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リーザさんのあーん

 リーザさんに連れられてやって来たのは上の商店街にあるレストランの一軒だ。

店の前はテラス席になっていて昼御飯には早い時間なので、お茶やお菓子を楽しんでいる人々で賑わっている。

青い屋根に赤い煉瓦作りの外見にお洒落な椅子と机が並べられていて、見るからに男だけでは入りづらい雰囲気だ。

 

「ここのケーキが凄く美味しいんですよ」


 嬉しそうなリーザさんに連れられて店内に入ると、店内は赤で統一され、女性が好きそうな装飾がされている。

リーザさんのお奨めのセットと、ここで人気のケーキを注文した。

店員が料理を運んで来てくれたのだ、リーザさんが俺の注文した料理を受け取って、俺の前にリーザさんが注文した料理が並べられる。


「あれ?リーザさん。そっちが俺の注文した料理じゃないですか?」

「そうですよ。こっちがラムさんの注文した料理で、ラムさんの前の料理が私の分ですけど、これで良いんです」


 リーザさんがニコニコの笑顔で料理を取り分けて、スプーンに載せて俺の口の前に差し出してくる。


「はい、ラムさんどうぞ」


 差し出されたスプーンをくわえる。


「ありがとうございます・・・うん。美味しいです」

「じゃあ、次はこれをどうぞ」


 俺が美味しそうに食べるのを満足げに見ると、次の料理も切り分けて食べさせてくれる。


「あの・・・リーザさん。食べさせてくれるのは嬉しいんですけど、全部これやるんですか?」

「はい!今日は私が全部ラムさんに食べさせようと思います」


 リーザさんが晴れやかな笑顔で宣言する。


「えーと、何でまたいきなり・・・。嬉しいんですけどちょっとびっくりしました」


 リーザさんが口は笑っているのだが目だけが細目られる。


「昨日、ルリアと食べさせっこをしたって聞きましたよ」

「え!・・・食べさせっこと言うか少し味見に貰っただけですよ」

「昨日、ルリアが私とシアに教えてくれましたよ。ラムさんがそれはそれは嬉しそうに口を開けてたって。なので今日は私がラムさんに食べさせてあげますね」


 リーザさんは笑顔なのだが拒否出来ない圧力で次のスプーンを差し出す。

ちょっと寒気がしたが、食べさせてくれるって言うなら、もう楽しめば良いか!

俺は色々な事を考えるのを放棄する。

せっかくリーザさん食べさせてくれるのに、後のことをあれこれ考えるより、俺は全力で今を楽しむ事に決めた。


「じゃあ、リーザさんにも食べさせますね」

「はい」


 俺がスプーンを差し出すとリーザさんは目を閉じて小さく口を開ける。

目を閉じて小さく口を開けるリーザさんの口に料理を運ぶのってキスをしているみたいですごくドキドキする。

ルリアの時とぜんぜん違う!

やばい!めっちゃ興奮する。


「ラムさん、あーん」

「リーザさん、あーん」


リーザさんと交互に食べさせ合ったのだが、どこのバカップルだこれ・・・。

ただ、やってる当の本人達からすれば幸せこの上ない訳で、店員や周りの客の視線などお構い無しにいちゃつく。

心もお腹もいっぱいになって、皆のおみやげにケーキを人数分テイクアウトする。

帰り道も手を恋人繋ぎでがっちり握ってラブラブオーラ前回で帰った。


 ギルドに戻ってギルドの皆に貰った御用契約の証書を見せると、皆すごく喜んでくれた。

皆のこの笑顔を見れるなら御用契約した甲斐もあったな。

ちなみに、ギルドの近くでリーザさんとはどちらからともなく、手を放して何気ない顔でギルドに入った。


「ところで、この箱って何ですかね?」


 証書と一緒に貰った箱を開けると、騎士団の旗に描かれている、紋章の金で出来たブローチが出てきた。


「高そうね・・・」


 シアがそんな感想を漏らす。

確かに金で出来ていて細かい細工仕事で高そうだな。

トールさんやプランさんも金のブローチを興味津々に見つめる。

トールさんの説明によるとベルクドの御用契約を証明するもので、関所や、町の入り口等で見せると検問が緩くなったり、便宜を図ってくれるそうだ。

この世界では貴族は権力の象徴で金持ち商人と言えど、貴族には逆らえない。

悪事をしても貴族と一般市民では法律が違うらしい。

この御用契約のブローチはそんな貴族の保護に入っている証明であり、一般市民と貴族の間に位置する扱いになる。


「ラムさん付けてあげますね」


 リーザさんがブローチを胸に付けてくれた。

リーザさんと距離が近くなって髪から甘い香りが香ってくる。


「似合ってますよ!」

「似合ってるよ、マスター!」

「良いじゃないかな」

「格好いいですよ!」

「僕もいつか付けてみたいな」

「・・・おめでとう」


 御用契約のブローチを付けた俺をギルドの皆が口々に誉めてくれる。


「???・・・レントさん!」


 びっくりした!レントさんの存在を忘れていたが、久しぶりに錬金術室から出てきたのを見た。

それ以上レントさんが話す事は無かったが、もしかしたら初めてレントさんに話し掛けられた気がする。





 その日、仕事終えて家に帰ってシア、ルリアと三人で夕飯を食べているのだが、さっきからシアがソワソワしていた。


「シア、どうした?なんかさっきからソワソワしてないか?」

「へ!ソワソワなんかしてないわよ!」


 シアがキッと睨んでそっぽを向いてしまう。

何か気になるな?


「してるだろ。さっきかチラチラこっちを見てるだろ?」

「み・見てなんかないわよ!」

「ルリア、何か知ってるか?」


 ニヤニヤしているルリアに聞いてみる。


「実はですね」

「ちょっと!ルリア!言わなくて良いから!」


 話し始めたルリアを慌ててシアが止める。


「えー、良いんですか?シアさんだけが、まだですよ?」

「良くはないけど・・・恥ずかしいし・・・」

「シアだけがまだって何がだ?言ってみてよ、俺が出来ることなら協力するよ」


 シアは黙って下を向いてもじもじしているのでルリアに再度聞いてみる。


「シアがまだの事ってなんだ?」


 ルリアが悪戯っ子の顔になる。


「今日、ラムさんがリーザさんと昼に食事して食べさせてもらったでしょ。あとラムさんにあーんてしてないのは、シアだけなんですよ」

「!」


 今日の昼の話がもうシアとルリアに伝わっているのか!

女の話し好きは有名だが、この情報伝達の速さは驚愕する。

もう、一人が知ってる事は三人共に知っていると思った方が良さそうだな。


「シア?俺に食べさせたいの?」

「そんな訳ないでしょ!何言ってるのよ!」


 シアが睨みながら否定してくるけど、シアの性格から恥ずかしがってる可能性があるしな。


「よし、シア、メイド服に着替えて俺に食事を食べさせてくれ。お願いします!」


 俺がお願いするとシアが顔を真っ赤にする。


「・・・お願いならしょうがないか。ラムがそんなにお願いするなら食べさせてあげようかな。・・・でもメイド服じゃなくても良いんだけど・・・。なんでメイド服なのよ・・・」 


 シアが顔から火がでる勢いで真っ赤にして、ぶつぶつ言いながら二階に上がって行く。

口では文句を言っているが顔はにやけている。 


 シアがメイド服に着替えて戻って来た。

やっぱり、細身のシアの体型をメイド服がより、細身なスタイルを際立たせて似合っている。

無言で席について無言でスプーンにご飯を載せて差し出す。

俺がご飯を口に入れるとシアが嬉しそうにする。

その光景をルリアがニヤニヤしながら眺めていて、気になってしょうがない。


 今度は俺がシアに食べさせてあげると、目を逸らせながら口を開ける。

ご飯を口に入れると恥ずかしさを隠す為にムスッとしていたが、笑みがこぼれた。


「これでシアもラムさんにあーんが出来ましたね。良かったですね」


 シアが小さく頷く。

シアがそんなに俺にご飯を食べさせたかったのか、ちょっと前まではシアと二人で食事をしてたけど、最近ルリアも居て三人で食事する事が多くて、シアと二人で食事してなかったな。


「シア、明日の昼は二人でご飯食べに行かないか?」

「!」


 シアが驚きの顔で俺を見て一瞬の間の後に、花が咲くような満面の笑みで頷く。


「うん!」


 シアのその笑顔を見てすごく幸せな気持ちになった。




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