ルリアと勝負
ルリアと一日ご主人様を賭けて勝負する事になった。
俺が勝てば一日、ご主人様と呼んで貰える。
持ってきたナイフを構えてルリアと対峙する。
「ラムさんはナイフで良いんですか?」
「これが一番得意なんでこれで行きます」
ルリアと対峙して違和感に気付く。
まず、何処を攻撃すれば良いのか分からない。
こんなこと初めてだ。
ナイフを構えると何となく、隙がある部分が判るのだが、ルリアには全く隙がない。
それに強引に攻撃しようと踏み込むと、途端に危険探知スキルが発動して、直ぐに下がるはめになる。
さすが、勇者PTの騎士だ、片腕が無いのに強い!
「ラムさん結構やりますね!隙を作っても中々乗ってきてくれませんね。ではこちらから仕掛けますよ!」
ルリアがそう言うと、すごいスピードで間合いを詰めて来た。
もう、危険探知スキルとナイフスキルの感覚に身を任せて、目に見えないスピードの攻撃を何とかかわす。
え!何なのよ!利き手じゃ無い腕で振ってこのスピード!
「えーーー!これをかわすんですか!ラムさん結構やりますね!楽しくなって来ましたよ!」
ルリアの猛攻が始まる。
とにかく、避けることだけで精一杯だ。
避けていると、たまに出来る隙に気付く。
ルリアの腕のない右側に攻撃出来そうな隙がある。
それに、ルリアの動きが少し悪くなってきた気がする。
「やぁ!」
ルリアの右に回り込み、懐に飛び込んんでナイフをくり出す。
寸前でナイフがかわされる。
首から肩にかけて危険探知スキルが反応するが、間に合わない!
「があ!」
肩に痛みが走る。
「はあー。ラムさん強いですね!負けちゃうかと思いましたよ!」
利き手じゃないのにこの強さ、さすが勇者PTの騎士だな。
初めから勝てる訳がなかったか・・・
「最近、強くなったから勝てると思っちゃたよ」
「はあ、はあ、十分強いですよ。ビックリしましたよ」
ルリアが大きく肩で息をしていて、辛そうにしていた。
「ルリア、大丈夫?」
「ごめんなさい。傷は塞がってるんですけど、まだ体力が戻らなくて」
「こっちこそ、気付かずにごめん!」
ルリアが無邪気な笑顔で笑い返しくれる。
「私がお願いしたことですから」
無邪気な笑顔が消えて静かに月に照らされた海を見つめる。
「不安だったんです。腕が無くなって、自分がどれくらい戦えるのか。騎士としてやっていけるのか・・・でも駄目ですね。利き腕が無いのは騎士として致命的です・・・・・・。分かってはいたんですけど、いざ実際に実感すると結構堪えますね・・・・。」
ウサギ獣人のルリアが月明かりに照らせれて幻想的な景色だった。
「でもそれだけ戦えれば十分じゃないの?」
「そうですね、でもいつか命を落とすと思います。それが戦場ですよ」
短い時間であったが、激しく動いたのでルリアも俺もしっとり汗をかいていた。
「それにしても、寝る前に汗かいて気持ち悪いですね。拭いて寝ますかね」
「そうしましょう」
二人でタオルを水で濡らして体を拭いていると、シアが二階から降りてくる。
「ねえ、こんな夜中に何やってるのよー。あれ?ルリアさんも一緒なの?」
「ごめん、ごめん、ちょっと運動したら汗をかいちゃって体拭いてたんだ」
「へ・・・こんな夜中に運動って・・・」
固まったシアが俺とルリアを交互に見て、みるみる顔を赤くしていく。
「違うぞ!!!ルリアさんのリハビリで剣の相手をしてただけだぞ!」
俺が慌てて弁解する。
「分かってたわよ!知ってたわよ!あんたこそ何勘違いしてんの!」
「ははは!」
ルリアさんは横で大笑いしていた。
次の日、ルリアは今日一日ゆっくり過ごしたいそうなので、家の鍵を渡して俺たちはギルドに出社していた。
プランさんがまた慌てて錬金術室に入ってくる。
「マスター大変だよ!」
「今度はどうしたんですか?」
「マスターがドラゴン討伐のメンバーに選ばれたよ!」
「はあぁぁぁぁ!?」
慌ててギルドホールに出ていくとミッツさんが座っている。
「ミッツさん!俺がドラゴン討伐のメンバーてどお言うことですか!」
「よお!」
「よお!じゃないですよ!」
ミッツさんの話では二回目のドラゴン討伐が決まったそうだ。
前回の失敗を踏まえて騎士団以外に、冒険者もドラゴン討伐に参加するらしい。
「俺、冒険者じゃないんですが・・・」
「ああ、知ってよ」
「じゃあ、何で俺が参加するんですか?」
「領主からの指名が入った」
俺、領主なんて会ったことも名前も知らないんだが。
「あのー、全く理解出来ません」
「俺が推薦した」
「なに!してんですか!」
ミッツさんが良い人だと思っていたのに最悪だ!
「いや、ドラゴン討伐なんて行きませんよ!」
だってキングウルフに勝てる俺が、片腕を無くしたルリアに勝てないんだよ。
利き腕があるルリアでさえ勝てないのに、危なすぎるでしょ!
「断ると、この町にいられねーぞ」
「いや、だって危険すぎるでしょ!」
「まあ、そうだな、危険だな」
「じゃあ何で推薦なんかしたんですか!」
ミッツさんが大きくため息を吐く。
「ラム、お前レンジャーだろ」
ミッツさんがキングウルフ討伐で見せて真面目な顔で、俺の目をじっと見てきたので思わず返事をしてしまった。
「そうですけど・・・いつ気付いたんですか?」
「まあ、あれだけのスキルを見せられれば気付くだろ。まず一人でキングウルフを倒して、メイソンと冒険者を倒した時点で怪しいとは思っていた。だから、おめーを調査する為、キングウルフ討伐に参加したって訳だ」
ん?なんかミッツさんの言っていること可笑しくないか?
初めから疑ってキングウルフ討伐に参加したってことだろ?
「なんで俺を調査する必要があったんですか?ミッツさんて何者ですか?」
「ははは」
いつものミッツさんのだらしない顔に戻る。
真面目な顔してれば格好いいんだけな。
「そんな大層なもんじゃないぜ。素材採取の副業で情報屋をやったるだけだ。いや、違うな、情報屋の副業で素材採取をやってたんだけっか?まー、どっちだっていい!簡単に言うとベルクドの領主の犬だな。この町で起きた事件やら不正を直で領主に報告するのが仕事だ。例えばメイソンの奴が悪事を働いた時も俺が結構調べたんだぜ!」
それって結構凄いんじゃないの?
でも俺の秘密が筒抜けってやばくないか?
「まー、安心しろ。悪いことは言ってねー。ただ、お前さんの情報を売ったのは悪いと思ってる。それに、だから、せめてもの罪滅ぼしに俺の素性を明かしたって訳だ。一応、企業秘密だからばらすなよ」
「で、なんで俺がレンジャーだと、ドラゴン討伐に行かなくちゃいけないんですか!」
「そりゃ、強い奴が多い方が楽に倒せるだろうが」
「それは判りますけど、冒険者でもない俺がなんで行かなくちゃ行けないんですか!」
「じゃあ、おめーはドラゴンが暴れて人が死んでも良いのか?」
それは良くは無いが、なぜ命の危険を侵して俺が行かなくてはならないのか。
勇者で転生した訳でもないし、正義感が強い訳でも、事故犠牲精神が高い訳でもない。
シアにはあんまり心配掛けたく無いし。
ドラゴン討伐に行かなければ、この町で商売が出来ないなら別の町に行けば良いだけだし。
あの勇者の盾になりたくないし。
行く理由が全く見つからない。
強いて挙げるならドラゴンを見てみたいくらいかな。
でもそれは命を掛ける理由にはならない。
「参加すると報酬は貰えるんですかね?」
「基本報酬は・・・ない!」
「はあぁぁぁぁ?」
思わず態度が悪くなってしまった。
いかんいかん!どこのヤンキーだよ。
「無いが!ドラゴンを倒せたら貢献度によってドラゴンの売却金が貰える」
ちょっとそれって曖昧過ぎない?
「考えたんですが、やっぱりドラゴン討伐には参加しません!」
「おい、本当に良いのか?この町に居られなくなるぞ!」
「それなら別の町に行きますよ」
「このギルドはどうすんだ!?ギルドマスターだろ!」
「トールさんに譲りますよ。最初からそっちのが良かったんですよ」
ミッツさんが黙ってしまう。
「まあ、そうだよな。お前なら、ラムならやってくれんじゃないかと、期待したが残念だ。ま、もう会わないかも知れんが、どこかで会ったらよろしくたのむぜ」
ミッツさんはそう言うといつものニヤケ顔で手をヒラヒラさせて帰っていった。