シアの裏切り
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ドラゴンもどき討伐に成功しベルクドの町に戻って来ると、町の入り口には帰還のした勇者を一目見ようと、町の人でごったがえしていた。
「勇者様!」
「ヴィーラ様!」
「討伐おめでとうございます!」
人々の歓声の中を馬車が進む。
人が集まり過ぎて馬車が進めなくなり、騎士団が馬車から降りて、人混みをかき分け、道を作って行く。
ヴィーラや騎士団は馬車のまま町に入って行く。俺達冒険者は町の入り口で解散となる。
グッと背伸びをしてルリアと共に馬車を降りた。
「ラムさーん!」
「ラム君!」
「マスター!」
リーザさん、トールさん、プランさんが出迎に来てくれていた。
リーザさんが天使の様な笑顔で飛び込んで来る。
「「「お帰りなさい!」」」
「ただ今帰りました!」
まずリーザさんが抱きついて来て、トールさん、プランさんにも揉みくちゃにされて、生きて帰った実感が沸いてきた。
皆に、こんなにも心配して貰えて嬉しくなる。
リーザさんは泣いて喜んでくれているし。
「ラムさん、無事で良かったです」
「本当にラム君には何度もハラハラさせられるよ」
「そうだよ、マスター、心臓に悪いから止めとくれよ」
「皆さん、心配お掛けしましたが、怪我一つなく、無事戻ってこれました!」
しばし、皆と喜びを分かち合う。
「ルリアさんもラムさんを守って頂いてありがとうございました!」
「ははは、守るつもりが守られちゃいましたよ!」
その言葉を聞いて三人とも、目を見開いて俺を見る。
「たまたまですよ、ドラゴンに吹き飛ばされたルリアを抱えて逃げて、ポーションを飲ませただけですって」
「なんかそれだけで、壮絶な戦いだって分かります!」
リーザさんの真剣な眼差しも可愛いい。
「ところで、シアはどうしたんですか?」
皆、暗い雰囲気になる。
「それが、今日ギルドに出社しなくて、心配して家に行ったんだけど家にも居なくて」
シアが黙って居なくなるなんて・・・今さら逃げ出したのか?
奴隷の証の鉄の腕輪も着けていないから、逃げる事は可能だ。
ただ逃げるなら俺がドラゴン討伐に発って直ぐの方が良いし、キングウルフ討伐の時も家を開けている。
何か事件に巻き込まれた可能性もある。
リーザさんが暗い顔で口を開く。
「なんかシアちゃん、ここ最近凄く怯えていて、私達と目を合わせてくれなくて・・・」
「仕事をしててもミスが多くて、何か心配事があるのかと聞いてみたんだけど、首を振るばかりでね」
プランさんも何かシアの異変に気付いていたようだ。
心配なので獲物探知スキルを使用してシアを探して見る。
あれ?!近くに居るような感じがする。
辺りをキョロキョロ見渡すが、人が多すぎて特定することが出来ない。
すると、シアの気配が離れて行くのを感じる。
「何か近くに居る気配がしたんですが・・・ちょっと探しに行ってきます」
「私達も心配なんで町の中を探してみますね!」
「スキルを使うので、一緒に行きましょう」
獲物探知スキルを使用してシアの居場所を探す。
町の下、海の方角から反応があるな。
反応を頼りにシアの方向に歩いて行く。
「だいぶ近づいては居ると思うんですが・・・」
そこは港の少し離れた住宅地であった。
住宅地とは言ってもどちらかと言うと、低所得者が住むような、掘っ立て小屋が並ぶ地区で、治安はあまりよろしくなさそうだ。
やはり何か事件に巻き込まれた可能性が高いか。
駆け足でシアの反応を追っていくと、シアが男に腕を引っ張られ、引きずられているのが見える。
「シア!」
俺は短剣を抜く。
ルリアも剣を抜き放つ。
「放して!放してよ!」
「こんな所に居ないで家に来いって。もう暗くなっちまうから泊めてやるって」
「シアから離れろ!」
「あ!なんだてめえは!」
男が言葉を言い終える前に、俺は短剣を男の首筋に当て付けた。
「シアから離れろ!」
男は目を泳がせながらゆっくりとシアから離れる。
シアの腕を掴んで強引に引き寄せ、短剣を構えながら男から離れていく。
「シア、怪我はないか?」
シアが一瞬、花が咲く様な笑顔を見せるが、直ぐに思い詰めた表情で下を向いてしまう。
「シア・・・?」
「クソが!」
シアに気を取られて目を離した隙に男が殴り掛かってくる。
瞬間、ルリアが一歩前に出て、剣の柄で男の腹を殴打し、男が悶絶した所を廻し蹴りで吹き飛ばす。
そのまま男は動かなくなる。
ルリア強い!
「シア、怪我はないか?」
シアが小さく頷く。
「こんな所に一人で来て何やってるんだ!危ないだろう!」
「う・・・」
シアが下を向いたまま悲痛な顔で何も言わない。
「きっとシアちゃん怖かったのよね」
リーザさんが優しく話しかけて、シアを抱き締める。
プランさんもアワアワしながらシアに駆け寄って行く。
「シアちゃん、大丈夫かい、怖かっただろう」
「そだな、理由を聞くのは後にして、家に帰ろうな。今日はドラゴン討伐のお祝いしような」
下を向いているシアの頭をガシガシ撫でて、シアの手を引こうとすると払われる。
「シアちゃんどうしたの?どこか痛いの?」
「さっきの男に何かされたのかい?」
皆に優しくされればされるほど、シアの顔は苦痛に歪んでいく。
「私に優しくしないで・・・」
シアが睨み付ける・・・俺たちを睨み付けると言うよりも、自分自身を睨み付ける様な瞳で。
「私は優しくされちゃいけないの・・・」
シアの金色の目から涙がポロポロ溢れだして地面に一つ、また一つ、黒い染みを作っていく。
「私、わたし・・・皆を・・・。こんなに優しくしてくれたのに・・・。こんなに親切にしてくれたのに、私・・・えっぐ」
シアの涙で地面に作ったシミがまた一つ増えて、塊になって大きな染みになっていく。
「私、皆の事が大好きなのに・・・全てを無くした私にいっぱいくれたのに、なのに、なのに!」
悲痛な表情で歯をくいしばって俺達を見つめる。
「私は皆を裏切った、自分の事ばかり考えて!私は最低の人間なの!」
リーザさんが優しくシアを抱き締めて語り掛ける。
「シアちゃん大丈夫だからね、泣かないで話してみて」
リーザさんがシアの頭を抱えて優しく撫でてあげている。
「私、わたし・・・石鹸のレシピの秘密をばらしたの。お父さんを助けたくて、石鹸のレシピを言っちゃたの。皆を裏切ったのにお父さんは助けられなかった。また騙されたの!お父さんと一緒!男の人は皆、騙すのよ!私はもうぜったい騙されないって決めたのに!」
リーザさんに抱かれながら、さらに泣いて、鼻水もたらして顔をグチャグチャしている。
「だから、私は皆に優しくされる資格なんてないの、騙した人を憎んでいたのに、今度は私が皆を騙すなんて・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
嫌な予感が的中した。
正直、心に大きな穴が空いた感じだ。
裏切る前に相談して欲しかったな。
相談してくれたら力に成れたかもしれないのに。
シアの裏切り。
それでも俺はシアを見捨てる事なんて出来ないよ。
シアをギルドに連れてきたのは俺だ。
俺の責任が大きい。
俺が責任を取ることにより、シアの裏切り行為を皆に許して貰えないだろうか。
「リーザさん、トールさん、プランさん、本当にすみませんでした。俺の責任です」
俺は頭を下げて謝る。
それを見てシアが悲痛な声を上げる。
「ラムは悪く無いよ、悪いのは私だよ、ラムは何も悪くない。謝らないで、悪いのは私のに・・・」
「どんな事でも償います、シアを許してやってください」
トールさんが俺の下げた頭を起こして優しく語り掛けてくる。
「ラム君、僕はシアちゃんの事もラム君の事も怒ったりしていないよ、もちろん、ガッカリはしたけど・・・。石鹸のレシピは今後、公開予定だったんだから、それが少し早まったと思えば良いしね。きっと、シアちゃんにも事情があったんだよね。こうしてちゃんと謝ってくれた訳だし、僕は気にしないから、ラム君もシアちゃんも責任取るなんて言わなくていいよ」
トールさんは本当に優しい。
その優しさに何度も救われた。
プランさんもシアを力強く抱き締めて語り掛ける。
「おばちゃんだって、シアちゃんの事を娘の様に思ってるんだ、娘が悪い事をしたら叱るよ!でも、それで嫌いになったりなんてするもんかい!だからマスターもシアちゃんも、もう謝らなくいいよ」
「プランさん、ごめんなさい、ごめんなさい」
プランさんに抱き付き、大声を上げてひとしきり泣き続けた。
シアが落ち着いた頃にリーザさんがシアの目を真っ直ぐ見つめながら話し掛ける。
「私はシアちゃんの事を許しません!」
リーザさんはメイソンの嫌がらせにより、多くのギルド員にギルドを去られていて、人一倍裏切りには敏感になっている。
シアがリーザさんの目をしっかり見つめ返す。
「シアちゃん、人の信頼って石積みみたいな物なの。一個、一個、慎重に積み上げていって始めて高い石積みが出来るわ。でもちょっと失敗したら全部崩れ去ってしまう。だから、一回でも裏切れば、信頼は全て崩れ去ってしまうの。私は今、シアちゃんの事は信じられない」
シアは泣くのをグッと堪えて、リーザさんの話しに耳を傾けて大きく頷く。
リーザさんの表情がふっ、と軽くなり、優しい声色になる。
「でも、石積みはもう一度やり直して積めば良いわ、一個、一個慎重に。シアちゃんはギルドに残って、私の前で石を積み上げなさい。そして、前回よりも高い石積みが出来た時に許してあげる」
泣くのを堪えていたシアの金色の瞳からまた大粒の涙が溢れ出す。
「リーザさん、ごめんなさい・・・。私・・・、リーザさんと一緒に、もう一度・・・、働いて良いですか!」
リーザさんは天使の様な笑みを浮かべて優しくシアを抱き締める。
「シアちゃん、頑張るのよ」
「リーザさーん!わぁぁぁぁぁぁ」
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