オレンジ石鹸作り
仕事終わりに、シアとお菓子を買いに行く約束をした。
午後はオレンジの皮が大量にギルドに届けられたので、それを使ってオレンジ石鹸作りにチャレンジしてみる。
シアと一緒にオレンジの皮をさらに白い綿を除いて、オレンジ部分だけにしていく。
それを搾り機に入れてオレンジの皮の液を集めていく。
その汁をオリーブオイルに加えて石鹸を作ってみる。
更に鹸化した状態にもオレンジの汁を追加で入れる。
後は固まって香りがすれば完成となるが、このオレンジの汁を搾るのが大変過ぎる。
プランさんにお願いしてオレンジの汁を搾るだけの人を商業ギルドに依頼を掛けてもらった。
以前作った鈴花の石鹸が固まったので五等分にして皆に試してもらう。
「シアは鈴花の石鹸どう?」
「良いと思うわ。香りもほんのり付いてるし、うちの石鹸の弱点の匂いが解消されて、売れると思う」
「後は製造コストと手間の問題だけだね」
鈴花を加えると一回作るのに原価で20G位上がってしまう。
一個当たりにすれば4Gの値段のアップか。
思ったほど悪くないな。
お金って言うのは有るとこにはあるし、値段を気にせず良いものが欲しいって層は存在する。
鈴花石鹸やオレンジ石鹸をうちの高級ラインとして、勇者や貴族等に使ってもらって、ブランドイメージを作りながら、庶民には普通の石鹸を記念日やプレゼントなど、ちょっとした贅沢として買って貰えたらいいんじゃないだろうか。
「製造コストの問題は値段をあげれば解決しそうだね。後は作る手間を何とかしたいね。トールさんなんか良い案ありますか?」
「そうだね、取り合えず素材ギルドに依頼してみるのが良いんじゃないかな。素材ギルドの人達は加工術を持っていて、搾ったり、乾燥させたり、砕いたり、冷やしたりなんて加工が技術を持っているからね」
「シアの方で鈴花の加工について聞いておいて貰えるかな」
シアが任せてと元気に頷く。
今日は仕事後にシアとお菓子を買いに行く約束だがその前に二件の来客があった。
まず一件目はサラダ商会からの使いで勇者様が到着したそうで、一緒に挨拶に行こうとの事だった。
勇者様は明日は温泉で旅の疲れを癒してからドラゴン討伐に出るので、明日の午後にサラダ会長と勇者様に会いに行くことになった。
二件目はミッツさんで、キングウルフ討伐の件だった。
「運び屋の手配が出来たぞ」
「ありがとうございます」
「PTメンバーは俺とラム、運び屋で戦士のテーマと狩人のエキストラ。テーマとエキストラは戦闘には参加しない。俺らと一定の距離を取りながら進んで行って、討伐が成功次第合流して剥ぎ取りと運搬に加わる」
「ここまでで質問はあるか?」
俺は首を横に振りながら答える。
「ありません」
「今回の日程は一泊二日を考えている。もちろん一日目に発見出来れば終わるが、遭遇しない場合は二日目も捜索を続ける」
「・・・」
俺が黙っているとミッツさんが大きなため息をつく。
「おめえの事だ、日帰りで帰って来るって考えてただろう」
「よく分かりましたね」
「キングウルフは森の奥に生息しているから、深くまで潜らなくちゃいけないし、目当ての魔物がいる場合は最低一泊する装備で行くぞ。遭えなかったら意味ないからな」
「分かりました泊まれる装備を揃えておきます」
またミッツさんが大きなため息をつく。
「本当にキングウルフ倒せるか心配になってきたぜ」
「ははは、たぶん倒せると思いますよ」
「俺の命が掛かってんだ頼むぜ。明日昼頃にテーマとエキストラを連れてくる。簡単な自己紹介と打ち合わせをやるから時間空けとけよ」
ミッツさんに必要な装備を聞いて今日の打ち合わせはお開きとなった。
仕事終わりの鐘の音が町に鳴り響く。
シアと一緒にギルドを出ようとすると、リーザさんに呼び止められる。
「シアちゃん、ラムさん、この後どちらか行くんですか?」
「はい、この後シアと上の商店街でお菓子を買おうと思ってます」
リーザさんの目がピッキーンと光る。
「私、お薦めのお店あるんですよ、一緒に行きましょうよ!」
「じゃあ、お願いします」
上の商店街は下のマーケットと違い、ちゃんとした店舗が並んでいる。
その一つで、赤いレンガ作りのお菓子屋に入っていく。
店に入ると甘い香りと、バターの匂いが店中に溢れている。
右も左も正面の棚にも籠にクッキーなどの焼き菓子が入って並んでいる。
店に入った瞬間からシアとリーザさんのテンションはマックスだ。
「わああーー。美味しそう!」
「シアちゃん、これ見て」
「わあぁあ。可愛いですね!」
「これとっても美味しいのよ。あとこっちも私大好きなの」
「わああぁぁ!これも美味しそうですね!迷っちゃいますね!」
「シアちゃん、こっちも来てみて」
「わああぁぁ!これも美味しそう!」
てな感じで俺はたぶん会計の時にしか呼ばれないんだろう・・・
俺も勝手にお菓子を眺めていく。
大きなドーム型のクッキーをカットして半月型にしたクッキーでカット面からは豆が見えている。
次の棚はクッキーがマカロンの形になっている。
マカロンって言っていいのかな?
次の棚は波打った大きめのクッキーが並んでいる。
もちろん普通のクッキーも並んでいるが、どうせ食べるなら見たこと無いお菓子が良いなー。
「ねえねえ、ラムはこれと、これ、どっちが良いと思う?」
シアが見せてくれたのはさっきのマカロンの形のクッキーと貝の形をしたサクサク生地のクッキーに砂糖をまぶしてある物だった。
「シアお姉様がどっちも美味しいて言うんだけど、んー」
「どっちも美味しいですよ!他のお菓子も美味しいんですけど私はその二つが特に好きなんです!」
シアが眉間にシワを寄せてうんうんずっと唸っている。
「シア、両方買っていいよ。俺も食べてみたいから三個づつ買おう」
シアの顔が一瞬笑顔になるが、またうんうん、唸っている。
「ん?どうした?二つ買えば悩みは解決でしょ?」
「そうなんだけど、そうすると次の楽しみが一つ減っちゃうし、なんかずるいと言うか・・・なんか、もやっとしちゃうの!」
「そ、そうか。じゃあ、俺がこっちでシアが貝の形のクッキーにしたら?俺が味の感想だけ、伝えてあげるよ」
シアがキッと睨みつけてくる。
「ダメ!そんな事したらすごく悔しいじゃない!ご主人様は他の選んで!」
ひどい・・・聞かれたから、よかれと思ったから言ったのに・・・
「ラムさん、ラムさんにはこれなんてお薦めですよ。甘さが抑えられてて男性にも人気があるんですよ!」
リーザさんが笑顔で優しく声を掛けてくれる、シアに塩対応された後だと余計に天使に見える・・・
やっぱり、リーザさんは可愛いなー。
「決めた!こっちにする!」
結局シアは貝の形のクッキーにした。
次の日午前中は防具屋で皮の鎧上と鎧下と皮の籠手と皮のマントを購入する。
皮のマントは寝袋代わり、雨ガッパ代わりと、これ一枚で非常に重宝するアイテムだ。
因みに以前に買った皮の籠手はウルフに噛まれて駄目になってしまっていた。
午後サラダ会長と共に勇者様に会いに行く。
サラダ会長から事前に聞いた情報だと四人PTで勇者がヴィーラ、神官がカール、魔法使いがベロ、騎士がルリア。
神官カールと魔法使いのベロは将来有望な若者らしい。
騎士ルリアは勇者ヴィーラと幼なじみなので、PTに入ったそうだが、勇者と互角に打ち合える程の腕らしい。
勇者達が泊まっている宿は温泉の周りに、数件、宿があるのだが、勿論一番豪華な宿の最上階に宿泊していた。
サラダと共に勇者の部屋を訪ねる。
「ヴィーラ様失礼いたします。私この町で商会を営んでおります、サラダと申します。ヴィーラ様にご挨拶に参りました。お部屋に入っても宜しいでしょうか?」
「入れ」
中から短く女性の声がする。
「失礼致します」
サラダに続いて部屋に入って行く。
部屋はうちの家の四倍位の広さがあり、ソファーに茶色の髪に切れ長の目のイケメンが座っていて、その膝には青い髪、青い目の美女が膝枕されている。
隣のソファーには青い目で茶色い髪を肩まで伸ばした男性がソファーに深々と座り、こちらを冷めた目でこちらを見ている。
ソファーの後ろには桜色の目と髪の女性が立っている。
ピンクのインナーを着て、その上に鉄の鎧を着ているので、鎧の隙間からピンク色がチラチラ見えており、女性が鉄の鎧を着ているのだが可愛くまとめているな。
腰には自身の体の半分以上の長さの剣を下げているが、剣が長いと言うより彼女の身長が大きくないから、長く見えているだけかも。
そして一番の特徴なのは頭に付いてる長いウサギの耳。
やっぱり、ウサギ獣人可愛いな!
「おい、そこの男、汚い視線でルリアを見るな」
ソファーで膝枕されている青髪の美女がこちらを蔑んだ目で見てくる。
ん!?それって俺の事?・・・だよね。
「これは、勇者ヴィーラ様、連れが失礼致しました」
サラダが慌てて謝罪をする。
ん!勇者ヴィーラて女性だったの!
俺は男性だと思い込んでたよ!