5,000個の石鹸
ヴィーラに石鹸の宣伝をお願いし了承して貰えた。
ドラゴン討伐で俺の株が上がったのも、プラスに働いた様で、ドラゴン討伐に参加した甲斐があったと言うもんだ。
「それにしても会長、見ていてハラハラしましてよ」
「ははは、私も交渉が成功するかドキドキでしたよ。でも上手くいって良かったですよ」
何はともあれ最初の計画通り勇者ヴィーラを使った石鹸のブランド計画を開始する。
石鹸は王都では100Gで販売されていて、主に貴族や金持ちが使っている。
勿論、庶民には高すぎて手が出ない価格だ。
そこでサラダ商会と俺は、石鹸を庶民にも買える価格で販売する事にした。
それでも30G~40Gで販売しても、まだ庶民の一日分の稼ぎに匹敵する。
そこで、石鹸は憧れの高級品ではあるが、記念日などに少し頑張れば買える物として販売する。
その為にも石鹸の知名度を上げて皆が欲しがる物にしなくてはならない。
それが勇者をイメージ戦略に使った石鹸のブランド化だ。
場所をサラダ商会の商談室に移し今後の話をしていく。
「ラムザール様、当初の予定通りに勇者様の協力が得られた訳です。三日後に、行われるドラゴン討伐パレードの式典にて石鹸を宣伝して頂ける訳ですが、それまでにいくつほど納品が可能でしょうか?」
以前に二時間で500個の石鹸を作った事がある。
ただ石鹸は作った後に乾かす必要が有るため、そこから三日掛かる。
ただ、素材ギルド員のスキルで乾燥させて、時短する手がある。
それで乾くなら、直ぐに石鹸を容器から取り出す事が出来る。
俺のMPは問題ないので二時間で500個、休憩を考えても一日、八時間錬金術をして、2,000個作る、三日で6,000個。
トールさん、リーザさん、レントさんも作ればプラス1,000個。
石鹸だけなら7,000個作れる計算だが、通常の依頼も考えると、5,000個が限界かな?
「石鹸は乾かすのに時間が掛かるんです。ただ素材ギルドの乾燥スキルが石鹸にも使えれば、三日で5,000個は納品出来る思います。ただ材料が直ぐに手配出来るかどうか確認しないといけません」
「なるほど、素材ギルドの乾燥は試してみる価値はありそうですな。数は5,000個あれば当面は大丈夫でしょう。後は材料ですか・・・」
後、石鹸を販売するに当たって心配事がある。
「以前、サラダ会長が話してくれた我々以外が石鹸を販売しているとのことですが、申し訳ありません。調べた所、当商会の従業員がレシピの秘密を漏らしておりました」
サラダ会長が渋い顔になるが、当然の事だ。
これにより、サラダ商会の独占出来る利益が減ってしまう。
「私も少し気になって調べたのですが、どうやらチコリ商会と元メイソンギルドが手を組んで石鹸を販売している様なのです」
チコリ商会と言えば相手の態度が悪くて商談が纏まらなかった、この町で三番目の大きさの商会だ。
「大変申し訳ありませんでした。納入価格なのですが、こちらの不手際がありましたので、下げさせて頂き、商会の利益が減らない様にさせて頂きます」
サラダ会長はまだ不快感を示したままだが、一つの提案をしてくる。
「そう言って貰える様でしたら私に一つ考えがあります。チコリ商会との差別化をする為にベルクドの領主の印を石鹸に入れるのです」
なるほど、チコリ商会の石鹸と一目で違いが分かる様にする訳か。
「領主の印は偽造が禁止されております。偽造した場合は重い罰が下されます。ただ、領主の印を使用するには条件がございます。まず、領主と契約している商会、もしくは契約ギルドで在る事。次に領主様に使用料をお支払する事です。一番目は当商会が契約しておりますので、納品して頂いた石鹸にこちらで刻印いたします。二番目は下げて頂いた金額で領主様に使用料を納めれば、我が商会の利が減ることも御座いません」
成る程、領主の後ろ立てを得てブランドを守る訳だ。
これならブランドイメージも付けられるし、宣伝が俺たちの石鹸だけに作用する。
ギルドの利益は減ってしまうが、前回サラダ商会には20Gで納品しているが、コスモ商会に15Gで納品した。
今回は最初から数もまとまって注文を貰ったし15Gまで下げる予定だった。
ただこれではコスモ商会に利益が少ない。
いくらで販売するかは商会が市場の需要と供給をみて決めていくわけだが、
販売価格 ー(仕入値+領主の刻印税)=利益
この利益から
利益 ー(税金+販売管理費)=純利益となるわけで
商品の価格が高い、安い、販管費など色々な要素で変わっては来るが、この位の価格の商品を販売するなら商会に50%は利益を残してあげないと、石鹸を販売する旨味は無いんじゃないだろうか?
仮に30G販売するなら最低15G以下の納入額でないとサラダ商会は旨味がない。
40Gで売れるなら15Gでも十分に石鹸を販売する価値がある。
今後もサラダ商会に大量に石鹸を販売し続けて貰うには、うちの利益を減らしてもサラダ商会に石鹸が旨味のある商材であると思って貰う必要がある。
サラダ会長と話し合いの中で今回は12Gで5,000個の注文を受ける事となった。
今回は乾燥を素材ギルドに依頼するのと、素材を急遽集める為に通常より素材費も掛かってしまうので、サラダ会長の好意もあり12Gの納入額になった。
納品は四日後。
式典は三日後ではあるが、出来た分をその日の内に順次、納品していく。
式典が終了後には2,000個~4,000個は商品が店頭に並べる事が出来る予定だ。
急いでギルドに戻って、皆に集まって貰って決まった内容を説明すると、プランさん、トールさん、リーザさんにジと目で見られる。
え!なんでそんな目で見られるの!?
ギルドの儲けになるんだよ!
トールさんはやれやれと言った顔だ。
「ラム君の勢いにはいつも驚かされるけど、今回も流石だよ。勇者に石鹸の宣伝をさせて、サラダ商会から5,000個も注文取ってくるなんて」
リーザさんもジと目を止めてフッと笑顔になる。
「まー、ラムさんには驚かせてばかりですね、とんでもない新人をスカウトしちゃいましたよ。でも5,000個て、皆で徹夜で頑張んないといけませんね」
俺は答える。
「徹夜までしなくても、出来ると思いますよ」
プランさんがやれやれと口を開く。
「マスター何を言ってるんだい!マスターが六日も錬金術してないんだよ!通常の依頼が溜まってるよ!そこに石鹸5,000個て無茶だよ」
あ!・・・そう言えばドラゴン討伐で最近ポーション作りをしていなかったね。
シアに脇腹を小突かれて睨まれる。
「ラム、依頼が溜まってるの忘れてたっでしょ!」
「イヤ、オボエテタヨ」
「「「絶対忘れてた!」」」
皆さんハモるなんて仲がよろしい事。
リーザさんがやる気に満ちた顔で腕を突き出す。
「私たちギルドの力を見せてやりましょう!私たちはメイソンの嫌がらせにも負けなかったんですから!皆で力を合わせれば出来ない事なんてないわ!」
リーザさんの突き出した手に俺も手を添える。
そこにトールさん、プランさんも手を重ねていく。
シアがモジモジ手を手を出そうか戸惑っているとリーザさんが声を掛ける。
「シアちゃん!」
「はい!」
リーザさんの笑顔でシアも笑顔で手を重ねる。
「期日までに納品させるぞ!!!」
「「「おー!!!」」」