ヴィーラと交渉
シアが裏切った。
だけど皆がシアを許してくれた。
本当にこのギルドの人達はいい人ばかりだ。
リーザさんは、シアの為を思って厳しくして、でも救いの手を差し伸べる・・・本当の優しさって相手を考える事だよね。
リーザさんは強さと優しさを兼ね備えた女性だ。
ただ、疑問がある。
なぜ、ルリアは俺たちより号泣しているのだろうか。
「なんか・・・良い話しぽいですーーー」
ぽい、じゃなくて良い話しなんじゃないか?
シアが落ち着いてから話を聞くと、石鹸のレシピを教える代わりに父親を奴隷から助けると言われて、秘密を喋ってしまった。
だが、相手は約束を守らず父親は奴隷解放は、されなかった。
話を聞いてリーザさんは怒り心頭だ。
「相手の弱みにつけこんで騙すなんて許せないですね!お父さんの命を取引に使って、さらに約束も守らないなんて!」
俺もリーザさんと同じ気持ちだ。
シアの気持ちをこんなに傷付けやがって!
騙した相手が許せない。
犯人を見つけてギタギタにしてやりたい。
ただ先程、シアの手を引っ張っていた男にも再度怒りが沸いてきた。
ルリアに蹴られていたが、俺の怒りもぶつけておく。
「ラム君、気持ちは分かるけど、ちょっとやり過ぎなんじゃ・・・」
トールさんが俺が男にした仕打ちに対して若干引いている。
「トールさん、性犯罪の再犯率は非常に高いんです。これくらいしないと絶対にまたやりますよ!」
シア、怖い思いをしけど、仇は討ったからな。
あれ?仇を討ってあげたはずのシアでさえ引いてないか?
リーザさんは後ろで応援してくれていたが・・・
冗談はさておき、シアに言わなくていけない言葉がある。
「シア!」
落ち着きを取り戻したシアに大声で呼び掛ける。
大きな金色の瞳で俺を見つめる。
その表情は、期待と、不安と、喜びと、色々な感情が入り交じっている。
「ただいまー!!!」
シアがやっと泣き止んだのに、また目に涙を溜めて大声で叫ぶ。
「お帰りなさい!!!」
シアが涙を流しながら、とびきりの笑顔で応えてくれた。
シアに色々聞きたい事はあるけれども、ギルドの皆とシアとの違和感を消し去るためにも、全員で打ち上げに行く事にした。
「それでは、ドラゴン討伐を祝って乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
いやー、一仕事終えた後の酒は最高ですな!
仕事と言ってもドラゴン退治ですよ!
このベルクドは港町で魚は旨いし、リーザさん、シア、ルリアと可愛い子に囲まれて異世界生活万歳ですな。
お酒も進みますよ。
「ほらー、シアももっと飲めよー」
「いらないって!」
「そうよシアちゃんももっと飲みなさい」
「リーザさん、さっきはあんなに格好良かったのに・・・」
向かいではルリアもまたお酒の力で盛り上がっている。
「そうなんですよ!そこでドラゴンの牙をかわしてバシ!っと剣を突き刺す訳ですよ!そこへ、ドラゴンの尻尾がバシ!て来て、ぐあー!てなって。そしたらラムさんが決め顔でこうですよ!「俺に掴まれ!」て格好良かったですよー」
シアとリーザさんが身を乗り出して食い付く。
「ルリアさん、その後どうなったんですか!」
「そしたらラムさんがお姫様抱っこでドラゴンから救い出してくれて」
「「きゃーー!」」
シアとリーザさんが悲鳴を上げて興奮している。
ルリアがアッと何か思い付いたようだ。
「そうだ!ラムさん!あの時、触ったり、揉んだりしたことは助けてくれたんで無しで良いですよー!」
その発言で場の空気が一気に凍りつく。
おい!ルリア!お前わざと誤解が生まれる様な言い方してるだろ!
もう、怖くて二人と目線を合わせられないよ・・・
「おい、ルリア、ちょっと言い方おかしくないか?」
「えーそうですかー。はははははは!」
「ラムさん、ちゃんと説明して下さい」
「・・・」
右の頬をリーザさんにつねられ、左の頬をシアが無言で睨みながらつねってくる。
さっきまでは楽しい異世界ライフだったはずなのに・・・
ルリア覚えておけよ、仕返しにまたもふってやるからな!
そんな感じで大騒ぎして、今回の飲み会も俺とリーザさんがプランさんに怒られて幕を閉じた。
次の日はゆっくりシアと買い物でも行きたかったが、なぜかヴィーラに呼び出されて、温泉宿に来ていた。
「ヴィーラ様、錬金術ギルドギルドマスターのラムザールです」
「入れ」
ヴィーラの冷たい声がして、部屋の中に入って行く。
部屋にはいつもの様にカールとベロも居る。
「この度はドラゴン討伐おめでとうございます。本日はヴィーラ様がお呼びと聞きましたが、どの様なご用件でしょうか?」
「この度の戦いラムザールの働きは他の者よりはましだった。誉めてやる。」
「ありがとうございます。ヴィーラ様よりお褒めの言葉を頂き光栄でございます」
「以上だ、下がって良いぞ」
へ!?以上なの?
これだけの為にわざわざ呼ばれたの!
何様だよこいつ!あ、勇者様か
「それでは失礼いたします」
俺が部屋を出ようすると呼び止められる。
「あ、そうだ、ラムザール」
「はい」
「お前が作った石鹸はなかなか良かったぞ。私は自分が美しくなる為なら、いくらでも金を使おうと思っている。逆にそれ以外には使わん。あの石鹸は買っても良いと思ったが、匂いが気に入らん。何とかならないのか?」
この前会ったときは散々言われて追い返されたが、最後にルリアがヴィーラに石鹸を薦めてくれると言っていたっけ。
ドラゴン退治で忘れていたが、オレンジの石鹸を作ってあったな。
「それでしたら、今開発している、オレンジの香りの石鹸が御座います。まだ販売はしておりませんが良ければそれをお持ち致しましょうか?」
「なら、それを持って来い」
「畏まりました」
金の匂いを感じて直ぐにサラダ会長のもとを訪れる。
忙しい中、サラダ会長が会ってくれた。
「ラムザール様、ドラゴン討伐見事でしたな。噂は聞き及んでおりますよ」
「結局、ドラゴンではなくて会長との約束が果たせず、申し訳ありませんでした」
「ははは、ドラゴンでもドラゴンもどき、とはやられましたな。我が商会はドラゴンでもドラゴンもどきでも、稼げるのでどちらでも良いのですが、ラムザール様は希望の素材が手に入らず残念でしたな」
「ええ、残念でしたがしかたありません。違うルートで探してみます」
「我が商会でも話があれば、ラムザール様にお伝えさせて頂きます。さて今日のご用はどう言った件でしょうか?」
先程のヴィーラとのやり取りを説明して、これからオレンジ石鹸を届けに行くことを伝えると、サラダ会長が商人の顔に変わる。
「それでは私もご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」
「ええ、勿論。サラダ会長なら興味を示されると思ってお話をしに来たわけですから」
オレンジの石鹸を持って再度ヴィーラを訪ねる。
サラダ会長も連れて来たのは、当初の予定通りに石鹸の販売促進の為、ヴィーラにブランドイメージになって貰う作戦を実行する。
その為にもサラダ会長の力が必要だ。
「ヴィーラ様、お待たせ致しました。こちらがオレンジ石鹸で御座います」
ヴィーラが石鹸を手に取り、鼻につけて匂いを確認している。
「確かに、匂いが良くなっているな。で、これはいくらなんだ?」
すかさずサラダ会長が話しに入ってくる。
「ヴィーラ様こちらは生産量も限られており大変貴重な物になっております。既に王都の貴族様への販売先も決まっております」
ヴィーラが普段と変わらない口調で言い放つ。
「別にいくらでも良い。値段を言ってみろ」
サラダ会長が申し訳無さそうな表情で言う。
「勿論、勇者ヴィーラ様です。お代など頂きません。ただ、今回しかご用意が難しいのです」
ヴィーラがその綺麗な顔を歪める。
「私は自分の美の為にのみ金を使う。いくらでも良いこの石鹸を用意しろ」
「ですが、相手は貴族様です、私としてもあちらをお断りすることも難しいのです」
ヴィーラがイラついて立ち上がって声を大きくする。
「私が言ってるんだぞ何とかしろ!」
サラダ会長はヴィーラを結構焦らして、イラついてるけど大丈夫なのだろうか?
サラダ会長がここぞとばかりに話を切り出す。
「それでは、一つお願いが御座います」
「何だ?言ってみろ」
ヴィーラはソファーに座り直す。
「今度のドラゴン討伐パレードの、民衆への挨拶の中で、当商会で扱う石鹸の話をして欲しいのです」
ヴィーラが小さく鼻を鳴らす。
「ほう・・・。私を使って商売しようと言う訳か。このタヌキ親父が」
ヴィーラは口元だけ微笑を浮かべる。
「まあ、良いだろう。そこのラムザールもドラゴン討伐に少しは役に立ったからな、お前達に儲けさせてやろう」
サラダ会長は深々と頭を下げてお礼を言った。