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騙されたなら騙し返す

やられたらやり返す!倍返しだ!

 俺達三人に指を指され、犯人と言われ、ノットさんは観念したようだ。

ノットさんが顔面蒼白で口を開く。


「確かに石鹸は作っているが、チコリ商会からは、レシピは買い取ったと聞いている」

「それは嘘です!レシピを開発したのは俺とトールさんです。そのレシピをチコリ商会が、うちの従業員を騙して盗んだんです!」


 それを聞いてノットさんがワナワナと震えて、再度頭を下げてくる。


「知らぬ事とは言え、トールとラムが作ったレシピを無断で使った事には変わりない。すまなかった!」


 なんか分からんがチャンスと見た俺は一気に畳み掛ける。


「済まなかったでは済まされませんよ。知らなかったが通じれば、皆、無断で使った後に知らなかったと言いますよ。きっちり!責任は取って貰いますよ。さあて・・・、ギルド本部は新しいギルドマスターの不祥事に対して、どうのような処分を下すんですかね。良くてギルドマスター降格?、最悪、錬金術師協会を除名ですかね?」


 正直、レシピ無断盗用がどのくらいの罪なのか分からんが、ここは雰囲気で攻めるが吉と判断した。


「謝って済む話ではないが、ギルド本部には何とか秘密にして貰えないだろうか?リーザを裏切ってまで手に入れたギルドマスターの座だ!」


 リーザさんが怒りの眼差しでノットさんを睨みつけている。


 俺はシアが騙された話を聞いてから、騙した奴が許せなくて、ずっとはらわたが煮えくり返っている。

相手はチコリ商会、この町で第三の大商会だ。

従業員五名の弱小ギルドが立ち向かえる相手では無い。

もちろん、俺のレンジャーのスキルを使えば殺れると思うけど、相手が暴力を使って無いのに、こちらから暴力を使うのは、違うと思っている。

やり返すのは暴力以外の方法。

たぶん、俺は今、シアが見たら嫌われるくらい、悪い顔をしているだろう。

土下座しているノットさんに近づき、耳元で話し掛ける。


「ノットさん、石鹸のレシピ盗用の件は黙っていても良いですよ」

「本当か!!」

「ええ、勿論、条件が有ります」

「なんだ言ってくれ!」

「まず、これから三日間、出来る限り、石鹸を作って、チコリ商会に売って下さい」


 皆が一斉に驚きの表情で俺を見てくる。

特にトールさんは信じられないと言った表情だ。


「ラム君、君は一体何を言っているんだい!僕たちのレシピを更に使わせる気かい!?」

「ええ、ノットギルドには石鹸をこの三日間で出来るだけ作って貰って、それを全てチコリ商会に買って貰いましょう。ノットさん今日から三日間でいくつ石鹸を作れますか?」


 しばし、思案しノットさんがおずおず答える。


「三日間でギルド員、全員でやれば6、000個は出来ると思う」


 案外少ないな・・・俺一人で三日で6、000個作れるに。

まあ、仕方ないか、余り多すぎてもチコリ商会が買わない可能性もあるしな。


「それで良いです。じゃあこれから三日間頑張って作って、しっかり、チコリ商会に売ってださい」

「作るのはいいんだが、そんなにチコリ商会が買ってくれるかどうか・・・」

「大丈夫ですよ、チコリ商会は買ってくれますよ」


 その後、ノットさんと話を詰めてノットギルドを後にした。


 



 自分のギルドに戻ったらひたすら石鹸を作っていく。

補助にシアとルリアの二人をつけた為に、更に効率が上がって石鹸が量産出来る。

仕事終わりの鐘が聞こえる頃に一区切りついて、いつもの様にシアの腹の虫が鳴き声をあげる。


「あー!お腹減った!」

「シア、腹減ってる所、悪いんだけどちょっと、嫌な事をお願いしたい」


 シアが嫌そうに顔を歪める。


「何をやらせるの?ちょっと怖いんだけど・・・」


 俺は怒りを押し殺しながらシアに告げる。


「シアを騙したのはチコリ商会の支配人センターて奴だ」

「なんで、ラムがそんな事を知っているの・・・」


 金色の瞳を見開き俺の顔を見る。


「石鹸を作らせているのはチコリ商会だ。チコリ商会がノットギルドを騙して石鹸を作らせていた。シアを騙した、頬に傷がある男は、チコリ商会の支配人センターだ。俺も一度、商談の時に顔を合わせていて、シアから聞いた、シアを騙した男に特徴が一致する」

「チコリ商会のセンター・・・」


 シアの瞳に暗い炎が宿る。


「ご主人様、ちょっとこの後、一人の時間を頂戴」

「シア、センターに会ってどうするつもりだ?」


 俺はあえて冷たい声でシアに問いかける。

シアに初めて会った時の目で睨まれる。


「分からない、分からないけど・・・会って問いただしたい」

「問いただして、どうするんだ?」

「そんなの分かんない!でもあいつに何か言ってやらないと気が収まらない!」


 シアは俺に殴り掛かりそうな勢いで喰って掛かってくる。

俺はさらに冷たい口調で話し掛ける。


「口で言ったってあの手の奴は何も思わない」

「じゃあ、ナイフで刺してやるわ!」

「シアがナイフで刺したら、主人である俺にも罪がくるぞ」


 金色の瞳を目一杯開き、俺の服をつかんでくる。


「じゃあ!どうしたら良いのよ!我慢するしか無いの!ねえ!私は何も出来ないの!騙されるだけなの!奪われるだけなの!ねえ!」


 俺の服を掴む手を取り、シアを力強く抱き締めて、シアの耳元で語りかける。


「怒っているのは俺も同じだ。俺の大切な人をこんなに傷つけられて、はらわたが煮えくり返っている。なあ、シア、騙されたら、騙し返してやるのが筋だろう?」


 シアが俺の腕の中から金色の瞳で俺を見上げてくる。


「もう一度、センターに会って情報を流してやれ、ドラゴン討伐パレードで勇者が石鹸の宣伝をするから、石鹸が爆発的に売れるってな」

「はぁ!なんでそんな大切なこと奴に教えるのよ!」

 

 シアの顔は困惑に満ちていた。

 



 

 二日目の昼過ぎ、三人で石鹸を作りをしていて、同じ事のくり返しに限界を迎えて叫ぶ!


「だーー!飽きた!」

「私も飽きたー」


 シアもテーブルに突っ伏して声をあげる。

ルリアだけは平気で楽しそうに作業を続けている。


「私、こう言う単純作業好きかもしれないです。頭使うのは好きじゃないですけど、無心で同じこと繰り返すのは、剣の練習の時から得意なんですよね。一日中、同じ型の素振りをしていて師匠に基本を大切にしているって誉められたんです」

「ルリア、凄いな。この仕事向いてるよ。いや、それだけの根気があれば就職は困らんよ」

「えー!嬉しいです。じゃあ、ここでも雇ってくれますか?」


 ルリアがいつのも軽い調子で言って来たので、俺はすかさず答える。


「よし!採用!ちょっと契約書作ってくるわ!」


 俺は直ぐに錬金術室を出てプランさんの元に向かう。

慌てて、ルリアが追っかけてくる。


「ラムさん!本気なんですか!冗談で言っただけですって!」

「いや!俺は本気だ。うちでメイド服着るのと、ギルドで働くのどっちが良い?」


 ルリアがうさみみを横に傾けながら考える。


「そうですね、どちらかと言えばギルドですかね?」

「分かった、ギルドだな」

「えー!だから、本気なんですか!」


 この世界の雇用契約のフォーマットは知らないので、現代の雇用契約書のフォーマットで作った。


「じゃあ、ルリア、契約内容を確認するぞ」

「ラムさん、本気なんですか!私、片腕無いんですよ!」

「まあ、条件を確認してから、決めてくれていいから」


 ルリアと雇用条件を確認していく。

まあ、契約内容はプランさんとほぼ同じだが、違いは給与面だ。プランさんが一日45Gなのに対して、ルリアは新人なので30Gからスタートする。

たぶん、ルリアなら冒険者の方が稼げるだろうから、最終的に選ぶのはルリアだ。


「最初のうちは給与も低いし、住む場所を探すのも大変だろうから、今の部屋を使って貰って構わない。どうせ空いてる部屋だし、俺もシアもルリアが居た方が楽しいしな。どうだうちで働かないか?」


 いつも、陽気なルリアだが少しだけ悲しげな表情をした。


「すごく、嬉しい話なんですけど、少し考えさせて下さい」

「分かった、気持ちが決まったら言ってくれ」


 ルリアをメイドにするチャンスだったが致し方ない。

無理に入れても、本人の意思がなければ仕事は続かない。

ルリアがどういった結論を出そうとも、それがルリアが決めたことなら、俺は応援しようと思う。


 ルリアとシアの協力もあり、作業は順調に進み、二日目の仕事終わりの鐘の時刻には4、000個の石鹸を納品することが出来た。


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