キングウルフ討伐2
ウルフの群れを倒すと、ついに探していたキングウルフが姿を現す。
先程逃げ出した一匹だろうか、一匹ウルフを従えている。
並べると、大きさが違うのが良く分かる。
ウルフは大型の犬位で、キングウルフは虎とかライオン位の大きさがある。
さて、まずは毒化のスキルを試してみますか。
「毒化!」
袋から出した大きめの干し肉に毒化のスキルを掛けておく。
正面にキングウルフと対峙する。
キングウルフは凄い威圧感だがライオンハートのお陰で怯むことはない。
ほーら、ワンコ餌だよ!
毒化した干し肉を目の前に投げつけてやる。
あれ?見向きもしないで俺に牙を剥いて、唸り声をあげやがった!
仲間を殺された怒りなのか、施しを受けない気高き意思なのか。
「ぼごぉぉぉぉぉぉお!!!」
キングウルフの咆哮で空気が振動する。
前回はこれで気持ちを折られて何も出来ずに立ちすくんでしまった。
前回は運良くトラップに引っ掛かり倒せた。
ライオンハートポーションのお陰で、心が折られる事は無かった。
「スリープアロー!」
キングウルフはスリープアローを難なくかわすと一気に距離を詰めてくる。
短剣を抜いて構えてトラップに誘導する立ち位置に立つ。
トラップに掛かる寸前でキングウルフが大きく跳躍して俺に覆い被さって来た。
寸前でキングウルフの爪をかわして、緑色の毛皮を短剣で切りつける。
キングウルフは傷を受けたのを全く意に介さず、さらに牙を剥いて俺に飛び付いてきた。
「ガア!」
キングウルフの顔を一閃すると一瞬怯むが、逆に咆哮をあげ、怒りの表情でこちらに牙を見せる。
「キャン」
バシュ!
声の方を見ると、ついてきたウルフがトラップに引っ掛かり倒れた所を、ミッツさんが弓で射っていた。
一瞬、キングウルフと俺の攻防が止まった間にトラップの仕掛けた位置まで移動しウルフを迎え討つ。
一歩で俺の場所までキングウルフが距離を詰めてくる。
トラップのスキルに上手く誘導出来た!
「キャイ~ン」
「スリープアロー!」
キングウルフは俺に恨めしそうな目を向けていたが、ゆっくりその瞼を閉じていった。
戦闘が終わった今も全身を駆け巡った血が未だに俺の心臓を早く動かしている。
死を感じる非日常と、勝ったときの高揚感が、俺を、気持ち良く包み込む。
寝てるキングウルフは先程まで凶悪さは微塵も感じさせず。むしろ可愛い位だ。
戦った相手に敬意なのか愛着なのか、このままペットにして飼いくらいだ。
「パチパチ!キングウルフ討伐おめでとう!どうやって倒すのかと思っていたかが、面白いものが見れたぜ」
ミッツさんは意味深にニヤリと笑みを浮かべる。
「それにしても、ラムのトラップもスリープアローも凄い精度だなー。なー、ラム?」
「そうですね。ありがとうございます」
またニヤリと笑う。
「まあ、いいや。運び屋を呼んで直ぐに処理しちまおう」
そう言うと棒に火を着けると赤い煙が出て空に登っていく。
煙を追って見上げた空は、澄んだ青色で気持ちが良かった。
しばらくするとテーマさんとエキストラさんが現れ早速解体を開始していく。
「全部は持って帰れないから、値段の高い物から持て帰れるだけ持って行くからな」
ミッツさんも解体に加わりどんどんウルフ達をばらしていく。
毛皮と魔石と肉に分解されて毛皮と魔石は全部持ち帰り、肉は持てるだけ持った。
四人で分担して担いで森を後にして、門が閉まる前までに町に入る事が出来た。
持ち帰った物は素材ギルドに持ち込み処理をお願いした。
ここで肉の冷凍保管、毛皮の洗浄などの処理を行ってくれるそうで、希望があればその後に買い取りもしてくれる。
汚れを落とした後に四人で酒場にくり出す事になった。
冒険が成功で終わった時はPTメンバーで酒場に行くのが慣例?常識?となって居るそうで、今後もテーマさん達にお世話になることを考えると行かないと不味いらしい。
で、今回の場合は俺が全員分の代金を出すのも決まりらしい。
さすが冒険者の皆様だ。
飲む飲む飲む飲む!!!
冒険者御用達の安い酒場らしいけど、それでも200Gくらい飲み食いしたぞ。
俺もだいぶ飲まされた。
途中で寝てしまい、起こされて解放されたのは朝方だった。
頭も痛い・・・
とぼとぼ歩いていると我が家が見えてきてホットする。
シア、元気かな?
一日会ってないだけなのに無性に恋しくなる。
部屋に入るとテーブルの上で突っ伏していたシアがむくりと起き上がり、こちらをボーッと見つめる。
「ただいま」
「おかえり」
短い会話だけど、すごく幸せな気持ちになった。
「怪我してない?」
「ああ、この通り元気だよ」
「良かった・・・」
シアが下を向いて顔を隠した。
あれ?泣いてるのかな?嬉しくて喜んでるのかな?
寝室じゃなくて一階のダイニングに居たって事は心配して起きてたのかな?
ふふ、可愛い奴め。
近づいてそっとシアの金髪に触れる。
「ありがとう、心配して起きていてくれてたの?」
シアが小さく首を振る。
「違うわよ・・・でも、あんまり危ないことはしないで」
「ああ、分かった」
シアの金髪を優しく撫でると、気持ち良さそうに目を閉じた。
「朝ごはん食べた?」
「まだだよ」
「じゃあ、すぐに作るね!」
シアが元気に立ち上がり顔と顔が近づく。
どちらが近寄った訳でもないのに段々と二人の距離は息がかかるくらいになる。
交差する視線。
心臓の鼓動が早くなる。
シアがさらに顔を寄せて来てピタリと止まり、眉間にシワを寄せて一気に離れる。
「くさ!あんた、お酒飲んでるでしょ!」
「え!はい・・・」
シアが拳を握ってプルプル震えている。
「私がどれだけ心配したと思ってんのよ・・・何、呑気にお酒なんて飲んでんのよ!!!」
「ぐふぉ」
シアの拳は俺のみぞおちに綺麗に決まっていた。
駄目だよ!シア、今そんなことしたら、そんなことしたら・・・
俺は口を押さえて庭に駆け出す。
「おえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
はあ、スッキリした!
振り返って見たシアの目線は汚物を見る目だった。