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馬車の旅路

 日の出と共にベルクドの町を四台の馬車の一団が砂煙を上げながら出発する。

夏の終わりに差し掛かり過ごしやすい日も増えてきているが、まだ日差しは強い。

幸いにも馬車の中は幌があって日陰になっているし、馬車が走れば真ん中の吹き抜けを風が通り抜けて熱もこもらず快適に過ごせる。


 出発してすぐに買った朝食のサンドイッチを平らげ、王都に胸膨らませて、話も王都に着いたら何処を見たいかの話題になっている。

王都はベルクドの町から順調に行って5日掛かる。

全部で四ヶ所の町に泊まって五日目の昼過ぎには王都に着ける予定だ。


 美女三人とこれから十日以上の旅行に行くと思うと楽しくてしょうがないが、旅の特殊な環境化で俺の理性が保てるかが心配だ。


「ルリアのお薦めの王都での観光名所はあるのか?」


 ルリアがうさみみを傾げながらしばし思案する。


「そうですね、王都と言えばコロシアムが有名ですかね」

「コロシアムって戦う所だろ?人と人が戦うのか?それとも魔物と人が戦うのか?」

「どっちもありますよ。どっちも人気があって交互に開催されてるんですよ。私達が王都に滞在する期間はどっちでしょうかね?」

「一度は観てみたいな」

「ちょっと野蛮なんじゃない、私はちょっと怖いかも」


 シアがしかめっ面で答える。


「じゃあ、シアはご飯以外で何か観たいものあるか?」

「あるの!私、一度でいいから王都の演劇を観てみたい」

「劇かそれも面白そうだな」


 シアが笑顔で楽しそうに友達から聞いた劇の内容を力説してくれる。


「シアがそこまで楽しみにしてるんなら、劇は滞在中に一回は観に行こうな」

「やったー!さすがご主人様!太っ腹ね!・・・て何よその手は?」

「シアがすごく喜んでくれたので、飛び付いて来るかと思って、迎え入れる手の形だけど?」

「はあ!な・な・なに言ってるのよ!するわけないでしょ。・・・したくても皆の前じゃはずかしくて出来ないわよ・・・」


 シアが顔を真っ赤にしてモジモジしてるので次はリーザさんに聞いてみる。


「どっか行きたい所はありますか?」

「私は是非、王都の服屋を見て回りたいです!後、五番路にすごくお洒落なお菓子屋さんがあるって聞いたんで、そこも行ってみたいです!」

「良いですね!王都の流行りの服に身を包んでベルクドに帰って自慢しますかね。お菓子屋さんのお菓子もプランさんのいいお土産になりそうですね」

「ですよね、絶対行きましょうね」

「ラムさんは何処か行きたい所ありますか?」


 ルリアがほわっとした表情で訪ねてきた。

俺自身これと言って趣味も無いし行きたい所が思い付かないが、皆の行きたいと言った所は全て興味があった。


「今回王都で開催されるオークションは実際に見てみたいかな」

「ラムさんが作ったポーションが出品されるんですよね」

「ああ、自分が作ったポーションがいくらになるのかは興味があるかな」


 馬車の中でそんな話をしている間に一回目の休憩場所に到着した。

休憩場所と言っても何もない、ただ小屋が建っているだけだが。

この大所帯では小屋に入れる訳もなく、馬車から降りて用を足したり体を動かしたりする為の休憩だ。

ベルクドから王都までは、整備された道が続き快適な馬車の旅が約束されている。


「ピーーーーー!」


 笛の合図が聞こえて馬車に戻って出発する。

次の馬車の中の話題は王都で何を食べたいかの話で盛り上がっている。

シアが熱弁を振るうのはシアの故郷のヒュガールデンの香辛料を使った料理が食べたいそうだ。


「ベルクドの町も結構香辛料の種類が多いんだけど、私の好きなナツの実の香辛料が無いのよね。あれが無いと私の一番好きな料理が出来なくて、王都だったら売ってると思うから、買って一度はラムに食べさせたいの。すっごく美味しいんだから」

「それは楽しみだな、絶対に買って帰ってシアの好物の料理を俺にも食べさせてくれよ」 


 シアが嬉しそうに頷く。

ルリアも大きく頷きながら話に加わってくる。


「それってすごく良く分かります!私も故郷の味がすごく恋しくて、王都の奇人亭て宿が同郷の人が経営していて、そこによくご飯食べに行くんですよ」

「ルリアの故郷て何処なの?」

「私の故郷はリースて町でヴィーラも同じ町の出身なんですよ。周りを森に囲まれた町で、主にダンジョン資源を採掘しているんです」

「ダンジョン資源?」


 ルリアの話によるとダンジョンの中にモンスターが現れる。

倒すと素材と魔石を残す。

それを売って金に換える。

やってる事は地上と変わらないのだが、倒したら勝手に肉体が消滅して、素材と魔石に変わるので剥ぎ取りの時間が掛からないし、遭遇頻度が高く効率も良い。

各階に設置された転移門を使えば直ぐに目当ての魔物の階層に行くことが出来て、強ければ日帰りで大金が稼げるらしい。

一度は行ってみたい所ではあるな。


「リーザさんは何が食べたいですか?」

「私はですね、七番通りにあるレストランがお洒落で美味しいと伺ったので是非ともそこにご飯を食べに行きたいです」


 さっきからリーザさんの行きたい場所が具体的過ぎるんだが。


「よく調べてありますね」

「はい!もう、楽しみで最近王都に行った人にバッチリ聞いてきましたから」

 

 リーザさんは花咲く笑顔で力拳を作る。

ご飯の話で盛り上がる中、昼前に次の休憩場所に到着した。

昼の休憩場所は村で、村の柵の中に入ると馬車目掛けて村の住人達が子供も大人もわらわらと物を売りに来た。

当然俺達が乗る馬車にも村人が物を売りにやってくる。


「これ要りませんか?」


 最初に売りに来たのは村の小学校低学年くらいの女の子で、篭に赤い実を沢山入れている。


「その赤い実は何なの?」

「シーの実だよ」


 俺の質問に女の子が赤い実を差し出してくれて、受けとり食べてみる。

サクランボを一回り小さくした実は、小さなリンゴのような食感で、甘酸っぱくて薄味で美味しくはないが、不味くもない。


「どう?美味しい?」

「ああ、美味しいから貰おうかな。いくらだい」

「えっと、篭半分で5G」


5G渡してシーの実を半分貰う。

女の子は嬉しそうに5Gしまうと次の馬車に売りに行く。

直ぐに次の村人が売りに来る。

次に来たのはおばちゃんでお弁当を売りに来たようだ。


「どうだい、私が作ったマイキノコの弁当だよ」


 おばちゃんが見せてくれた弁当は、茶色いご飯に人の手の形をしたキノコが載っている弁当だ。

炊き込みご飯みたいで旨そうだな。


「この弁当食べたい人いる?」

「私食べたいです!」


 皆に声を掛けるとルリアが元気に手を挙げたので、俺の分と二個マイキノコ弁当を買った。

おばちゃんの後ろには、もう次の売り込みの村人が並んでいる。

次から次に面白そうな物を売りにくるので、ついつい買ってしまうと、よく買ってくれる人だと分かったのか、村人十人程にに囲まれて、これもあれもと薦められたが、さすがに人数が多くて対応出来なくなって、断って馬車に逃げ込んだ。


「いやー、ラムさん大人気でしたね」

 

 ルリアがいたずらっ子の笑みで話し掛けてくる。


「ビックリしたよ。すごい勢いで売り込んでくるな」

「たまにラムさんみたいに人が好いと分かると、ああやって囲まれちゃうんですよ。ちなみに最初のシーの実なんて普段の倍くらいのGを取られてましたよ」

「えー!あんな可愛い子にぼったくられたのかショックだな」


 シアが冷ややかな目線を向けてくる。


「小さくたって立派な商人なんだから、駆け引きくらいするわよ。可愛いって最初から侮ったラムの負けね」


「ピーーーー!」


 笛の合図と共に馬車は一斉に出発する。

馬車の中で先程買った色々な食べ物を並べて昼食にする。

ルリアが楽しそうにマイキノコを持ち上げてヒラヒラさせる。


「見てください、おばあちゃんの手にそっくりですよね。懐かしいなー。よく森で採れるんで食卓に並ぶんですよ。あの頃はあまり好きじゃ無かったのに、何故か最近無性に食べたくなるんですよね。さっきのシアさんのナツの実と一緒ですね」


 そんなマイキノコの弁当は旨かったが、キノコとご飯だけなのでちょっと寂しい。

他に買った物も食べてお腹がいっぱいになった昼過ぎ、当然眠気が襲ってきて、皆も次第に口数が少なくなってくる。


「ラムさん、よかったら私の膝使って下さい」

「すーぴー」


 リーザさんが優しく微笑んで自分の膝をぽんぽんと叩く。

俺は意思が弱く流され易い男なのだ。

ちょっと恥ずかしいが、お言葉に甘えさせてもらって、座りながら上半身を馬車の椅子に寝かせて、枕がわりにリーザさんの膝に頭を乗せる。

ふわふわの感触だし、なんか良い香りもするような気がするし最高だよー。

リーザさんが優しく俺の髪の毛を撫でてくれるし天国!

目の前のシアのどぎつい視線がなければさらにリラックス出来るんだが。


「すーぴー」

「シア、明日はシアが膝枕してくれよ!」

「え!・・・私・・・」

「シアちゃんが嫌なら、私が明日もラムさんに膝枕してあげる」

「嫌、嫌じゃないわ・・・、明日は私がするから・・・」

「すーぴー」


 ちなみにルリアはさっきからすーぴーと寝息を立ててヨダレを垂らしている。

後でルリアの顔にイタズラ描きしてやろうと。



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