サラダ会長との商談
ルリアの腕の再生に竜の血が必要だ。
そこで。昨日の事を詫びて、ミッツさんに俺もドラゴン討伐のPTに加えて貰うことになった。
「良し!そうと決まれば飲むぞ!ラムも加われ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!その前に前回のドラゴン討伐の話と今回の作戦の話を聞かせて下さい!」
ミッツさんにお酒を飲まされそうになったが、慌てて断りドラゴン討伐の詳しい話を聞き出した。
前回の討伐の失敗としては、ライオンハートを飲んでいてもドラゴンの咆哮により、騎士団の一部が心を砕かれて陣形が崩れ、ドラゴンが包囲網を突破し、勇者PTの準備が整う前に勇者PTの所に辿り着いたのが敗因らしい。
今回は騎士団の精鋭十六名と冒険者十二名の総勢二十八名と勇者PTで討伐に行く。
選抜の基準としてはドラゴンの咆哮に耐えられる者が選ばれている。
騎士団十六名で囲んで時間を稼ぐ間に勇者が準備を整える。
冒険者は騎士団が突破された場合に備えて第二陣として勇者PTの前で陣を張そうだ。
なので、騎士団が崩れなければ冒険者の出番はない。
安全ではあるが、今回は基本の報酬が無く活躍がしなければ報酬は貰えない。
参加してもドラゴンの血が手に入らなければ、意味が無いな。
「ミッツさん、報酬て貢献度ですよね、ドラゴンの血を必ず手に入れる方法ってありますか?」
「あー、そうだな・・・騎士団に混じるのは難しいな。彼奴はプライドが高いから無理だろうな。可能性があるのは、ドラゴンが倒された後は、サラダ商会が素材を捌くはずだから、サラダ商会にコネがあれば手に入るかもしれないぞ」
「有難う御座います!」
「おい!ラム!ドラゴン討伐は明日の明朝出発だぞ!」
「分かりました!」
俺はそれだけ言うとサラダ商会に駆け出していた。
サラダ商会長に無理を言って時間を少しだけ作って貰って何とか会うことが出来た。
「ラムザール様、ようこそおいで下さいました。本日は火急の用件と伺って折りますが?」
俺はサラダ会長にドラゴンの血を分けて欲しいと頭を下げてお願いする。
「成る程、お話は分かりました。しかし、いくらラムザール様のお願いでも、ドラゴンは貴重な素材です。領主様から託されている以上、オークションに掛ける前にお譲りすることは出来ません。ラムザール様もオークションに参加されたら如何ですか?」
「サラダ会長はジェネレイツポーションをご存じですか?」
「名前は存じております」
サラダ会長が商人の顔付きになる。
「サラダ会長、ジェネレイツポーションには新鮮なドラゴンの血液が必要なんです」
サラダ会長は商人だ、俺の誘いに乗ってくれるかは利益があるかどうか。
「サラダ会長。ジェネレイツポーションはいくらで売れるんですか?」
「そうですな、オークションに出せば最低でも300,000Gはするでしょう」
俺はゆっくりと問い掛ける。
「ドラゴンの血をそのままオークションに掛けるのと、ジェネレイツポーションをオークションに出すのではどちらが儲かりますか?俺に優先的にドラゴンの血を譲って頂けたら、ジェネレイツポーションをサラダ商会に納品します」
サラダ会長は目を閉じ、顎に手を当てながら問いかけてくる。
「成功の確率はいかほどですか?」
作った事も無いし確率なんて分からん!
こう言う時は嘘をついても虚勢を張っても駄目だ。
出来る商人は利と数字しか信じない。
「俺は一日に十個のハイポーションを作れます。ベテランの錬金術師でも一日に作れるのは五個が限界です」
「ラムザール様はベテラン錬金術師の倍のMPがあるのですな」
大きく頷く。
「そして今回のドラゴン討伐のポーションの納品でエクストラポーションを納品したのは俺だけです」
「技術、MP共に、この町一番の錬金術師はラムザール様であると」
ここが正念場だ、ここで畳み掛ける。
「ジェネレイツポーションのレシピは前代ギルドマスターが残してくれた物です。メイソンが身を滅ぼしてまで手に入れようとした貴重な物です。それをこの町で一番の錬金術師の使い手が持っている。そしてドラゴンの血と言う貴重な素材が揃う」
俺は大きく息を吸い込み吐き出す。
「王都の商人に利をみすみす渡しますか?それともサラダ会長が利益を得ますか?」
「・・・」
長い沈黙の後、サラダ会長が突然笑い出す。
「ははは、良いでしょう。その話に乗りましょう」
サラダ会長と内容を摘めて書面を交わして商館を後にした。
ギルドに戻った俺は次の準備に取りかかる。
ライオンハートポーションの製作だ。
キングウルフの討伐の時に絶大な効果を実感している。
ドラゴンに対峙するに当たって、絶対に欠かせないアイテムだ。
ライオンハートポーションのレシピ
効果:アドレナリンを分泌させて、興奮状態にする。
必要な材料
勇気の花:恐山の奥に咲く白い花
黄麻草:砂漠に生えている草の茎でこれだけでも興奮する。
ポピー草:オレンジ色の花が咲き、食べると感覚が鈍感になる。
魔石、水
勇気の花を搾って一滴、雫を入れる。
そこに黄麻草を擂り潰して、秤で規定の分量にして加える。
ポピー草も擂り潰して規定の量を秤り加える。
黄麻草とポピー草で擂り潰す大きさを感覚に任せて変えていく。
最後は水と魔石を合わせてかき混ぜれば出来上がり。
「錬金術!」
以前にミッツさんに貰ったライオンハートポーションより、輝きが強いライオンハートポーションが出来上がった。
名付けるなら上ライオンハートポーションかな。
出来れば討伐参加者分のポーションを作りたいが、明日までに時間がないので十個ほど作る。
ギルドにストックしてあった俺が作ったスピードポーション、パワーポーション、ハイポーションもあるだけ鞄に詰め込む。
後は装備の見直しでルリアにアドバイスを求めた。
「ルリア、ドラゴン討伐の装備って何を揃えたらいいんだ?」
「そうですねー、ドラゴン討伐と言えばミスリルですかね」
「じゃあ、今からミスリルの装備を買いに行こう!」
てな訳でルリアと共に防具屋に来たのだが、高くて買えない・・・
「ミスリルてこんなにするの・・・」
「ミスリルですからねー」
「もうちょっと安いのないかな?」
「そうですねー、安いのだと固革ですかね。でもぶっちゃけ、ドラゴンの攻撃喰らったら、意味無いと思いますよ。ドラゴンの攻撃なんて避けるしかないですよ」
ルリアがあっけらかんと言うが、当たったら一撃死もありそうだ。
防具の新調は諦め、短剣だけ今使ってるものより更に厚い物に替えた。
ちなみに俺の武器ではドラゴンの皮膚を傷つける事は難しいらしい。
じゃあ、意味無くね!
その夜、寝付けずに庭で微かに聞こえる波の音に耳を傾けていた。
波の音を聞いていると心が落ち着いて少し眠くなってきたな。
うとうとしながらこの世界に転生してからの事が思い出される。
リーザさんと出会って、トールさんと冒険して、錬金術でポーションもいっぱい作ったな。
メイソンの野郎は今思い出しても腹が立つ。
そしてシアに出会った。
怒った顔、呆れた顔、睨んだ顔、照れた顔、泣いた顔・・・笑った顔
「生きて帰って来れるかな」
「生きて帰って来るって約束したでしょ!」
振り返ると怒った顔のシア。
「なんで人の顔見て笑うのよ!」
「いやー、今シアの事を考えてて、振り返ったら想像の中と同じ表情してたから、つい」
「勝手に想像しないでよ、恥ずかしい!」
シアが顔を赤くして下を向く。
そこからずっと二人とも何も言わず、遠くから波の音が静かに聞こえる。
「そろそろ寝ようか」
俺が切り出して部屋に入ろうとすると、服の裾を掴まれる。
その仕草も何か懐かしくて自然と笑みがこぼれた。
「シア、どうし・・・」
シアが俺の胸に飛び込んで来て言葉が途中で途切れる。
シアの身長から俺の鼻の辺りにシアの金髪がきて、二人で作った鈴花の石鹸の香りが鼻をくすぐる。
優しくシアを抱き締め、赤子をあやすように背中を叩きながら強く思う。
絶対に生きて帰ってきて、もう一度シアを抱き締めよう。
シアが俺を見上げ、その綺麗な瞳を閉じる。
その綺麗な顔を見ながら俺の心臓の鼓動が早くなって、頭が真っ白になっていく。
良いんだよね!これってOKサインだよね!
その小さな唇に近づいていった時、危険探知スキルが反応して慌てて首だけ後ろを振り返って固まる。
俺が固まったのを不思議に思ったのかシアも俺に抱き締めらたまま、俺の体の横から顔だけヒョコッと出して叫び声を上げる。
「ルリアさん!!!」
ルリアが暗闇の中から現れて舌をだす。
「あれ?気配を完全に消してたのに、よく気づきましたね!お邪魔でしたかね?」
「邪魔だボケー!!!」
思わず叫んじゃったよ。