温泉に行く
日差しで目を覚ます。
体が痛い。
やはりベッドが欲しい。
近くの井戸で頭と体を洗う。
水洗いにもだいぶ慣れて来たが、今日は風呂に行ってもいいな。
ご飯を済ませ、ギルドに出社する。
「おはようございます」
「ラムさん、おはようございます。今日も張り切っていきましょう!」
朝イチにリーザさんの元気な挨拶はこっちも元気になる。
昨日、呼ばれていたのでトールさんの部屋を訪ねる。
「おはようございます。トールさんいますか?」
「おはよう。入って」
椅子を勧められて座る。
「お茶いれるね」
「ありがとうございます」
薬草茶を入れてもらったので一口飲んでみる。
んー独特な味だけど慣れれば旨いのかなー?
「朝早くにごめんね、昨日はリーザも動揺してたから聞けなかったんだけど‥‥、ラム君はいったい何者なんだい?」
「えー、何者と言われましても、昨日言った通りメイソンギルドとは全く関係ないです」
「メイソンギルドはもう疑ってないんだけど、ポーションを毎回あの品質で作り、ハイポーションを成功させて、錬金術初心者とは思えない。だけど錬金術を習った時の新人らしい反応も嘘とは思えないし‥‥」
うーん。たぶんトールさんに聞かれるとは思っていて、言い訳を考えたが上手い言い逃れは思いつかなかった。
「僕なりに考えたんだけど、十五歳でスキルを授かった時に最初から錬金術の上手な子がいる。その子は親が錬金術師で小さい時から錬金術の勉強をさせていると、スキルを授かった時にいきなりラム君のような状態になる。ラム君は以前何かしらそれに近いことをしてたんじゃないかい?」
うさぎに錬金術レベル9のスキルをもらっただけなんです。
とは言えない。
信頼のおける人物には話してもいいが、まだそこまでの信頼もないし、この世界の情報も言った時のデメリットも解っていない。
「確かにトールさんが言うように錬金術に近い勉強をしたことはあります。でもそれ以上のことは今はまだ話せないんです。お世話になってるトールさんリーザさんに隠し事は辛いんですが、すみません」
「そっか‥‥しょうがないね。僕もラム君に話せない事はあるし」
「俺はメイソンギルドの回し者じゃないですし、犯罪者でもないです。トールさんやリーザさんに少しでも恩返ししたいと思ってます」
心苦しいが今はまだ言えない。
これで駄目ならこのギルドを去るしかない。
「ラム君。ありがとう。この話は終わりにしよう。時間を取らせてごめんね。そうそう今日からは僕に気を使わないでハイポーションをどんどん作って良いからね。僕も負けない様にがんばるよ」
気まずい空気のままいつもの錬金術室に行く。
下手に嘘をついても後でばれた時に信用を無くすし、本当の事を言うことも出来ない。
こんな悩んだ時は‥‥ダラダラダラ!温泉だ!
早速、ハイポーション一個とポーション二個製作して温泉に向かう。
マーケットを通るので、この前の服屋にツケを払いに行く。
「こんにちは」
「おう!この前の兄ちゃんか!どうだ金は貯まりそうか?」
「はい!この前はありがとうございました。100G貯まったので払いに来ました」
「おお!もう貯まったのかい?!さすが錬金術師は稼げるねー
」
「はは、たまたま錬金術が上手くいっただけですよ」
「まーこれで兄ちゃんも借金が無くなって、大手を振って歩けるな」
「本当に助かりました。次も必ずここで買いますね」
「おう!服二着じゃ寂しいもんな、期待してるぜ」
マーケットを後にし温泉に歩いて行く。
海風と青い空、果樹園を眺めながら歩いていると、心のモヤモヤが晴れていく。
温泉につくと温泉独特の臭いがしてくる。
温泉の入り口で20G支払う。
町の浴場は5Gなので普段からは使えない値段だ。
男女別になっていて、水着を渡される。
更衣室で渡された水着に着替えて外に出ると、結構広い露天風呂になっている。
「超気持ちいい!」
湯温は少しぬるいくらいで、これなら長時間入っていれそうだ。
そのまま、ぼーとしてると気づくと少し寝てしまっていたようだ。
少し眠って、温泉に浸かったことにより元気いっぱいになった。
午後も張り切って錬金術をやろう!
ギルドに戻り錬金術を開始するとトールさんが訪ねてきた。
「ちょっといいかな」
「どうぞ入ってくだい」
「昨日ラム君が言っていたブルースライムの液体を持ってきたよ」
「それって高い物なんじゃないですか?」
「結構値の張るものだけど、僕も石鹸作りには興味があってね。ラム君は石鹸作りの何かを知っているんでしょ」
「以前に作ってる所を見たことがあります。詳しくは判らないんですが、油に皮膚を溶かす何かを入れていました」
「色々と興味深い話だけど、詳しくは聞かないでおこう。
それより、その溶かす物が判れば石鹸が作れるんだね」
「作れると思います」
「そこまで解っているなら石鹸レシピの完成も夢じゃないね!僕にも手伝わせてくれないかい?」
「もちろん!是非お願いします。トールさんの協力があれば本当に完成しそうですね!」
さっき気まずい雰囲気なったから、気を使ってブルースライムの素材を持ってきてくれたのか、トールさんは優しい。
「ノットさんにも皮膚の溶ける錬金術素材を聞いて見たんだけど、ブルースライム以外にもアシッドスライムも皮膚や武器なんかを溶かす液体が採れるようだよ。ただアシッドスライムは死の山にしかいなくて、さらに希少な錬金術素材でなかなか手に入らない」
「ブルースライムとアシッドスライムの液体では違いはあるんですか?」
「ブルースライムの方が弱くて武器を溶かすことなんかは出来ないし、皮膚を溶かす力も弱いらしい」
「手に入らない素材じゃ、しょうがないですから取り合えずブルースライムの素材を試してみましょう」
早速二人で準備を始める。
この辺りではオリーブが採れるため、油はオリーブオイルを使う。
最初は少量で試してみる。
危険な素材なので併せる時や混ぜる時は盾の影に隠れて慎重に行う。
最後も盾に隠れながら「錬金術!」
ピッか輝き光が収まる。
トールさんと二人で直ぐにのぞき込む。
「‥‥あんまり変化ないね」
「そうですね、石鹸には見えないですね」
「まーいきなり出来たりはしないさ、配合を色々試してみよう」
「はい!」
二人で夕方まで色々試したが成功しなかった。
「ラム君、気を落とさないで錬金術レシピなんてそう簡単に出来ないないもんさ」
今日のポーション納品していつもの食堂に向かう。
はー簡単に上手くいくと思ったが甘かった。
ブルースライムの液も無くなったし、オリーブオイルも高い。
本当に錬金術の研究にはお金と時間がかかる。
食堂でいつもの様にメニューを選ぶ。
今日は魚のフライと豆のシチューとパンにしてみた。
この食堂では毎回ご飯を頼んでいたが初めてパンにする。
「ラム、こんばんは!」
「こんばんは、リカ」
挨拶するとニッカといつもの笑顔を向けてくれる。
今日はなにする?
「ワインと水をお願い」
「はーい、待っててね」
魚のフライは肉厚で柔らかくて旨い。
それにしても石鹸は何がいけなかったのか、ブルースライムの素材自体が間違っているのか、配合比率が間違っているのか、オリーブオイルが違うのか‥‥。
取り合えずブルースライムの素材を追加で手に入れなくはいけない。
あとオリーブオイルも高い。
今日はトールさんが使った素材の代金をリーザさんに払ってくれていたが、毎回、お願いする訳にもいかないし。
「お待たせ」
「ありがとう」
ワインをもらい一口飲む。
「ラム、さっきから何ブツブツ言っているの?」
「え!?俺ブツブツ言ってた?」
「言ってたよ、変な人に見えたよ、ははは」
「‥‥変な人」
「悩みがあるなら一杯おごってくれたら相談にのるぞー」
錬金術の相談には乗れるとは思えないけど、面白そうなので、一杯おごってみる。
「よしよし、じゃあ相談に乗ろうじゃないか、話してごらん」
ニッカと笑う。
ふふふ、真面目に錬金術の相談をして困らせてみるか。
今日あった事を話してみる。
「なるほどなるほど、新レシピ開発にお金が掛かってしかたがないと」
「まーざっくり言うとそうだね、なんかシンプルに言われるとスッキリするよ」
「うちで使ってる油、格安で譲ってあげようか?」
ん!?確か理科の実験の時も家で使った古い油を持って行った気がする。
別に綺麗な油でなくても良いのかも知れない。
「確かに、ここの旨い料理に使われた油なら成功するかもね!」
「もー、誉めても安くしないぞ」
「今度、買いに来るからとって置いて」
「お買い上げありがとうございます」
ニッカと人懐っこい笑顔で去って行く。
ただいいカモにされただけか?!
まあ安く手に入るに越したことはないか。
リカと話したお陰でリラックス出来て、その日もぐっすり眠れた。