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勇者による石鹸の宣伝の効果

 白亜の宮殿の二階の踊り場に現れた領主ベルクド・イニングは、八頭身のスタイル抜群の美女だ。

リーザさんと、プランさんの噂話しでは、その美貌から多くの権力者を虜にしているらしい。

その話を聞いてシアも頷く。


「でもあれだけ綺麗なら王様の気持ちも分かる気がします!」

「静粛に!これよりベルクド・イニング様よりお言葉を賜る!」


 騎士団長の通る声で、あれだけざわついていた会場が静寂に包まれる。

領主イニングが一歩、前に出て辺りをゆっくり見渡す。

領主イニングの声は静かな声で、海風に乗って流されていってしまいそうだ。


「領民よ、勇者ヴィーラによって、邪は打ち破られた。その栄誉をここに称えよう」


 静寂が訪れた後、集まった人々の地鳴りの様な歓声が辺りを包み込む。

 

 続いて勇者ヴィーラが一歩前に出る。

 

「いかに魔物が脅威であろうと、私がいる限り、強大な邪を撃ち滅ぼして見せよう!我らが太陽の神は常に我々を照らしている!」


 ヴィーラの凛とした声が響き渡ると再度、大歓声に包まれる。

その後、うだうだと色々な偉い人の話が続き、皆が飽きてきた頃にもう一度勇者ヴィーラの話の番になる。

今度は少し砕けた感じのヒーローインタビューの様な感じで、執事が話を振っていく。

ヴィーラの話しに集まった民衆は興味深々で、ヴィーラの答え全てに歓声が上がる。


「では次の質問は勇者ヴィーラ様の美しさの秘訣を教えて頂けますか?」


 勇者ヴィーラはいつもの冷たい感じでは無く、微笑を浮かべて答える。


「あまり、自身の美しさなど意識した事はない。私は邪を滅ぼす為に日々、武芸に精進しているからな」


 嘘つけ、この前、私は自分の美にしかお金は使わんって言ってたよね。

まー、芸能人もイメージ商売だけど、勇者も似たようなもんだな。

隣でシアなんか、すっかり騙されて格好いい、格好いい、て目をハートにしてるぞ。


「普段は余り気にはしていない私だが、この町で出会った石鹸は非常に気に入っている。肌がしっとりする。確かサラダ商会が販売している石鹸でイニング様も使われていると聞いたぞ」


 それを聞いてシアもリーザさんも大興奮で俺をゆっさゆっさと揺さぶってくる。


「ねーーー!ラム!聞いた!あれって私達が作った石鹸の事だよね!ヴィーラ様もイニング様も使ってるんだって!ねー!私も欲しいよ!使ってみたいよ!」


 いや、君は普段から使ってるからね。

でも、シアがこの興奮度だ、勇者効果は絶大だな。


「ラムさん!やりましたよ!私たちの石鹸が認められたんです!」

「リーザさん、トールさん、プランさん、やりましたね!」


 三人と固い握手を交わす。

ちなみにヴィーラが話す内容は事前にサラダ会長と相談して俺が作った。


「私が使っている石鹸にはこのベルクド領の印が刻まれている。印が無い石鹸、私が使っているものとは別の物もあると聞く。注意してくれ」

「ヴィーラ最高!」


 俺の台本を読み上げてくれて思わず叫んでしまった。

俺の方を見るヴィーラが今日初めて、素の嫌そうな顔を見せる。


「ラム!勇者様を呼び捨てにしちゃダメだよ!」

 シアに注意される。

おっと、そうだった、こいつらは勇者の素を知らんからな、勇者信者の前では様付けしないとな。


 式典は滞りなく終了し解散ととなる。

庭に集まった貴族や金持ちはこの後、パーティーが催されるようで庭には料理が運ばれてくる。


 俺達も町に戻って打ち上あげをする。

最近、ドラゴン討伐で飲み会をしたばかりだが、今回は石鹸の納品と勇者による宣伝の成功を祝う。

リカの店は早い時間にも関わらず、店は繁盛していた。

リカが俺たちに気付いて素朴な笑顔で近づいてくる。


「ラム!ゴメンね!今日はパレードがあったから、混んでて満席なんだー」

「そっか、俺達も仕事を切り上げて、パレードを見てきたから、皆、考える事は一緒だね。また来るよ」

「ははは、そんなもんだよね。また来てね」


 リカの店を諦めて外に出ると、ルリアがジと目で見てくる。


「それにしても、ラムさん、こんな所にも彼女がいるなんて、流石ですね」

「ルリア、誤解を生む発言は控えてくれ。リカとは仲は良いが友達みたいな間柄だ」


 ルリアがキリッとして顎に手を当てる。


「私の勘では、あのリカって女もラムさんに気がありますね」

「そんな事、ないだろう。だってそんな話ししたこと無いぞ」

「ちちち!」

「あの、女はラムさんを狙ってますね。ラムさんの時だけ態度が違いました」


 そうか?リカは誰に対しても態度を変えないけどな?

男には分からない、女同士にしか分からない事ってあるからな。

ルリアがそう言うなら、そうなのかもしれんが、なんかルリアの言ってる事って信じられないだよな。

シアとは何回かご飯食べに行ったが、シアはご飯しか見てないし。

 

 仕方がないので屋台で買った料理でギルドで打ち上げをしているとミッツさんが訪ねて来た。


「ラムー、居るか?ドラゴンの討伐の報酬が決まったぞ!」

「ミッツさん、わざわざ、来てくれて、ありがとうございます」

「まあ、誘ったのは俺だからな、これくらいはしてやるよ」


 ドラゴン討伐報酬はドラゴンの血が欲しかったが、ドラゴンもどきであった為に素材は諦めた。


「報酬は冒険者ギルドで受け取れるから、近いうちに冒険者ギルドを訪ねてくれ」

「分かりました。明日にでも行ってみますね」


 ミッツさんがいつもの締まりのない笑顔を浮かべる。

そういえばミッツさんにもお礼を言っておかないといけない。


「ミッツさんブルースライムの液の調達。ありがとうございました」


 ミッツさんがうんざりした顔で答える。


「もう、当分ブルースライムは見たく無いな。朝から晩まで、あの青い奴を探して・・・ノイローゼになりそうだ」

「本当に助かりました。ありがとうございます」

「ドラゴン討伐が終わってゆっくりしたかったのによ」

「そんな、疲れているミッツさんに依頼があるんですが・・・」


 ミッツさんがさらに嫌そうな顔をする。


「もう、ブルースライムは嫌だぞ」

「ブルースライムでは無くて、ミッツさんの本業の方ですよ」


ミッツさんがすこし真面目な顔付きで聞いてくる。


「本業て事は調査対象は誰だ?」

「チコリ商会の支配人センターを調べて下さい」


 ミッツさんはそれ以上は何も聞かず静かに頷いた。





 次の日にサラダ商会の従業員がギルドを訪ねてくる。


 「ラムザールギルドマスターは居りますでしょうか?」

「はい、俺がラムザールですが、どうしましたか?」

「サラダ会長より、石鹸が予想以上に売れているので、追加で5,000個至急作って欲しいと。お願い出来ますでしょうか?」

「そんなに売れてるんですか?」

「はい。式典が終わった後に、町の住民以外にも、式典に参加していた貴族や他の町の商会からも問い合わせが御座いまして、この町を出る前迄に納品して欲しいと」


 嬉しい依頼なのだが、もう材料が無い。

ブルースライムの液もそうだが、とにかく油が無い。

とにかく一度、サラダ会長と会って話をする必要があるな。

 

 直ぐにサラダ会長を訪ねて、材料が無いことを相談すると、サラダ会長が眉間にシワを寄せる。


「なるほど、材料の一つである油が無いと・・・。手前どもでも使用前の油は取り扱っておりますが、使用済みとなると・・・。使用前の油で料理を作って・・・そうすると値段を上げねばならない。今回ばかりは値段を上げても納期を優先するべきか・・・。他の町から取り寄せるにしても時間が無いし・・・」


 サラダ会長はうんうん、うなりながら思考を巡らせている。

なんせ、俺達が5,000個とノットギルドが6,000個の石鹸を製造している。

石鹸の材料は一度使用した油を綺麗にして利用している。

何故か一度も使って無い、高い油だと石鹸にならなかったのだ。

使用済みの油はしばらくすれば、また油屋に貯まるだろうが、今現在は5,000個分の油が無い。

油は無いが・・・。

6,000個の出来てる石鹸ならある。

俺はまた汚い笑みを浮かべながら、会長に提案する。


「サラダ会長、油はありませんが、出来ている石鹸なら6,000個ほどありますよ」


 サラダ会長が目を見開き、詰めよって来る。


「ラムザール様!もしかして事前に作り置いてくれたのですか!」

「いえ、俺達は依頼の5,000個しか作ってませんよ」


 サラダ会長が訝しげな顔で尋ねてくる。


「それではいったい誰が作って、何処に6,000個もの石鹸があるんですか?」

「俺達のレシピを、うちの従業員を騙して盗みだし、販売している商会」


 サラダ会長がさらに怪訝な表情になる。


「でも、チコリ商会が持ってる石鹸では意味が有りませんが?」


 自然と笑みがこぼれてしまう。


「会長は売れない在庫を大量に抱えたらどうしますか?」


 それだけで会長は分かった様で、サラダ会長も自然と笑顔になった。



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