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月の祭り

一回は書いて見たかったテンプレの町を歩いていたら絡まれるやーつです

「ラムさん、ラムさん」


 リーザさんに肩を揺すられて意識を取り戻す。

太陽の神殿で祈りを捧げていたら、正確には欲望を願っていたらなのだが、転生前の嫌な記憶が蘇ってきてしまった。

あの頃は辛くて今思い出してもゾッとする。

正常な思考が出来ていれば、いくらでもあの地獄から逃げる方法は有ったと思う。

しかし、あの当時はそんな事さえ考えれないほどに追い詰められていた。


「ラム?大丈夫?ちょっと顔色が悪いよ?」


 シアが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

今はこんなに心配してくれる人が側に居てくれる。

それだけでどんなに辛いことも乗り越えられる気がするし、シアを守りたいとも強く思う。

気持ちを切り替えて笑顔をシアに向ける。


「ありがとう、シア。大丈夫だ。さあ、祈りも済んだことだし美味しい物食べに行こう」

「うん!」


 食いしん坊シアが笑顔で頷く。

太陽の神殿を後にして通りにある屋台で美味しそうな物を買って、食べながらリカの食堂に向けて歩いていく。

辺りが少し暗くなり始めて間もないが、昼過ぎから飲んでいる人々なのか、もう酔っぱらって騒いでいる集団がいる。 


「もう、うるさいなー」


 シアがしかめっ面で酔っぱらいの集団を睨みつける。

リーザさんが笑顔でシアと腕を組む。


「月のお祭りの期間中はずっとこんな感じですよ。飲食店以外は殆どがお休みになって、皆さん休みを満喫するんですよ。ちょっと治安が悪くなるんで夜は出歩かない方が良いですよ」


 この世界では決まった休日が無い。

休みたい時に休んで働きたい時に働く。

その代わり、給与は日割り計算なので働いた分しか貰えない。

月の祭りや太陽の祭りなど、祭りの期間は多くの人が休みを取っている。

 

 シアとリーザさんの美女二人が、腕を組んでじゃれあっているだけで目の保養になるなー。

そんな美女二人は当然目立つ訳で、直ぐに酔っぱらった男達から声が掛かる。


「ねえ、この近くに美味しい店があるんだ一緒に行かない?」


 声を掛けて来たのはシアと同い年くらいの十代半くらいのグループで、上等な服装から商人の息子か、兵士や役人の息子だろう。

当然、声を掛けられた男性嫌いのシアなんかは、露骨に嫌な顔をして睨みつけている。

リーザさんは作り笑いで対応して断っているが、男達もなかなか引き下がらない。


「良いなー。私も声掛けられたいなー」


 ルリアが俺の横でリーザさんと男達のやり取りを眺めている。


「じゃあ、シア達と代わって来れば?たぶん男達は喜んでルリアを食事に誘うと思うよ?」

「えー、ラムさんは私が居なくなっても良いって言うんですか?」

「・・・ゴメン。絶対嫌だわ。ルリアは渡さん」

「そうでしょ!もうー」


 てな感じでルリアとふざけていると、シアの声が聞こえる。


「ちょと触らないでよ!」

「いいじゃん、ね、食事だけだから一緒に行こうよ」

「さっきから言ってますが、私たち連れが居るんです」


 リーザさんがこちらを指差すと男達が、俺を見てクスクス笑う。

なんか失礼な奴だな!


「あんな奴より俺たちの方が格好いいし、金だって持ってるぜ。俺たちと遊んだ方が良いって」

「もー!話し掛けないで!ラムの方が格好いいから!」


 シアが切れ気味に男達に言うが、男達はヘラヘラして全く聞いていない。


「分かったよ、俺がそのラムって奴に話を付けて来るから、ちょっと待っててね」


 おい、何が分かったんだよ、ぜんぜん分かってないよね。

男達がニヤニヤ笑いながら俺に近づいてくる。


「お前がラムか?」

 

 おい!めんどくさいな!

無視しよっと。

男達を華麗にスルーしてシアとリーザさんの元に向かう。

余りに華麗にスルーし過ぎたのか男達はポカンとした後、間違えたと思ったのかトールさんに絡みに行く。


「お前がラムか?」

「君たち女性が嫌がってるのに強引に誘うのは良く無いと思うよ」


 真面目なトールさんは絡んで来た男達に説教を始めたので、男達に周りを囲まれてしまっている。


「ねえ、ラム、トールさん助けなくていいの?」


 シアが心配そうに俺の服を掴んだ。

さすがに俺もトールさんが絡まれているのは気分が悪いので、男達の方へ戻って声を掛ける。


「おい、俺がラムだが何か用か?」

「なんだ!やっぱりお前がラムか!無視してんじゃないぞ」


 トールさんから俺に標的を変えて、俺を囲んで威圧してくる。

 

「おい、ちょっとさ、あの子達貸して欲しいんだけど良いよな?」

「良いわけ無いだろ。もう、俺たちに話し掛けないでもらえますかね。トールさん行きましょう」


 トールさんとその場を離れようとすると、男が俺の胸ぐらを掴んできた。


「てめえ、さっきから何だその態度は!痛い目に遭わないと分からねえみたいだな」

「先生出番ですよ!」


 ルリアに声を掛けるが返事が無い。

あれ?辺りを見渡すと屋台の方から串焼きを頬張りながらルリアが戻ってくるじゃないか。

おーい!ルリア先生、いつの間に抜けて串焼きなんて、買いに行ったんですか?


「あれ?ラムさんどうしたんですか?」

「どうって、絡まれてるんだよ。ルリア、助けてくれよ」


 その言葉に男達がどっと笑い出す。


「おいおい、こいつ片腕が無い女に助け求めてるぞ!」

「そうですよ、ラムさん。こんなに可愛い女の子を掴まえて、そいつらをボコボコにしてくれなんて、酷いですよ。あ!この串焼き美味しい!はい。これシアとリーザの分ね。ラムさんの分もちゃんと買ってありますからねー」


 ルリアは美味しそうに串焼きを食べ続ける。

俺と男達の騒動を聞いて周りに野次馬が集まり始める。


「お!喧嘩か!やっちまえー」

「女の取り合いだってよ」

「おー!すげー、美人が三人も居るな!」

「うわー、確かにあの男はエロい目してて、モテなさそうだよな」

「エロ目のやっかみか?」

「早く、始めろ!」


 周りに集まった野次馬達が好き勝手言っている。

首筋にピリピリした危険探知スキルが反応して、慌ててかわせたが、いきなり男が殴り掛かってきた。


「ははは、かわされてるよ!」


 殴り掛かってきた男の仲間が殴り掛かってきた男をバカにする。


「バカ、ちげーよ!わざとかわせる様に殴ったんだよ!不意打ちは卑怯だろ!」

 

 殴り掛かってきた男は仲間達の嘲笑に言い返すと、今度は蹴り上げてきた。

これも危険探知スキルのお陰でなんとかかわすことが出来る。

ナイフを出せば一瞬で倒せるのだが、町の中の酔っぱらいの相手に刃物を出すのも違うと思うし・・・。

相手が武器を出すならこちらも使うが、相手が素手ならこちらも素手しかないよな。

でも、喧嘩なんてしたこと無いからな、小学校時代に柔道教室に通ってはいたけど、役に立つかな?


 酔っぱらいの若い男が殴り掛かって来るが、ナイフを出さずとも相手の動きがしっかり見えていて、距離を取りながら相手の攻撃をかわしていく。

普段、ナイフスキルに頼っているとはいえ、ルリアとの朝練の効果が出ている様で、町の酔っぱらいくらいはなんとかなりそうだな。


 リーザさん、シア、トールさんが酔っぱらいに殴り掛かれているのを見て悲鳴に近い声で俺の名前を呼んでいる。

シアは今にも泣きそうな顔だ。

ルリアは相変わらず串焼きをほお張りながら二本目の串焼きとにらめっこしているが、その二本目て俺の分じゃないか?


「ちょこまかと逃げてんじゃねー!」


 酔っぱらいの若い男は逃げ回る俺に痺れを切らして掴み掛かってきた。

男と取っ組み合いになる。

相手を上下に体重を掛けながら揺さぶり、重心がずれて、相手が一歩前に出て、体勢直そうとした足が、地面に着く瞬間に刈り取りながら投げ飛ばす。

この世界でキングウルフやドラゴンもどきを倒す度に、筋力が上がっている俺だ。

俺が思っていた以上に軽々と男を投げ飛ばせた。

ただ、叩きつけた訳では無いのでダメージはそこまで無い。


「うおぉぉぉぉ!」


 地面に転がされた男はさらに姿勢を低くして、ラグビーのタックルの様に突っ込んで来たので、相手の顔面に膝蹴りを合わせると、嫌な感触が膝に伝わり、男は痛みの余り顔面を手で押さえて地面にうずくまってしまう。


 それを見て酔っぱらいの仲間達が慌てて地面にうずくまる男を助け起こす。


「ラム!怪我はない!」


 シアが駆け寄ってきて俺の体をペタペタ触る。


「ああ、俺は大丈夫だ」


 シアを安心させたくて、興奮していたが笑顔作ってシアの頭をポンポン撫でる。

酔っぱらいの男達に向き直りポーションを差し出す。


「ほら、これ使え。もう俺たちに絡んで来るな」


 酔っぱらいの一人がポーションを受けとると、顔面を押さえている男に直ぐにポーションを使う。

ポーションを使って回復した酔っぱらいの男が叫び始める。


「お前、こんなことしてただで済むと思うなよ!親父に言いつけてやる!俺は衛兵にも顔が利くんだぞ!」

「おい!騒がしいな何しているんだ!」


 騒ぎを聞き付けて巡回中の衛兵四人がやって来た。

酔っぱらいの男は駆けつけた衛兵の一人と知り合いの様で、いっきにまくし立てて俺の方を指差す。

酔っぱらいの知り合いとおぼしき衛兵が険しい顔で俺に近づいてくる。


「おい、お前そこの男が言っている事は本当なのか!」


 俺たちの方に来た衛兵に今度はリーザさんとシアが必死に説明するが、衛兵は酔っぱらいの男の話を信じたい様子がありありと分かる。


「詳しくは詰め所で聞くから一緒に来てもらう。お前名前は?」

「錬金術ギルド、ギルドマスターのラムザールです」

「へ・・・?」


 衛兵に名乗ってベルクドのブローチを見せると衛兵がすっとんきょんな声を上げる。


「ベルクドの紋章・・・ギルドマスター・・・し・失礼しました!私、巡回警備隊のカンフルと申します!」

「カンフルさん、早くそいつらを捕まえてくれよ!」


 先程俺にやられた男がカンフルに近づいてくる。


「バカ!お前、この方は御用契約されている錬金術ギルドのギルドマスターだぞ!」

「え・・・?このエロい目の男が・・・ギルドマスター・・・」


 酔っぱらいの若い男も豆鉄砲を食らった鳩の様な顔で俺の顔を見た。

エロいは余計だ。

その後、酔っぱらい一同は俺たちに頭を下げて謝罪して、反省の為に衛兵の詰め所に連れて行かれたのだった。





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