王都にむけて出発
月の祭りが終われば王都に向けて出発しなくてはいけない。
王都で錬金術ギルド総会が開催されるのだ。
ギルド総会に行くのは俺と護衛のルリアの二人で行くつもりだったのだが、リーザさんが一緒に行くと言い出してギルド内でもめていた。
「私もラムさんと一緒に王都に行こうと思います!」
「でも一緒に行くと、ギルドにきた納品依頼が滞ってしまいますよ」
「大丈夫です!この日の為に私、徹夜してポーションの作りおきをしておいたんです」
リーザさんが目の下に隈を作りながら笑顔で答えたので、プランさんに在庫状況を確認する。
「プランさん、リーザさんが抜けたら仕事がキツいんじゃないですか?」
「そうだねー、キツいんだけどさ、リーザの言う通り最近リーザは頑張って、だいぶ納品してくれたからね。確かに10日は持たないけど、頑張ってたから行かしてやりたいんだよね」
プランさんが許可を出すなら納品はどうにかなりそうだが、さて、トールさんとリーザさんの関係を考えると、どうしたもんか。
トールさんとリーザさんの最近の関係は良くも悪くもない。
ただ、最近は二人がくっついているのを見たことが無いので、別れたんじゃないかと思っている。
だからといってリーザさんに手を出そうなんて思ってない。
トールさんもリーザさんも好きなのだ。
勿論、トールさんは良き先輩、友達として好きなのでボーイズラブは無い。
そんなトールさんとの関係を考えるとリーザさんとこれ以上、親しい関係になるのがためらわれた。
最近、グイグイ押してくるリーザさんには気付いているので、出来れば王都には連れて行きたくない。
だって・・・これ以上、グイグイ来られたら意思の弱い俺は絶対に流されるてしまう!
「トールさんもリーザさんが居ないと一人で依頼を捌くのは大変ですよね?リーザさんには残ってもらった方がいいですよね?」
トールさんにリーザさんを引き止めてもらう作戦だ。
「一人では大変だけど、リーザがそこまで王都を見たいなら、勉強の為にも行って来たら良いと思うよ。王都には見たことがないポーションも売られているし、僕も一緒に行って勉強したいけど、今回は皆に譲って今度休みを貰って王都に勉強に行かせてもらうよ。もし珍しいポーションが有れば是非買ってきて欲しいな」
トールさんに引き止めてもらう作戦が失敗したので、シアに引き止めてもらう作戦に切り替える。
「シアもリーザさんも俺も居ないと寂しいよな」
「・・・私も一緒に行きたい」
シアが俺の問い掛けに睨み返してくる。
「連れて行ってあげたいけど、プランさんが困っちゃうだろ」
すぐさま、プランさんがシアに助け船を出す。
「連れっておやりよ。シアちゃん一人残して可哀想じゃないか」
「でも、プランさん仕事大丈夫ですか?」
「仕事の方はなんとかするから、シアちゃんも連れってやりな」
さっきまでスゴく睨み付けてたシアだが、プランさんの話を聞いて笑顔になる。
こんなシアの笑顔を見たら残していけないよな・・・。
「じゃあ、プランさんに甘えてシアも連れて行きますね。お見上げ買って来ますから」
「シアちゃんが良いなら私も良いですよね!ラムさん!」
リーザさんがめっちゃ可愛い笑顔なのだが、ノーとは言えない圧力を秘めた笑顔で微笑み掛けられた。
「はい・・・。リーザさんも一緒に行って貰えますか」
「はい!」
てな感じで王都には四人で行くことになった。
王都には馬車の定期便が出ていて、それに乗って行くことになる。
勿論、個人的に冒険者を雇って行っても良いのだが、危険だし金も掛かる。
事前の予約制と言うことで町の中の馬車ギルドに四人で予約に行った。
馬車ギルドは町の大通りにあるのだが、結構こじんまりとしていて、受け付けも三個窓口があるが、そのうち二つは閉まっていて一ヶ所しか開いていない。
開いてる窓口に並んで順番になったのでカウンターまで進む。
受付は馬の獣人のお姉さんで目がくりっと大きくて、頭には三角形の馬の耳が付いていて、髪は濃い茶色でウエーブが掛かっていて結構可愛い。
「痛!」
なぜかリーザさんとシアに両方から両脇をつねられた。
「王都に行く馬車に乗りたいんですけど」
「はい、次の便が月の祭りの三日後に出発になります。乗り合いと貸し切りが在りますが、どちらにしますか?祭りの後なんで乗り合いはぎゅうぎゅうですよ、その先は半月後になります」
「貸し切りだといくらですか?」
「片道一馬車1,600Gですね」
高いがギュウギュウは嫌なので貸しきりを申し込んだ。
賑やかな月の祭りも終わり出発当日を迎えた。
早朝、町の入り口に集合すると多くの馬車と見送りの人々、馬車を護衛する冒険者、騎士団の姿も見える。
たぶん何処かにサラダ商会の馬車も混じっている筈だ。
多くの馬車から自分達の乗る馬車を探すと、長い馬車の列の、中央よりやや後方に位置する場所に発見した。
それにしてもいったい何台の馬車が同時に出発するのか。
ざっと四十台はあるんじゃないだろうか。
自分達の馬車の位置を確認し乗り込む前に買い出しに行く。
「ラムさん、この町を離れると当分、美味しい魚は食べられないので、馬車の中で食べるお弁当は魚介類にしましょうよ!」
旅慣れたルリアの提案で馬車の中で食べる弁当は魚のフライのサンドイッチにした。
馬車は高い値段払っただけあって、座面にもクッションが使われている。
安い馬車は木の椅子でギュウギュウに座っていて、馬車によっては通路に座っている人さえいる。
俺たちの馬車は片側三人掛けで向かい合わせに座るように出来ている。
詰めれば八人が乗れそうな広さを四人で使っているので非常に広くて快適だ。
馬車の御者が下手に出た笑顔で挨拶してくくる。
「ラムザール様、御一行様ですね。モッチと申します。王都までよろしくお願いします」
モッチと名乗った御者は小柄な中年男性で荒事を好むようなタイプにはまったく見えない。
「ラムザールです、こちらこそよろしくお願いします」
「シアです」
「リーザです」
「ルリアです」
女性陣達も次々に挨拶していく。
「これは、美人揃いで羨ましい限りですね」
「余り旅に慣れていないので色々と教えて下さい」
モッチに心付けとして20Gを差し出すと満面の笑みで頭を垂れる。
「これはこれはありがとうございます」
「王都に快適に着けたらまたお渡ししますね」
心付けは渡さなくて良いのだが、渡した時と渡さない時では、やはり渡した時の方が親切だとルリアから聞いていたので渡した。
全額渡さないのも重要らしい。
乗り込んでしばらくすると馬車がゆっくり動き始める。
「やっぱり、旅って何だかワクワクしますね」
「リーザさんは旅は何回目ですか?」
「昔、祖父に連れられて王都に行った事がありますが、もう五年くらい前になりますね。その時もギルド総会に祖父が出席するので、勉強の為について行ったんですが、初めて見る王都は凄すぎてビックリしましたよ。何もかもがすっごく大きいんですよ」
「それは楽しみですね!俺もワクワクしてますよ」
俺とリーザさんの前に座ってる居るシアとルリアのコンビは、馬車が動き始めて間もないのに、サンドイッチを食べ始めている。
「おい、ちょっとご飯には早くないか?」
「だって、お腹空いちゃたんですよー」
「私もルリアが食べてるの見たら我慢できなくて・・・」
確かに目の前で食べられると無性に食べたくなるな。
俺もサンドイッチを包み紙から出して口に運びながら外に目をやる。
馬車から外を眺めると馬車には乗らないで、駆け足で馬車に付いてくる人々もいて大名行列みたいになっていた。
海風が気持ち良く馬車の中を通り抜けていき、たまに木々の間から光輝く海が見える。
馬車の幌のお陰で日光の光も気にならずとても快適だ。
王都への期待を胸にベルクドの町を後にした。