イカ飯
今日はリーザさんトールさんが新居を見たいと家に遊びに来てくれて、四人で夕飯を作って食べる事になった。
ご飯も出来上がって、海の見えるダイニングで食事を始めるが、残念なことに外も暗くり海は見えなくなってしまた。
トールさんが持って来てくれたワインで皆で乾杯する。
「ラム君、本当に良い家だね。広いし、海も見えて解放感もあるね」
リーザさんも誉めてくれる。
「あー、私もこんな素敵なお家に住みたいなー。シアちゃんが羨ましいー」
「私もこんな素敵な家に住めるなんて思ってなかったです」
シアも家を気にいってくれているし、リーザさんに羨ましがられてまんざらでもなさそうだ。
「ご飯、冷める前に食べましょう」
「私、お腹ペコペコー」
「でも、このイカの中にご飯が入っているなんて不思議ですね」
「でも、鶏にご飯詰めたり、肉にご飯詰める料理もあるから、イカにご飯詰めるのがあっても良いはずだけど、僕も初めてみたよ」
シアが食べたそうにこっちを見ているので、まず俺から食べて見る。
「美味しい!」
久しぶりの醤油なんで、余計に美味しく感じる。
シアも俺が食べたのを見て、イカを美味しそうに口に入れる。
「もごしいしわね、もぐもぐ」
「シアちゃん、食べながら喋っちゃ駄目よ」
リーザさんが笑いながら優しい声でシアに注意している。
「うん、すごく美味しいよ。ラム君が料理出来るなんて知らなかったよ」
トールさんにも好評だ。
「そうそう、ご主人様て料理も出来るのよね、昨日作ってくれた料理も美味しかったよ」
皆で料理とお酒で会話が盛り上がっていく。
年齢も皆近いし、仕事場が同じ事もあり話も合う。
お酒が進めばリーザさんが絡み酒になるわけで、今日は止めるプランさんが居ないんだよね。
「シアちゃん、ラムさんに限ってそんな事はないとは思うんだけど、家に二人だけでラムさんに変なことされていない?」
「もう、リーザさん俺がするわけないじゃないですかー」
リーザさんが手を前に突きだして俺を制止させる。
「ラムさんには聞いてません。私はシアちゃんに聞いてるんです」
「トールさん、そろそろ、夜も遅いですし、リーザさんを帰した方が良いと思います。俺も途中まで一緒に行きますから」
「なんか、怪しいですね」
リーザさんが俺の目を覗き込んでくる。
ちょと目が座ってるんですけど・・・
「シアちゃんどうなの?」
「リーザお姉さま、心配してくれありがとうございます、ご主人様がイヤらしい目で見てきますけど、部屋には鍵を掛けてるんで大丈夫です」
「油断しちゃダメですよ」
「はい!気を付けますね」
俺がグッと堪えていると、トールさんが肩を叩いて大きく頷いてくれる。
やっぱり、こう言う事って、男同士しか分かり合えないよね!
シアとリーザさんは俺の視線が、いやらしいて話で盛り上がっている。
ク・・・!
確かに言ってる事は否定出来ないだけに悔しい。
「でも、私の勘だと、最近二人がスゴく仲良いんで何か有ったのかと思ったんですけど、何も無かったようですね」
リーザさんの勘、恐るべし。
「そうですよ、リーザお姉様、ご主人様と私はそんなに仲良くなんてありませんよ」
「そうそう、そんなに仲良くなんてないですよ」
シアがプイッと横を向いて頬を膨らませている。
え!?シアが言ったの復唱しただけだけど、なんで拗ねてるの!?
「シア、何か拗ねてない?」
「私とご主人様はそんなに仲良くなんてありませんから」
「ほら!シアちゃんとラムさん仲良いじゃないですか!」
「いや、違いますって、これの何処をみて仲良く見えるんですか!?」
シアが更に横を向いて、いや、角度的には真後ろか!?
頬も先程の倍位膨らんで、なんか呪文を呟いている。
「抱き寄せて、キスしようとしたくせに、仲良くないってどういう事なの、やっぱり体だけが目的なんだ、これだから男って嫌いよ。ちょっと気を許すとこれだから」
「!?」
俺が声にならない声を出してリーザさんを見ると、冷たい目で見下ろしてくる。
物理的には見上げてる筈なんだが、何故か見下ろされている。
「ラムさん」
リーザさんの声で辺りの温度が一気に下がる。
「はい!」
「シアちゃんが言っている事は本当ですか?」
「えーと、まあ、あの・・・」
「どうなんですか?ハッキリ言って下さい」
「だいたい、事実ですが・・・」
「「!!!」」
トールさんが驚愕の表情で俺を見る。
「もう、シアちゃんとラムさんを二人で住ませる訳にはいきません。私もこの家に住みます!」
リーザさん何を言ってるんですか!
シアに小声で助けを求める。
「シア、話がすごい事になってる、ちょっと何とかしてくれ、明日はシアの好きな物を食べさせてやるから」
シアがチラッとこっちを見るがすぐにプイッとする。
「シア、お菓子を明日買いに行こう」
また、こちらをチラッとみて、やはりプイッと横を向いてしまう。
く、物では釣られないか・・・
もう、万事休すか。
「幸いにも、部屋が余っているようですし、ここに私も住んでラムさんが間違いを起こさない様に見張りますね」
トールさんに目線で助けを求めるが、首を横に振られた。
もうリーザさんの説得は諦めた。
布団も無いので今日の所はリーザさんには帰ってもらうことにして皆で送って行った。
帰りはシアと二人で家に向けて月明かりの中をランプ一つを頼りに帰って行く。
前みたいにシアが口を聞いてくれない。
せっかく仲良く馴れたと思ったのに逆戻りかー。
まあ、態度をハッキリしない俺がいけないのか。
「シアはリーザさんが一緒に住んでも良いの?」
「・・・」
あ!シアのこの視線、懐かしいけど、胸がちくっと痛む。
シアが俺の服を引っ張る。
「ご主人様はリーザお姉さまの事どう思っているの?」
「んー、以前は憧れていたんだけど、トールさんとの関係を見て諦めたんだ。トールさんには敵わないな、と」
「・・・今でも好きなの?」
シアの方は向かないで答える。
「分かんない。けど明日からリーザさんが家に居たら賑やかで楽しいそうだけど、シアとの時間が減っちゃうの寂しいと思ってる」
シアはそれ以上聞かないし、喋らなかった。
朝グッと背伸びをしてベットから起き上がる。
一階に移動すると良い匂いがしてくる。
「おはよう」
シアが気恥ずかしそうにして声を掛けてくる。
俺も内心ビックリしたが、平静を装い返事を返す。
「おはよう。ご飯作ってくれたの?」
「うん、まあ、私の仕事だからね」
余った材料で野菜炒めとスープを作ってくれたので、朝ご飯にする。
「美味しいよ!朝から温かいご飯食べれるなんて最高だね」
シアが嬉しそうに下を向く。
一晩寝てシアの機嫌が良くなったことにホッとする。
機嫌の良くなったシアと一緒にギルドに出社すると、プランさんにガツンと殴られるが、シアが飲み会の席での冗談であったと弁解してくれた。
トールさんとリーザさんにも誤解であったと説明してくれて、俺は無罪放免となった。
昼の休憩中にシアに聞いてみる。
「なんで、皆に嘘を言ってくれたの?」
「何となくよ、深い意味は無いけど、約束通り今日はお菓子買ってよね」
「今日は上の商店街を通って帰ろうか」
シアの金色の目が丸くなって、キラッと光った様に見えた。