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シア視点3

 

 今日はラムと新居に引っ越しだ。

新しい家は海の見える二階建てで私も個室を貰った。

部屋からは海は見えないんだけど、リビングからは海が見えてすごく素敵な家。

こんな家に住めるなんて思ってもいなかった。

奴隷になった事をちょっと良かったと思ってしまった。

ちょっとちょっとだけね。

だって、普通に生活してたらこんな立派な家になんか住めない。

やっぱ、ラムって凄いんだな。


 今日ラムにキスされそうになってびっくりした。

ラムの事はちょっと良いなって思ってるけど・・・初めてのキスは恋人同士で雰囲気の在るところでって決めてる。

だから、ラムがちゃんと好きって言ってくれればキスしても良いんだけど。


 今までの宿舎は料理する所がなくて毎食外食だったけど、今度の家は台所がついてるので初めて、ラムと一緒に料理を作ってみた。

驚く事にラムは料理もさらっと作れるし、さらに美味しくて。

本当に私のご主人様は何でも出来る。

私が作った料理も美味しく、美味しくて食べてくれた。

家具屋でからかわれたけどなんか本当に新婚みたい・・・

・・・違うか私は奴隷だった事を思い出して悲しい気持ちになった。


 本当にギルドのみんなはいい人ばかり。

今日はトールさんとリーザさんが新居に遊びにきて、烏賊のご飯詰を食べてお酒を飲んで皆で騒いだ。

仕事も少しずつ出来る様になって来たし、ご飯も毎回美味しいし、ラムは優しいし、凄く毎日が楽しい。

でも、その度にこの人達を裏切った事に胸がチクリと痛んだ。

その度に裏切った事を忘れたくて、その事実を頭の隅に追いやった。


 ご主人様の行動に慣れてきたつもりだったけど、今度はキングウルフを倒してきて毛皮でソファーと作ると言い出して、森に探しに行ってしまった。

一人家に残されてずっとラムの事ばかりを考えてしまう。

お父さんの事より最近はラムの事を考える事が多い。

帰って来ないラムが心配で心配で最悪の事ばかり想像してしまう。

悪いことを考え始めると止まらなくなって、ずっと一階で海の音を聞いていた。


「ラムに逢いたいな」


 カチャッと音がしてテーブルから顔を上げる。

いつの間にか寝てたみたい。

そこにはずっと見たかったラムの顔がある。


「ただいま」

「おかえり」


嬉しくて、直ぐにでもラムに飛び付きたい衝動をグッと我慢する。


「怪我してない?」

「ああ、この通り元気だよ」

「良かった・・・」


 嬉しくて、顔がニヤけているのが自分でも分かるけど止められない。

ラムに見られるのが恥ずかしくて下を向いて隠した。


ラムが近づいてきてそっと私の金髪に触れる。


「ありがとう、心配して起きていてくれてたの?」


 嬉しさと恥ずかしさで小さく首を振る。


「違うわよ・・・でも、あんまり危ないことはしないで」

「ああ、分かった」


 ラムに髪を優しく撫でると、すごく気持ち良ちよくって目を閉じた。


「朝ごはん食べた?」

「まだだよ」

「じゃあ、すぐに作るね!」


 元気に立ち上がると顔と顔が近づく。

どちらが近寄った訳でもないのに段々と二人の距離は息がかかるくらいになる。

もう、私は昨日の夜に嫌って程に自分の気持ちに気づかされた。

私はご主人様が好き。

だから・・・

ゆっくりラムに顔を近付けていく。

唇が触れる寸前に私は違和感に気付いて、眉間にシワを寄せて一気に離れる。


「くさ!あんた、お酒飲んでるでしょ!」

「え!はい・・・」


 怒りが、止めどない怒りが込み上げてくる。

私があれほど心配してたのにこいつは・・・拳を握って怒りのあまりプルプル震える。


「私がどれだけ心配したと思ってんのよ・・・何、呑気にお酒なんて飲んでんのよ!!!」

「ぐふぉ」


 やっぱり男なんて信じられない!!!

まあ、その後、ラムがあんまりに一所懸命謝るから許してあげた。

で、もう危険な事はしないって約束してくた。

約束してくれたはずなのに・・・すぐに約束やぶった・・・ばか。


 ラムはドラゴンの素材が欲しいって、ドラゴン討伐にルリアと一緒に出掛けていった。

ルリアさんはすごくいい人だし、楽しいし、すごく好き。

なんか最近ルリアさんと仲良くてちょっと妬けてしまう。

私がいつもの様に納品された素材を、業者と一緒に数量を確認していた時の事。


「いやー、それにしても最近の錬金術には油を大量に使うんですか?」

「え?何で・・・」


 石鹸の材料に油を使う事は秘密だから、うちのギルドは複数の油屋から買っている。


「いやー、この前、この町にもう一軒ある錬金術ギルドから大量の油の注文が入りましてね。そう言えばこのギルドも最近油の量が増えたなっと思ったんですよ」


 私の心臓が大きく鼓動し音が外に聞こえるんじゃないかと思った。


 その話を聞いてから何も手に付かず、いてもたっても居られなくて、石鹸を買いに市場をくまなく回った。

ある露天で売られている石鹸を見つけて、手に取って不安が確信に変わった。

この石鹸は私達が作った物じゃない。

私が漏らした石鹸のレシピで作られた石鹸だ。

ついにこの時がきた。

私が皆を裏切った事がばれる時が。


 絶望の中、押し寄せてくるのは後悔だけだった。

なんで私はレシピの秘密を喋ってしまったのか、お父さんは大切、でもお父さんが私が人を騙したと知ったら、きっとがっかりする。

大切な人達を裏切ったのに、お父さんは助けられなくて・・・。

お父さんの所にも帰れず、今、一番大切な人の元にも、もう帰れない。

ギルドから帰って一人になると涙が止まらなくて、ご主人様と過ごした楽しかった日だけだ、ぐるぐる思い出されてまた涙が溢れた。


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