていた。
俺が寝ている間にルリアが落書きしたんだな!
「ルリア!お前ーーー!お前の顔にも落書きしてやる!」
「キャー、シア助けてーーー。ラムさんに襲われるーーー」
「無駄な抵抗は止めて大人しくしろこら!」
「キャー!今、どさくさに紛れておっぱい触りましたよ!」
「触って無い!観念して落書きさせろ!」
御者のモッチが申し訳なさそうに馬車の中に顔を出す。
「あのー、ラムザール様、馬がビックリするのでもう少し静かにお願いします」
「あ・・・済みませんでした・・・」
御者のモッチに静かに怒られ平に謝った。
くそ、この借りはいつか返すから覚えていろルリア。
一日目の宿場町に着いたのは辺りが暗くなり始める頃だ。
異世界の旅なので野宿かと思ったが、残念ながらベルクドと王都を結ぶ街道は整備されていて、間に四つの宿場町があり、この旅は全て宿場町に泊まる予定になっている。
宿場町だけあって、馬車を停める広い場所があり、町に入るとメインストリートの両脇にある建物のほとんどが宿屋兼、食事処になっていた。
モッチに連れられてお薦めの宿屋にやって来た。
一階が食堂と受け付けになっている。
食堂と言っても宿屋兼食堂なので、八テーブルしかなくこじんまりとしている。
御者は各々に繋がりのある宿を持っていて、そこに客を案内すると宿からマージンを貰える仕組みだ。
「四人だと二部屋で30Gだね。食事は別だよ」
宿屋の主人に30G支払い部屋に向かう。
さてと困ったのが部屋割りだ。
この世界は大抵ツインの部屋で一部屋いくらって金額を取られる。
ツイン以外の部屋だと相部屋の安い部屋もあるが、さすがに相部屋は嫌だ。
だからと言ってツインの部屋を三部屋は勿体無いし、俺は日本人だから勿体無いの精神が宿っている。
決して邪な気持ちがあるわけでは無い!!!
「初日はラムさんと同じ部屋になるのは私です。明日はシアちゃんに決まりました」
リーザさんに笑顔でそう告げられたが、何も無いとは思うが一緒の部屋に泊まったと人に聞かれたら、誤解を与えてしまう。
「リーザさんと一緒の部屋は不味いと思うんですよね、プランさんやトールさんが聞いたら、誤解を与えてしまうと思うので、俺とシアで泊まりますよ」
「大丈夫ですよ!プランさんもトールもラムさんの事信じてますから、変な誤解は生みませんから!」
「いや、でも・・・」
結局リーザさんは説得できずに、初日はリーザさんと相部屋、二日目はシアと相部屋になった。
どうしよう理性が保てる自信がない・・・。
「じゃあ、汗を流したら食堂に集合な」
「「「はーい」」」
部屋に荷物を置いてまずは汗を流しにシャワー室に向かう。
シャワー室と言っても本当のシャワーではなくて、水瓶が置いてあって手桶で体に掛けるのだけだ。
汗を流してスッキリして食堂に行くとまだ誰も来ていなかった。
空いてるテーブルに座って店の子に声を掛ける。
真っ黒に日焼けしていて垢抜けない、15才前後の女の子が
気だるそうにやって来る。
「ワインと適当にツマミを頂戴」
「はーい」
しばらくして、ワインと料理を一皿を持って来てくれた。
「チーカのもつ煮とワインね」
「ありがとう」
チーカのもつ煮は色は茶色くて見た目は悪いが、食べてみるとグニグニした食感で味は良い。
「あー!もう食べてる。ズルいですよ」
ルリアがピンク色の長袖のカットソー、一枚とズボンのラフな格好で現れる。
「ルリアも皆が来るまで一杯飲みながら待ってるか?」
「いいですね!すみませーん!果実酒とサラダ下さい」
ルリアと二人で先に飲み始めたのだが、シアとリーザさんがなかなか来ず、来たのは二杯目に手を付けた時だった。
「お待たせしました」
リーザさんとルリアも加わり皆で楽しく食事とお酒を楽しんだ。
食事を終えてリーザさんと部屋に戻る。
「いいラム!絶対リーザさんに近づいちゃ駄目だからね!」
シアに凄い目で睨まれて釘を刺された。
リーザさんと二人で部屋に戻ったのだが、緊張で何を話せばいいのか、二人で無言の時間を過ごす。
「あのー、着替えるので後ろ向いててくれますか?」
「はい!」
リーザさんを背にしてベッドに腰掛ける。
後ろでリーザの着替えの服の擦れる音が聞こえてくる。
今、振り向けば裸かもしれないぞ・・・
「終わったので向いてもいいですよ」
振り向くとリーザさんは白い薄手の寝巻きに着替えていた。白い寝巻きは足首までの長さのロングワンピースだ。
その普段見ることの無い寝巻き姿に目が離せない。
「あの、ラムさん、そんなに見られると恥ずかしいんですけど・・・」
リーザさんが苦笑いする。
「すみません!余りに綺麗だったもので見とれてました!」
「ありがとうございます」
リーザさんが満面笑みでお礼を言った。
灯りを消してベッドに入ったのだが、興奮して寝れる訳がない。
ベッドとベッドの距離は手を伸ばせば届く距離で、すぐ近くにリーザさんの気配を感じられる。
リーザさんが動く度にドキドキする。
これってリーザさんに迫ってもいいのかな?
でも、リーザさんにそんな気が無かったら犯罪だし、あったとしてもシアは怒るだろうし、トールさん、プランさんにも合わせる顔がないし・・・。
頭では駄目だと解っていても、欲望が抑えきれない。
ああ、どうすりゃいいんだ!
悶々とベットで悶えていると、リーザさんが話し掛けてきた。
「ラムさん・・・」
「はい!」
「ちょっと、話してもいいですか?」
「はい!」
「ラムさん、ありがとうございます」
「はい?」
「ラムさんがうちのギルドに来てくれてなかったら、きっと今頃私はこんなに楽しい日々を送って無かったと思います。メイソンの時、助けてくれて有り難う御座いました。太陽の神殿の前で出逢えたことは、きっと太陽の神の導きがあったんだと思ってるんです」
しばし間を空けてリーザさんが話し始める。
「ラムさんが来て驚かされる事ばかりですけど、ラムさんを見ていると私も頑張ろうって思えて・・・。だから、すごくラムさんに感謝してるし、尊敬もしてるんですよ。あんまりちゃんとお礼を言える機会がなくて、この旅でちゃんとお礼を言いたいって思ってたんです」
「お礼を言うのは俺の方ですよ。この世界に来て右も左も分からなくて不安な時に目の前に天使が現れて、俺を助けてくれたんです。ギルドの皆に親切にしてもらって、すごく嬉しかったです」
「私・・・。最近錬金術がすごく楽しいんです。昔は錬金術が好きで楽しかったんですけど、お爺ちゃんが死んでからはギルドを守る事でいっぱいいっぱいで、ぜんぜん楽しくなくて、でも最近は昔の様に新しいポーションが出来た時とか、上手く出来たときなんかは嬉しくて、もっと色々なポーションを作ってみたいとも思えて・・・。そしていつかはお爺ちゃんみたいに成りたいって思ってきて・・・それも全部、ラムさんのお陰だと思ってます」
俺は何も答えずリーザさんの言葉を待つ。
「私、最近好きな人が出来たんです。その人はすごく真っ直ぐな人で、優しくて、すぐに何でも出来ちゃって、でも少しエッチで、可愛い人なんです。私今、新しいポーションにチャレンジしてるんですけど、なかなか上手く出来なくて・・・でもそのポーションが成功したら、この気持ちを伝えようと思ってるんです。ねえ、ラムさん。その人はそれまで待っててくれますか?」
「はい!きっと待ってると思います!」
「ふふふ。そうですか。話聞いてくれてありがとうございます」
えええ!それって俺の事!?
「ふぁ、じゃあ、そろそろ寝ますね。おやすみなさい。ラムさん」
リーザさんの甘い声のおやすみが聞こえてくるが、寝れる訳ないよね!
好きな人って俺か?違うか!?でも俺の事だよね!
でも違うか?はあ?!
そんなこと今言われたら気になって寝れる訳ないだろう!
頭の中をぐるぐるリーザさんの言葉が回る。
こうなったら・・・あの手を使うしかないか・・・。
「スリープアロー!」
自分目掛けてスキルを発動する。
光の矢が自分に当たると激しい睡魔が襲ってくる。
「ラムさん!どうしたんですか!?ラムさん!」
「リーザさん、おやすみな・・・さ・・・い」
リーザさんの慌てる声を聞きながら俺の意識は深い闇に落ちていった。