決着ー下
センターのいる倉庫に近づいて待ち伏せスキルで気配を消す。
倉庫には窓が無く中が見えない。
倉庫の板の隙間から中を覗き込むと倉庫の中は、がらんとしていて、センターと男六人が黙々と何か作業をしている。
火がついた箱に棒を刺して、しばらく熱するとその棒を取りだし、何かに押し当てる。
あれって石鹸か?
俺は笑いが込み上げて来て、ついつい口許が緩んでしまう。
あいつ、追いつめられて、一線を越えやがった。
なんだ、俺が手を汚さすとも、自分から死んでくれるなんてな。
直ぐにミッツさんの元に戻った俺は中の様子を告げて、ミッツさんに衛兵の手配をお願いする。
さてと、衛兵が来る前にセンターが逃げない様にしないとね。
「先生、出番ですよ!」
ルリアが可愛く首を傾げる。
「先生て私の事ですか?」
「ああ、俺の国では強い人に戦いを任せる時に使う言葉だ」
ルリアのピンク色の瞳がキラッと光る。
「任せて下さい!」
「あ、でも殺さなくいいぞ。殺すと後味悪いからな。ただ、俺はポーション持って来てるから」
ルリアにニヤっと笑い掛ける。
ルリアと一緒に笑顔で倉庫に入って行く。
「センターさん、遊びましょう」
倉庫に行きなり、人が入って来て、慌てふためく男達。
さらに、俺の姿を見てセンターがイタズラがばれた子供の様な驚きようだ。
センターと一緒に作業していた男6人は冒険者でなく、普通の格好からチコリ商会の従業員であろう。
センターが俺の顔を見て言葉を失っている。
「センター支配人、昨晩はよくもやってくれましたね」
俺の笑顔に顔が青ざめていく。
「襲うって事は襲われる事を覚悟してるんでしょうね」
俺とルリアが剣を抜き放ち、銀色の輝きが姿を表す。
「それに、センター支配人は何をなさってるんですか?」
センターが慌てふためき声を荒げる。
「ラムザール!ここはチコリ商会の倉庫だぞ!直ぐに出ていけ!衛兵を呼ぶぞ!」
「・・・・・・っぶ、あーははは!」
こいつ何を言ってるんだ。
衛兵を呼ばれて困るのはお前だぞ。
もうセンターの取り乱し方は半端ないな。
「何が可笑しいんだ!チコリ商会の力を使えばお前のギルドなんて直ぐに潰せるんだぞ!」
その言葉に俺の鋭さが増す。
俺は思う、やはりこいつは完全に叩き潰さないと駄目だ。
ここで逃がしたらきっとシアを危険な目に逢わせる。
「その二人を殺せ!秘密を知られた!生かして帰すな!」
センターの言葉で男達が腰に下げたナイフを抜いてこちらに向かってくる。
「ルリア、行くぞ!」
「はい!」
戦闘のプロである冒険者とも一対一なら互角に戦える。
商人なら三人相手に出来る。
短剣で攻撃すると大怪我を負わせてしまうので、短剣の鞘で相手をする。
三人の男達が左右から連続で攻撃してくるが、素人の大振りの攻撃だ。
「なんだこいつ!ぜんぜん当たらないぞ!ぐぁ!」
男の攻撃を受けて、そこから手首を返して男の胴を薙ぎ払うと苦悶の声を漏らす。
二人同時に突っ込んで来たので、こちらのリーチを生かして体は引きながら短剣の鞘だけを前に残す。
男は自分の突進の力で綺麗にみぞおちに鞘が入り、男が苦痛に顔を歪め崩れ落ちていった。
二人がやられて怯んでいる男に、踏み込んで肩から袈裟懸けに振り下ろすと男は痛みに片ひざを付いて座り込んだ。
男三人を戦闘不能にして、ルリアを見るとルリアの足元に男三人が転がっていた。
さすがルリア、片腕だろうと瞬殺だ。
残るはセンターただ一人。
「シアを危険な目に逢わせたこと許さない」
「来るな!来るな!」
俺は勿論そんなセンターの言葉を無視して近づいて行くと、センターもナイフを抜いて構えてきた。
短剣の鞘でセンターの体を打ち付けながら、苦痛の顔に歪むセンターをどんどん追い込み、ついに壁際まで追い詰める。
「さあ、逃げ場がないぞ」
「助けてくれ!そうだ金をやる!俺は十万G以上持っている!それをやるから助けてくて」
「いらん」
俺は一蹴するとセンターの顔目掛けて短剣を突き刺す。
短剣はセンターの顔の横を通過し後ろの壁に突き刺ささった。
センターの頬には傷があるのだが、それとは逆の頬から顎にかけて血が伝う。
俺はこいつを殺したいのを押さえ込んで、殺意に満ちた目でセンターの目を覗き込む。
「ベルクドの印の偽造は重罪らしいぞ、これでお前も終わりだな。俺はシアの心を傷つけ、さらにシアの命まで危険にさらしたお前を絶対に逃がさない。必ず潰してやる。」
センターはその言葉を聞いて地面に崩れ落ちた。
俺はラムザールの言葉を聞いて、全てが音を立てて崩れていく。
俺の積み上げた今の地位が、金が、努力がプライドが崩れていくのを感じ、立って居ることが出来ず、そのまま地面に座りこんでしまう。
「俺の・・・俺の三十年間努力して築き上げた物が無くなるのか・・・はははははは!!!」
俺はチコリの嫌みに耐え、あいつの暴力に耐え、あいつに言われた嫌な仕事もした。
思い出されるのは辛い事ばかりだ。
そうして、我慢と努力で積み上げてきた今の地位が、こうも簡単に、こんな若造に奪われるのか。
そう、思うと自分が滑稽で笑いが止まらなかった。
ひとしきり笑うと俺の心にはぽっかりと穴が空いていた。
「どこで道を間違えたんだ・・・」
そんな俺の呟きに答える者が居て、声の方を見るとラムザールが冷たい目で見下ろしていた。
「サラダ商会町が言ってました、商人は信頼と信頼の積み重ねだと、相手にありがとうと言って貰える商売をしろと。俺はサラダ会長に感謝していて、次に利がある話があればサラダ商会に持ち込むでしょう。でも、お前には損する話を持っていく。お前の商売の仕方はそう言う商売なんだよ。長くは続かない。それが今日終わっただけだ」
俺はチコリの言われた通りにやってきた。
それが間違っていたのか?
相手から利を得るのが商売だ。
相手をいかに煽り、急かし、騙し、弱味につけ込み、時には脅迫や暴力も使って、いかに相手から安く買うか、いかに高く売るかが俺のやってきた商売だ。
信頼なんて必要無かった。
俺が若い頃、まだ一人で行商を始めた時、人が行かない様な村に物を売りに行った事があった。
儲かる村は既に既存の商人達が入っていて俺の入る余地なんて無くて、仕方なく、あまり儲からない遠くの小さな村に行ったのだ。
その時、村人から大変感謝され何度もありがとうを言われた事を思い出した。
物を売ってありがとうを言われて不思議だったが、何故か無性に嬉しくて、それから何度もその村を訪れた。
村は順調に発展し人数も増えて儲けが出るようになってきた。
そうすると他の商人が参入してくるのだが、その村の人々は俺から買ってくれた。
そのお陰で、俺は店の開店資金を貯める事が出来たのだ。
気付くとあの村の人達の笑顔と共に俺の目から涙が溢れだしていた。
「最初から道を間違えていたのか・・・」
「気付くのが遅かった様ですね」
ラムザールの俺を見る目は憐れみに満ちていた。
現代日本でこんな話を聞いた事がある。
車を売りに行くと、その店は親切にその車の今の市場の値段をネットで見せて買取り金額を提示してきた。
金額は25万
ただ、複数社買取りの見積もりを取った方が良いと聞いていたので次に業界最大手の車買取りの店を訪れた。
そこではいきなり車の状態が悪いと言われ、5万円の買取り金額を提示してきた。
前の店では25万と言われたと伝えると店員はコロッと態度を変えて26万と言ったそうだ。
その態度に不信感を覚え最初の店で25万で売ったそうだ。
その後、怒りを覚えてネットの口コミに書き込むと、自分と同じ対応をされた口コミが多数あった。
その後、業界最大手のその車買取りの会社は後発で出てきた、適正価格で車を買取る会社に一位の座を取って変わられたそうだ。
その後、ミッツさんが連れてきた衛兵によってセンター達はベルクドの印偽造の罪により捕縛された。
偽装した石鹸は全て没収され領主が来賓客に配ったりサラダ商会に払い下げた。
センターの私財も全て没収され、本人も鉱山送りになるそうだ。
チコリ商会長はセンター1人に責任を押し付けチコリ商会としての責任は無しとなった。
こうしてセンターがシアを騙した石鹸騒動は幕を閉じたのであった。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
シアの本編はここで終わりますが、シア編は後、二話あります。
毎日、勢いで書いており、グダグダになってしまったと反省しております。
ちゃんと考えないと駄目ですね。
それでもここまで読んで貰えて、感謝しかありません。
せっかく書いたんだから、多くの人に読んで貰いたいと思ってしまいました。
ですので、ブックマーク数や評価、アクセス数は大変活動意欲を掻き立ててくれます。
皆様、誠にありがとうございます。
シア編以降はルリアをメインに書いていきます。
今後ともお付き合い頂けたら幸いです。