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ドラゴンの血

 ミッツさんにドラゴン討伐に参加しないか誘われたが、丁重に、たぶん丁重にお断りした。

ドラゴン討伐は領主指名らしく、断るとこの町には居られないらしい。


 まあ、海の見える家は気に入ってはいるが、賃貸だし、ギルドマスターにも未練は無いし。

異世界旅行も悪くない。


 ギルドの皆に集まってもらって、今しがたミッツさんから言われた内容を伝えたら、リーザさんが怒ってしまった。


「そんなの酷くないですか!ラムさんは何も悪い事してないのに、依頼を断ったらこの町を出ていけなんて、領主様でも横暴過ぎます!」

「俺もそう思いますよ!俺は冒険者でもなければ、この町の兵士でもないですし、只の錬金術ギルドのギルドマスターですよ!なーんで、ドラゴン討伐に参加しなくちゃいけないんですか!」

「そうです!そうです!」


 リーザさんと俺がぶーたれていると、トールさんも話に加わってくる。


 「確かに、ギルドマスターは有事の際に、領主の命令で町を守る義務があるんだけど、錬金術ギルドのギルドマスターが戦場に駆り出されるなんて、聞いたことないよ。ポーションを作って渡せなら、まだ分かるけど。いくらラム君が強いって言ったてドラゴンは並みの魔物じゃないからね」


 皆で話し合ったけど結局良い案は思い浮かば無かった。

何時とは言われていないが、早くこの町を去らなくて捕まってしまう。

世界が違えば考え方も違う。

日本の隣の国も、兵士になるのを拒むと捕まるらしいし、国民が自分の国を守るのは当たり前って、考えの世界は案外多いのかもしれない。


 「シア、ごめん。話した通り、俺はこの町を去らなくてはならない、シアは一緒に来てくれるか?」

「まー、ラム、一人じゃ心配だから付いて行ってあげる」

「何処に行くかも決まってないし、苦労を掛けるかも知れないけど、シア、よろしく」

「私は大丈夫よ、お父さんといっぱい行商してきたから、旅なんて慣れっこよ」


 よし、そうと決まれば早速、旅の準備をしよう!

前回のキングウルフ討伐で俺はある程度揃えたので、同じ装備をシアにも買えば良いよな。

後は旅慣れたシアに聞きながら足りない物を買って行くか。


「マスター、本当に行っちゃうのかい?」


 プランさんが悲しそうな顔をしてくれる。


「俺だって嫌ですけど、仕方ないですよ」

「トール、マスターの事、どうにかならないかい?」

「そうですね、僕の方でも知り合いに聞いてみます」 


 旅の準備の為ギルドを出る所で、一個思い出した。


「リーザさん、先代ギルドマスターの書、明日まで貸して貰えますか?」

「勿論、ギルドマスターはラムさんなんですから」


 今日中になるべく覚えられる所は覚えて、メモしておきたい。

たぶん、今後も俺の金稼ぎの主軸となるだろうからな。


 旅の準備を整えたその夜、先代ギルドマスターの残したレシピ集を読み直していて、自分の愚かさに気付かされる。


 レシピ集の中にジェネイツポーションのレシピが載っていたのだ。


 ジェネイツポーション

効果:欠損した部位の再生が可能


必要な材料:


ドラゴンの血:生命力に溢れた最強種

ドラゴンの血は劣化が早い為、保存に注意


トロールの心:トロールの再生能力の核となる臓器


オークの肉:イノシシの魔物


極上の魔石


精霊山脈の水:不思議な力が宿った水


 エクストラポーションの上位に位置するジェネイツポーション。

素材が無いのでそのままスルーしていた。

これがあればルリアの腕が再生出来るのではないだろうか?

ドラゴン討伐に参加するなんてあり得なかったが、ルシアの腕を再生出来るなら、危険を冒してドラゴン討伐に参加する意味もある。


 会ったばかりのルリアにそこまでする必要があるのか、腕が再生したからといって、メイドになってくれる訳では無い。

でも、昨日の夜見た、ルシアの月明かりの下の悲しそうな顔が、俺の頭から離れなかった。


 常に明るく振る舞っては要るが、時折見せる悲しげな顔、勇者PTに捨てられたルシアの境遇。

それが俺を無性に助けたいと駆り立ててるのだ。


 夜中ではあったが二人を呼んで、ドラゴン討伐に参加する意思を伝えることにした。

ただルシアの為に参加する事は伏せておく。

ルシアの為と言えばルシアは反対するかも知れないし、腕が戻る保証もない。

俺が勝手にやるのに、恩着せがましくなるのも嫌だった。

勿論、シアは反対した。


「なんで、いきなりドラコン討伐に参加するなんて言い出したのよ!もう、心配させないって約束したじゃない!」


 シアの悲しそうな顔に心が痛む。


「シア、ごめん。どうしてもドラゴン討伐に参加して!ドラゴン討伐の報酬として、ドラゴンの血が欲しいんだ」

「命より錬金術の素材が欲しいなんてどうかしてる!相手はドラゴンなのよ!」


 ルリアの腕を治す為の素材とは伝えてないので、説得は難しい。

ルリアが明るい声で言う。


「ドラコンは強いですよー!死んじゃうかも知れませんよ。それでもドラコンの素材が欲しいんですか?」


 俺は真剣な顔で答える。


「どうしても作りたいポーションにドラゴンの血が必要なんだ」

「決意した男の顔ですね。シアさん、たぶんラムさんには何を言っても聞かないと思いますよ」

「ああ、どうしてもドラゴンの血が必要なんだ。シア、必ず生きて帰ってくる。ドラゴン討伐に行かせてくれ」


シアが俺を睨んだまま何も言わない。


「それでしたら、私がラムさんのドラゴン討伐について行って護衛しますよ」


ルリアが俺のドラゴン討伐に護衛を申し出てくれる。


「ルリア、怪我してるのに危険だ。その申し出は受けれない」


ルリアはいつもの軽い感じだ。


「ははは、片腕の私に勝てないラムさんが言う事じゃないですよ」

「そうだけど・・・。でも、一度やられた相手に立ち向かうなんて、ルリアは怖くないのか?」

「ちちち!私は元勇者の騎士ですよ。そんな臆病者じゃないですよ。ラムさんの作ったポーションで助けられた命です。その恩を返させて下さい」


 シアが下唇を噛みながら睨み付けながら口を開く。


「お父さんも、ラムも、ルリアさんもみんな・・・皆、勝手なこと言ってて・・・」


 シアの金色の瞳が涙を溜め込みユラユラ揺らぐ。


 思わずシアに歩みより強く胸の中に抱き締める。


「シア、必ず帰ってくるから」


 しばらく何も言わず俺の胸に顔を埋めていた。

そしてゆっくりシアが俺の胸の中で頷いた。


「約束、必ず帰って来て」


「じゃあ、これで決まりですね!シアさん、ちゃんとラムさんを生きてシアさんの元に帰しますから。片腕が無いんで、攻撃は出来ませんが、しっかり守りますね」




 次の日、ミッツさんに会いに冒険者御用達の酒場を訪ねると、ミッツさんとテーマさん、エキストラさん、三人が飲んでいた。


「ミッツさん話が有ります」


ミッツさんは気だるそうに顔を上げる。


「あぁ?臆病者じゃないか。なんだ、別れでも言いに来たのか?」


 ミッツさんが蔑む目線を向けてくる。


「昨日はすみませんでした。俺もドラゴン討伐に参加させて下さい」

「ほう、どういった気持ちの変化だ?」


 ミッツさんの雰囲気が少し和らぐ。


 俺はポーションの素材としてドラゴンの血が必要な事を説明する。


「ははは!そうか、そうか、お前らしい動機ではあるな。まあ、人それぞれ抱えるもんが違えば立場も違う。だが、ドラゴン討伐に命を掛ける仲間で在ることには違わねー」


 ミッツさんが差し出した手を握り返す。

その顔はいつものニヤケ顔に戻っていた。



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