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シア視点2

明けましておめでとうございます。


皆様のご多幸お祈り申し上げます。

本年も読んで頂けてら幸いです。


 ラムって名乗る若い男、変な質問ばかりしてきて大っ嫌い!

そんな男が私を身請けするって言う。

きっとこんなことや、あんなことまで命令されるに違いない、あの男を殺して逃げるか・・・自分で死ぬか・・・。


 奴隷商館から出て、知らない町を、知らない男に連れられて歩く。

赤く染まる街の景色が灰色に見えた。


 若い男は食堂に入って行く。

この隙に逃げられないかしら?

でも、腕には鉄の輪が嵌められている。

この鉄の輪が有る限り、逃げた先では最悪の事しか待っていない。

この腕輪さえ無ければ・・・


 なぜか私も店に連れられて入って椅子に座らせられる。

確かにここなら食事中も私を見張っておけるもんね。


「シアは肉と魚どっちが好き?」


ん?なんでそんな事聞くのよ・・・

私も食べさせて貰えるの?

でも・・・お店は高そうで、奴隷になる前だってこんな高そうな店、滅多に入らなかった。

私が肉って答えると二人分注文してくれた。


私の前に置かれたお酒。

お酒なんてお父さんも飲まないから、飲んだことない。

これを飲んだら嫌なこと忘れられるのかな・・・

恐る恐るワインに手を伸ばす。


「あ!ちょっと待って!」


殴られる!私は身を固くする。


「乾杯の前に腕出して」


腕を殴られるんだ・・・


目を瞑って腕を男に差し出す。


 しばらくしてガチャと音がして腕が軽くなる。

目を開けると自分の腕についていた、あの忌々しい鉄の輪が無くなっていた。

何が起きたのか理解出来ず男と自分の腕を何度も見てしまった。

なんで腕輪を外したの?なんで?

私には理解出来ない。


 料理が二人分運ばれて来て私も前にも並べれた。

お肉・・・お肉・・・いつぶりだろう。

食べて良いのかな・・・でも食べたら負けな気がする。

食べたい・・・でもこんな物で私は釣られたりしない!


「ほら、シアも食べなよ」


 空腹と目の前のお肉の匂い、食べたいよ。

ちょっとだけなら・・・食べてもいいかな・・・

肉の端をほんの少しだけ口に入れる。

口に広がるお肉が美味しくて美味しくて・・・

気付くと涙は止まらないし、手も止まらないよーー!!


 凄く美味しかった。

確かこの男の名前はラムザールて言ってた。

お父さんの言葉が思い出される。

「人に親切にしてもらったらお礼を言いなさい」

この男は嫌いだけど、お礼も言えない自分はもっと嫌い・・・

ラムの服を引っ張ってお礼を伝える。


「ご飯、ありがとう・・・美味しかった・・・」


 その後ラムについて行くとアパートの様な建物の一室に案内されて毛布を渡された。

ラムは隣の部屋に居るって言ってた。

きっと、後で呼び出されるか、この部屋に入って来るに違いない。

私は毛布にくるまって部屋の隅で膝を抱えながらその時を待った。


 気付くといつの間にか外は明るくなっている。

あれ?何もなかった?

その後も時間だけが経過していく。

隣に居るっと言っていたので恐る恐る隣の扉を叩く。


「どうぞ、空いてるよー」


ラムの部屋に入って驚いた。

ラムの部屋には何もないのだ。

毛布すらない。


「おはよう、シア。はは、ギルドマスターて言っても、十日位前までは無一文で、この町に来たからね。何も持ってないんだ」


はあ?何言ってるの?

十日前にこの町に無一文で来て、なんでギルドマスターで、なんで奴隷買えるのよ!

なんで一枚しかない自分の毛布を奴隷に貸すのよ!

なんで!?

昨日の腕輪の件と私には理解出来なかった。


 次の日、ラムに錬金術ギルドに連れて行かれて仕事を教わる。

錬金術ギルドのリーザさんはすっごく可愛い人で、良い匂いもするし、優しいし、リーザお姉様の様な人に買われたかった。

でも他の男達は大っ嫌い!


 ラムに連れられバザーに行く。

また信じられ無いことに、お金を渡され自由に買い物して良いって。

私の奴隷のイメージが間違ってたのかしら?

昨日の夜もそうだけど、今も逃げるチャンスはいくらでもある。

でも・・・


 マーケットとはヒューガルデンには無いものばかりで、商人の血が騒いで、どれもこれも興味がある品物ばかりだ。

一件の髪飾り屋の青いリボンに目を止める。

リボンを見ると小さい頃にお父さんが誕生日プレゼントに赤いリボンをくれたのを思い出す。

嬉しくて毎日着けてたお気に入りのリボン。


「シア、探したよ」


 ラムに声を掛けられた。

自分が夢中になって随分時間が経っていたのに気付く。

さすがに今度ばかりは怒るだろう・・・


「何、見てたの?どれか欲しいのあった?」


 怒られる事なく不思議な質問がくる。

ん?なんで怒らないの?

奴隷が帰って来なかったのよ、普通怒るわよね・・・

怒るどころか、青いリボンを買ってくれた。

これはあれかしら?

噂に聞く愛人って奴なのかしら?


 昨日に続いて朝も、昼も、夜もラムを同じ物を食べさせてくれた。

そんなラムについてギルド宿舎に向かって歩いて行く。

あれ!?宿舎を越えて更に進んでいく?

ん!!!

私はそこが何処なのか気付く・・・銭湯だ!

ついに来た!昨日は疲れてたから・・・

きっと銭湯の後に部屋に呼び出されるんだ!

奴隷商館で別の女性奴隷から聞いて話の通りだ。

良い人かもって思いかけてた自分が憎い、ちょっと優しくされたからって、男は信じちゃ駄目!絶対駄目!






 それから数日が経過したけど、変な事はされなかった。

でも、イヤらしい目では見てくるから、油断は出来ないよね。


 このギルドは居心地が良い。

この前、熱を出した時なんて、プランさんはお粥作って来てくれて、リーザさんもトールさんもお見舞いに来てくれた。

奴隷なんて事、まったく気にしないでギルドの一員として接してくれるのが凄く嬉しくて、私も皆の期待と信頼に応えたくて仕事を頑張りたいと思った。


 私のご主人様は不思議でスゴい人。

この前、カッとなって殴りかかってしまったんだけど、まったく当たらなかった。

途中から楽しくなっちゃって、本気で当てにいったけどそれでもかすりもしなかった。

リーザさんの話だと悪漢五人を倒してリーザさんを救い出したって言うし、結構強いみたい。

それにトールさんの話だと錬金術の腕前は天才だって。

現にスゴい金額のポーションを納品している。

私が一番驚いているのは商人顔負けの商魂!

それにすっごく優しいし、あのイヤらしい目さえしなければ完璧なのになー。

あれで全て台無しだよねー。


 ご主人様の仕事も順調で私も今の生活に慣れてきた。

そんな時、痩せてて頬に傷のある男が私に声を掛けて来た。


「シアさんですね?」

「はい、そうですが?」


この町に知り合いなんて居ないし、奴隷の私に用なんてあるはずもない。


「シアさんの過去を少し調べさせて頂きました」


心臓が大きく動いて心臓の音が大きく聞こえる。


「お父様は今もヒューガルデンで奴隷をされておりますよ」


ドックン、ドックン心臓の音が頭をいっぱいにする。


「聞いた話によると買い手がつかず近々炭鉱に送られると、あそこは地獄ですよ。送られた者は無事には帰って来ません」


痩せた頬に傷のある男はわざとらしくため息をついて、私を覗き込んでくる。


「でも、私はヒューガルデンの奴隷商と知り合いでして、お父様を助ける事ができます」


私は泣きながらその男にすがりついていた。


「なんでもするからお父さんを助けて下さい!」


男は満足げな笑みを浮かべて頷く。


「簡単な事ですよ、石鹸のレシピを私に教えて下さい」





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