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チコリ商会に乗り込むぞ

 石鹸が勇者効果で売れて売れて困っている。

サラダ商会から更に追加で石鹸の依頼が5,000個入るが、残念な事に、石鹸の材料である油が調達出来ない。

だが、油は調達出来ないが既に出来ている石鹸ならあるじゃないか!

そう、チコリ商会の倉庫に6,000個もね!

俺はサラダ会長に問いかける。


「サラダ会長が売れない商品を大量に在庫として抱えた場合はどうしますか?」

「値段を下げるか、売り方を買えるか、もしくは市場の価値を下げない様に廃棄する場合もございます」

「チコリ商会はベルクドの印が入っていない売れない石鹸を大量に抱えております」

「即ち、値段を下げてでも、売ってしまいたい。でもいくら値段を下げても売れない。なら商売敵である、うちの商会にでも売りたいと言う訳ですな」


 まあ、簡単な事だが。

さて、チコリ商会は30Gで仕入れた在庫をいくらでサラダ商会に売るのか・・・。

うちのギルドは12Gで卸してるんですよ。

12Gで手放してマイナス18G×6,000個=108,000Gの赤字。

大商会にとってその程度の金額はたいした事は無いだろうが、これで少しでもやり返せるだろう。

サラダ会長が首を傾げる。


「でも、なぜ、チコリ商会はそんな数の石鹸の在庫を抱えていたのか、その事をラムザール様がなぜ知っているのか」


 サラダ会長が俺の顔を見て、にんまりと笑う。


「うちの商会としては損をする訳では無いのでいいのですがね」





 チコリ商会の支配人センターは頭を抱えていた。

目の前には売れずに残った6,000個の石鹸が山の様に積まれている。

なぜ、こうなった?女の奴隷から聞いた通りに、勇者は石鹸の話をした。

巷では石鹸の話で持ちきりで、サラダ商会の石鹸は売り切れて買えないと聞いている。

なのにチコリ商会の石鹸はベルクドの印が入って無いだけで、中身は一緒の筈なのに全く売れない。

中身が一緒なのに、印が有るか無いかだけで何故こうも違うのか。

人々は皆、口を揃えて勇者が使っている石鹸が欲しいと言う。


「意味が分からん!」


 怒りに任せて目の前の石鹸の山を蹴飛ばす。

このままではヤバイ・・・。

この失敗がチコリに知れたら、三十年間積み上げて手に入れた今の地位が危ない。

方法は自分の金で補填して無かった事にするか。

30G×6,000個=180,000G

俺の今までコツコツ貯めた大切な金が全て無くなる・・・。


「センター支配人」

「なんだ!」


 従業員がセンターの顔色を伺いながら声を掛ける。


「サラダ商会の会長が支配人に会いに来ています」

「はぁ?」


 何でサラダが?

チコリ商会長ならまだしも、なぜ俺に会いに来るんだ?

応接間に行くとサラダの他に見た顔が並んでいる。


「お久しぶりです、センター支配人。錬金術ギルド、ギルドマスターのラムザールです。こちらはうちの従業員のシアです」


 ラムザールは満面の笑みで挨拶してくる。

隣の女は今にも掴み掛かって来そうな形相だ。

俺は頭が真っ白になりサラダと二人を何度も視線を往復させる。


「センター支配人、今日は困ってる在庫があると聞いてお伺い致しました」


 サラダが柔らかな笑みで話し掛けてくる。

俺は頭が真っ白のまま答える。


「困ってる在庫とは何の事ですかな?」


 サラダは柔らかな笑みを張り付かせたまま話を続ける。


「はて、こちらに石鹸の在庫があると、こちらのラムザール様に聞いたのですが?」


 俺が驚いてラムザールの方を見ると、ニヤリと人をバカにしたような笑顔を浮かべる。


 「私の記憶違いでなければ、こちらに30Gで仕入れた6,000個、石鹸があるはずですが?」


 なぜ!、何故!、そこまでこいつは知っているんだ!

俺が次の言葉が出ずにいるとラムザールは先程の人を小バカにした笑みを消して、怒りの眼差しで睨みつけてくる。


 「シアの情報は金になったか?」


 そこで俺は全てを理解した。

一度突き放した筈の奴隷女が何故もう一度俺にすがりついて来たのか。

何故、ノットが頑なに石鹸の納入額を下げず前金を求めたのか。

全てこいつの仕業か!!!

怒りがこみ上げて来て怒鳴り散らす。


「俺を騙したのか!そこの奴隷女に嘘の情報を言わせたのか!」


ラムザールは怒りの眼差しのまま、口角だけを吊り上げる。


「いつ、私が貴方を騙したんですか?シアは勇者が石鹸の話をすると言ったでしょ。現に勇者は石鹸の話をした。そして石鹸は爆発的に売れました。シアが貴方に話した通りになった」

「う・・・」


 俺が言葉が出ずにいると、ラムザールが声を張り上げる。


「シアは嘘は言ってない!嘘を言ってシアを傷つけたのはお前だろうが!」


 そこへサラダが優しい口調で割って入ってくる。


「お二人共にそう熱くならずに、今日は商談に来ただけですよ。センター支配人、冷静に話しましょう。決して悪い話でないですよ」


 サラダは柔らかくな笑顔で続ける。


「チコリ商会が抱えている、石鹸の在庫を全て買い取ります。そうですね、一個につき5G出しましょう」

「ふざけるな!いくら損すると思っているんだ!」

「センター支配人、石鹸の事はチコリ商会長はご存じなのですか?私はチコリ商会長が、この様なミスをなさるとは思えないのです。ですから書面に残さず取引を致しますよ」

「知っている・・・知っているに決まっているだろうが!そんな金額で取引出来るか!」


 サラダとラムザールを追い返した後も怒りが治まらない。


「殺してやる!あの、ラムザールとか言う男は殺してやる!」






 チコリ商会を出た俺はサラダ会長に頭を下げる。


「サラダ会長、興奮してしまって商談を壊してしまい、申し訳在りませんでした」

「いえ、いえ、ラムザール様、頭を上げて下さい。私も商人の端くれ、ラムザール様とセンターのやり取りを見ていたら、私もセンターに怒りを覚えてしまいましてね」

「だから、5Gなんて金額を吹っ掛けたんですか?」

「ええ、その通りです。商人は正直でなければなりません。

勿論、駆け引きは行いますが、騙すのは行けません。相手との信頼の積み重ね。相手にありがとうを言われる様にしなくてはいけない。ありがとうを言った相手は、次は利を持ってやって来てくれるのです。センターのやり方は一時的に金を手に入れる事は出来るかもしれません。ですが、それは長くは続かないのですよ」


 サラダ会長が手を出してくる。


「ラムザール様、今後とも当商会と良い取引をお願いしますよ」

「こちらこそよろしくお願いします。今日はありがとうございました」


 俺はサラダ会長に深々と頭を下げた。

サラダ会長の言う通り、今日助けて貰った恩は返したいと思った。



   


 サラダ会長と別れ、上の商店街を歩くシアは上機嫌だった。


「ねえ、ラム、見た!さっきのあいつの悔しそうな顔!もうスカッとしたよね!」


サラダ会長の前では借りてきた猫の様に大人しかったのに、サラダ会長と別れた途端に喋り出したな。


「ああ、ちょっとはスッキリしたな」


 俺は大きなため息をつく。


「シア、ごめんな。俺にはこの程度しか、やり返す事が出来なくて」

「ううん。私、一人じゃ何も出来なかったよ・・・。騙されて、奪われて、ラムがくれた新しい居場所も無くす所だった。でも、庇ってくれて、私と一緒に謝ってくれて、もう一度チャンスをくれた。そして、騙したあいつにやり返してくれた。なんかこれで前に進める気がするの。ありがとう、ご主人様」

 

 シアの見せたその笑顔は、清々しく晴れ渡った夏の太陽の下の向日葵の様だった。

  

「あーもー、スッキリしたらお腹、減っちゃたよー」


 それは何時もだろうが・・・

ちょうど初めてシアと食事をしたレストランの前を通る。


「記念に初めて二人で食事した店にでも行くか?」

「うん!」


 シアが金色の瞳を細めて大きく頷く。

最初の日の表情とは偉い違いだな。


「ラム、何をにやけてんのよ!またいやらしい事考えてでしょ!」

「違うって!なんで俺が笑うといやらしい事になるんだよ!直ぐその発想になるシアのが、いやらしいじゃないのか!」

「はあ!」


 シアが顔を真っ赤にして睨みつけてくる。


「もう、帰る!」


慌てて追いかけてシアの手を掴む。


「ごめん、ごめん!俺のおかずひと切れあげるから、な」


 シアが足を止めて満面の笑みで振り返る。


「じゃあ、私と違う料理頼んでよね!」


そのまま繋いだ手を離したく無くて、シアと手を繋いで、シアと初めて食事をしたレストランに入り、魚と肉のコース一つずつ頼む。

注文したワインが運ばれて来た。


「じゃ、乾杯しようか」

「うん」


 シアがすごく嬉しそうに、でも嬉しさを隠す様にグラスを持ち上げる。

ふと、何気なく窓の外を見ると・・・


「ルリア・・・」

「あ、ルリアさん・・・」

「二人とも酷いです・・・帰って来ないから心配して見に来たら、二人だけで美味しい物食べてるなんて・・・」


レストランの窓に張り付いて涙を流すルリアの姿があったのだった。




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